変わりゆく当たり前
セイツェマンは輸送機から降り、久しぶりの母国を感じていた。広い滑走路の上で、他の生存者たちも喜びを噛み締めている。
「セイツェマンさん、このペンダントありがとうございます。おかげで研究が進みそうです」
「研究のお役に立てれるなら嬉しいです。頑張ってください」
「はい。ではまた」
テクノと別れると名前を呼ぶ声が聴こえた。
「おーい、セイツェマン!こっちに来い!」
セイツェマンはアモスの呼ぶ声に駆け寄った。そこにはジェルソン少佐をはじめ、顔なじみが揃っていた。
「全員生きてるな」
ジェルソン少佐が一人ひとりの顔を見る。全員、墜落時よりも顔はやつれ、傷だらけになっていた。
「第六艦隊はラースでまだ戦っているそうだ。合流のために明日の朝一番にここを出るぞ。それまでは各自休息を取ってくれ」
その場で解散となり、明日また集合することになった。
「セイツェマン、それにアモスも。怪我は大丈夫?」
「俺たちのことはいいよ。それよりランドル。お前が生きていて…本当に…良かった…」
アモスはランドルの顔を見るなり泣き出した。
「お前の治療をしてた時、本当に死ぬんじゃないかと心配してたんだぞ!」
「ごめん、アモス。でもおかげで良くなったよ。ありがとう」
セイツェマンは気になっていたことを聞いた。
「あいつらに変なことされなかったのか?私たちみたいに暴力されたりしなかったのか?」
「うん。とっても熱心に治療してくれたし、怪我人だからかもしれないけど暴力を受けたことはなかったよ」
「そうか、それなら良かったんだ」
アモスが涙を拭いながら鼻声で話した。
「なあ、何か食べないか。せっかく生きて帰ってこれたのに、腹が空きすぎて死んじまうよ」
ランドルとセイツェマンの笑い声が飛行場全体に響いた。
翌朝、痛む身体を我慢しながらセイツェマンは飛行機に乗り込もうとしていた。飛行場にはセイツェマンのような兵士が大勢おり、皆自身の持ち場へと戻るために飛行機を待っていた。
「ここは帝都の近くらしいぞ。もしかしたら途中で帝都が見えるかもな」
「それは楽しみだな」
セイツェマンとアモスが話していると、エンジンが動き、会話はかき消された。
するとジェルソン少佐が機内にいたセイツェマンらに言った。
「第六艦隊に我々の無事を連絡しておいた。バカラシントシで乗り換えるからな」
飛行機は発進し、地面を離れた。
飛び立って数分後、アモスは窓の外を見ながら話しかけた。
「おい、セイツェマン、ランドル。あれが帝都か?」
外を見ると大都市が広がっていた。が、至る所で煙が上がり、廃墟となっている場所も多いようだった。セイツェマンらが言葉を失っていると、街にサイレンが鳴った。
「このサイレン…空襲警報?」
セイツェマンがそう口にすると、街から白い煙を吐く光が飛び出した。その光が向かう先には、帝都へと向かう煙を吐く光があった。
「ミサイルだ」
ランドルが言う。帝都へと向かうミサイルの数本が空中で爆発したが、防空網を掻い潜ったミサイルは帝都へと着弾し爆発を起こした。その様子は、ラース地域での対レジスタンス戦を思い出させた。
「帝都ですらこの様子なのか…」
アモスが外を見ながら呟いた。すると、同じ機に乗っていた別の部隊の隊員が話しかけてきた。
「君たち、戦争が始まってから帝都を見るのは初めてか?」
それにランドルが答える。
「はい。戦争が始まってからずっとこんな感じなんですか」
「ああ、特に第一航空艦隊が負けてからだな。前線の支援に航空艦隊が出払ってるせいで帝都の防空が薄くなってるんだ。それに、皇帝陛下がいるバカラシントシも危ないらしい」
アモス、セイツェマン、ランドルの3人が驚き、ランドルが聞いた。
「バカラシントシも危ないんですか!第六艦隊はどうなったのか知ってますか?」
「第六航空艦隊はラースで奮戦してるみたいだが、流石に一個艦隊では敵の侵攻を止めきれてないらしい。援軍として艦隊の派遣が検討されたそうだが、オトシュ戦線の状況が悪いからそっちに戦力を割くことになったみたいだな」
「そうですか…。ラースの戦線の位置はわかりますか?」
「うーん、そこまでは知らないな。だが帝国領までは攻められていないと思うぞ」
「教えていただきありがとうございます」
「君たちはラースに行くのか?」
「はい。僕たちは第六艦隊の所属で、これから合流するんです」
「そうか、激戦になると思うが死ぬんじゃないぞ」
「はい。ありがとうございます」
それからしばらく飛んでバカラシントシに着いた。空から見るバカラシントシの様子は以前と変わらないように見えたが、降りてみると印象は変わった。次に乗る機体の準備を待つ間にセイツェマン、アモスは街を歩いた。
「アモス、これがバカラシントシなのか?」
「どうしたセイツェマン。何か変なところでもあったか?」
「この前来た時より明らかに活気がない。痩せてる人も多くなった気がする」
「そうか?曇ってるからそう思うだけじゃないか?」
「それに閉まってる店も多い」
「確かに、そう言われてみればそうだな」
通りに並んでいた店もほとんどが閉まっており、以前の活気は完全に無くなっていた。すると、活気のない通りに一際大きな声が響いた。
「帝国市民よ立ち上がれ!敵はもう間近まで来ている!今こそ国民が団結し、帝国の勝利のために尽くすのだ!」
大声で叫ぶその男の周りには人だかりができていた。その男は以前来た時に「国家主義」を主張していた男だった。
「すごい人だね」
ランドルがそう言うと、アモスが続けて話した。
「この前は全然人気なかったのに。なんで人気が出たんだろうな」
セイツェマンは少し戸惑いながら、男の話を聞いていた群衆の1人に声をかけた。
「なぜこれだけの人が集まってるんだ?」
「彼の言葉にみんな心を打たれてるんですよ」
「以前来た時はあの男の話を聞く人などいなかったと思うんだが、いつからこんな風に?」
「ここ数週間ですね。現実として戦争が近づいてきて、私たちは目覚めたんです。この国を私たちの手で守るには、あなた方軍人さんだけに働かせるのではなく、私たちの力も必要になると気づいたんです。昔のような世界最強の帝国を取り戻すために、汚い敵を世界から消し去るために私は全てを捧げるつもりです」
「…そうか。ありがとう」
飛行場に戻る途中で、とあるポスターが目に入った。
「民間都市防衛隊募集!国民よ、決戦に備えよ!」
セイツェマンが足を止めて見ていると、ランドルが声をかけてきた。
「セイツェマン!早く行こうよ!何見てるの?」
「いや、帝国も変わってしまったと思ってな」
ランドルはポスターをじっくりと見て、少し考えた後に話した。
「これまで帝国は一国だけで世界秩序を保ってきたけど、それはもう時代遅れってことかもしれないね」
「どういうことだ?」
「帝国は力だけで統治しすぎたんだよ。永久に世界を平和にするために、これからは協調する時代なんじゃないかな」
「うーん、私は世界を混乱させているオトシュ王国とかエアード王国に責任があると思うけどな。帝国が悪いとは思えない。これまでは帝国のおかげで世界が平和だったわけだから」
「…難しい問題だね」
すると、アモスが遠くから叫んだ。
「おい!2人とも!早くしないと怒られるぞ!走れ!」
アモスに急かされてセイツェマンとランドルは走り出した。
「よし、全員揃ったな。我々はこのA-2の改良型に乗って第六艦隊に合流するぞ」
ジェルソン少佐の後ろには、撃墜される前に乗っていた爆撃機と同じ形の爆撃機が駐機していた。
「これどこが違うんだ?」
アモスが興味深そうに機内に入る。
「具体的にはエネルギー装甲の強化と搭載量の増大らしいぞ」
ジェルソン少佐がアモスに答えた。
セイツェマンは座席につき、久しぶりの出撃準備にかかる。慣れない新品の匂いを感じながら、機器を確認していく。
「準備完了だ」
ヴェルン大尉がジェルソン少佐に伝える。
「了解。こちら第29A特務大隊一番機。離陸の許可を請う」
「第29A特務大隊一番機、離陸を許可する」
エンジンの出力を上げ、機体が振動し始めた。ブレーキが解除されると慣性を感じながら機体は速度を上げ、そして離陸した。
シグマ帝国と対帝国秘密同盟の戦いが始まって二度目の大規模戦闘が繰り広げられた。一度目の決戦では痛み分けだったが、二度目の決戦では帝国の敗北となった。徐々に追い詰められる帝国にかつての世界覇者の姿はなく、腐った部分から虫に食べられていく瀕死の狼のようであった。帝都は常に攻撃にさらされ、帝国市民の生活にも戦争の影響が現れ始めた。
崩壊しかかっていた帝国は最後の力を振り絞る段階に入ったのである。




