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惑星記  作者: フランクなカイザーフランク
第三章 対帝国秘密同盟
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一つの命、一つの使命

 オトシュ王国のシーヤ代表は、王都郊外にある捕虜収容所に向かった。先日収容されたというワンス将軍と会うためだ。雲が日光をさえぎり薄暗くなった飛行場に、シーヤの乗る機体は降り立った。移動中に会話はなく、無機質な顔つきでシーヤは尋問室の扉を開けた。


「ワンス将軍、お会いできて光栄です。私はオトシュ王国のシーヤと申します」


 ワンス将軍は静かにシーヤの目を見る。シーヤは形ばかりの笑顔で応え、ワンス将軍の正面に座る。厚さ50mmのガラス越しにシーヤは話し始める。


「ワンス将軍、あなたはずっと口を閉ざしているようですね。いい加減話したらどうですか?帝国の航空艦隊の動力。そして、帝国が持っている惑星記について。」


 ワンス将軍はシーヤの目をじっと見つめながら黙る。少しの沈黙の後、シーヤが口を開いた。


「あなたがそこまで話さないというのなら、こちらにも考えがあります」


 シーヤが後ろに立っていた兵士に合図すると、1人の帝国軍捕虜が尋問室へと連れてこられた。第一航空艦隊のワッペンをつけた捕虜の頭に銃が突きつけられるとワンス将軍は声を荒げ、ガラスを叩いた。


「おい!彼を撃つつもりか!やめろ!」


「ワンス将軍、落ち着いてください。私だって殺す気はありません。…ですが、ワンス将軍がお話にならないというのであれば引き金を引くように命令します」


「やめろ!撃つんじゃない!」


「噂では、第一艦隊の乗組員とワンス将軍は深いつながりがあるそうですね。一体どれほど強いものなのか、ここで検証してみましょう」


 そう言うと傍にいた兵士が工具を取り、その工具で捕虜の歯を抜き始めた。尋問室に捕虜の叫び声が響き、口からは血が流れる。ワンス将軍はガラス越しに見ることしかできず、必死にシーヤに訴えた。


「今すぐやめろ!捕虜への虐待は国際協定違反じゃないか!」


「はあ、国際協定違反ですか。あなたの口からその言葉が出るとは思いませんでした。あなたは帝国がこれまで無意味に殺してきた人々のことを覚えてないんですか?直近で言えばラース共和国での無差別爆撃や、サイシュ公国での航空戦艦による無差別対地攻撃があるじゃないですか。あなたは、あなたのお父様の大量虐殺に加担してきたことを忘れないでください」


 ワンスは黙ったがシーヤは続けた。


「ワンス将軍。私は言いましたよね。あなたが話してくれさえすれば、彼は解放されるのです。彼を助けたければ、あなたの知りうる全ての情報をお話しください」


 ワンス将軍は下を向いてた。その間、捕虜の視線はワンス将軍にあった。それは助けを乞う目ではなく、決意のこもった目であった。


「早くお話しください」


 赤くなった床に、白い歯が落ちた。ワンス将軍は顔を上げ、再びシーヤの目を見た。


「… すまないが私にそのようなことはできない」


「何をおっしゃっているのですか?あなたのせいで目の前にいる部下が苦しんでいるのですよ?」


「私には、これまで多くの者が命を懸けて守ってきた臣民と帝国を守る義務がある。それが将軍としての務めだ。それを放棄することはできない」


 捕虜の表情が少し和らぎ、シーヤはため息をついた。


「ワンス将軍、残念ですが厳しい手段を取る必要があるみたいですね」


 シーヤは捕虜を抑えていた兵士に合図を送り、銃の撃鉄を上げさせた。


「撃つつもりか」


「これはワンス将軍が選択されたことです。仕方ないでしょう。最後に聞きます、本当に話さないんですね?」


「話すことはない」


 捕虜が薄く笑った。


「撃て」


 発砲音と共に壁に血が飛び、捕虜の体は側にいた兵士に支えられた。そしてワンス将軍は泣いた。


「よし、次だ。入れろ」


 シーヤがそう言うと尋問室には新たな捕虜が連れて来られた。その頭には銃が突きつけられている。


「貴様!まだやるつもりか!」


「ワンス将軍がお話ししてくれさえすれば、すぐにやめましょう。それでも話さないおつもりでしたら、ご希望通りにやらさせて頂きます」





 ワンス将軍が牢に戻されると、同じ牢で第一艦隊所属の将校が声をかけた。


「将軍様、何かされましたか?」


「いや。何もされていない。ただ…」


 ワンス将軍は言葉に詰まったが、深呼吸した後に話した。


「…私は、部下を殺してしまった。部下すら守れない男に国が守れるのだろうか。世界を守れるのだろうか…」


 ワンス将軍は暗い牢で涙を流した。周囲にいた将校は目に涙を浮かべながらワンス将軍を見た。


「私は、世界平和のためだと父上に言われて戦場に立ってきた。だが現実は、部下すら守れず世界中に戦禍を広げているだけだ。これでは平和の使者ではなく悪魔だ」


「将軍様、我々は将軍様に命を捧げると誓った者です。きっと死んだ彼らも本望だったと思います。それに、この戦争は帝国の下で成り立っていた平和な世界を壊そうとする者たちが起こしたものです。将軍様が責任を感じる必要はありません」


「私は…力のない自分が憎い…。お前たちもすまない。私の弱さのせいでこんな所に居させてしまって」


「我々は将軍様について行くのみです。弱かったのは我々のほうでもありますから…」


 男たちは肩を振るわせながら、暗闇の中にいた。




 第一艦隊のやり取りの傍らで、セイツェマンらは壁にもたれ、黙って床を見ていた。何度もの拷問によって体は黒いアザで覆われ、顔は腫れ、歯の一部が無い者もいた。セイツェマンは爪を剥がされ、指に力が入らなくなっていた。全員、何かをする気力は起きず、ただ体力が回復するのをじっと待っていた。


「なあセイツェマン、ランドルは無事だと思うか?」


 顔が腫れているアモスがセイツェマンに聞いた。


「ランドルか。あまり気が強く無いから、もしかしたら耐えきれずに情報を言ってしまっているかもな」


「もしそうだったらあいつを殴らなきゃいけないな。俺たちを不安にさせた時点で一発殴ることは確定しているがな」


 セイツェマンは鼻で笑った。静寂が続いていた牢で久しぶりに笑った気がした。


「そうだな。私たちはこれだけ痛い思いをしてるんだから、心配をかけたランドルは痛い目を見ないとな」


 アモスもかすかに笑った。


 すると遠くから軍靴の音が近づいてきた。


「食事の時間だ」


 相変わらずの無表情で渡される食事は量も少なく、味気なかった。しかし、セイツェマンらは命を繋ぐためとにかく食べた。


 食事が終わり牢に静寂が戻ると、遠くでブザーが鳴った。他の捕虜たちが労働を始める時間らしい。ここ数日で分かったことは、どうやらセイツェマンたちや第一艦隊所属の兵士は帝国の軍事機密を持っている可能性が高いということで別の場所に収監され、他の捕虜たちは労働させられているということだ。


 セイツェマンが壁にもたれかかり睡眠を取ろうとしていた時、第一艦隊の将校が話しかけてきた。


「セイツェマンさん」


「はい?どうしましたか?」


「私は第一航空艦隊技術研究部所属のテクリです。すみませんが、そのペンダント見せてもらえませんか?」


「ああ、どうぞ」とセイツェマンがペンダントを渡すと、その将校は興味深そうにそれを見ていた。


「これ、どこで手に入れたんですか」


「確か、サイシュ共和国の市場だったと思います」


「これ、光ったりしませんか?」


 そのことは誰にも話したことがなかったのでセイツェマンは驚いた。


「は、はい。たまに光りますね」


「やっぱりそうですか!このペンダントについてる石、とても珍しい石なんです!」


「そうなんですか」


「高エネルギーの物に反応するみたいで、うちで研究してたんですよ!良ければこのペンダント譲っていただけませんか?」


「それはいいですが、サイシュ共和国の市場には似たような石がたくさん売ってましたよ。店主が遺跡から出てくるって言っていた気がします」


「本当ですか!これは調査する必要があるな…。とりあえず、このペンダント本当にありがとうございます!」


 将校はペンダントをじっくり眺めながら離れていった。


 すると突然館内に警報が鳴り響き、非常事態が宣言された。


「おい、何が起こってる」


 眠っていたジェルソン少佐は慌てて起きると周りの状況を確認した。遠くでは銃声や爆発音、人の怒号が聞こえる。


 次の瞬間、近くで爆発音が響いた。そして、歓声が上がった。


「帝国軍が来てくれたぞ!」


「ここだ!開けてくれ!」


 セイツェマンたちからは見えなかったが、近くの牢にいる捕虜が騒いだ。何人かの足音はこちらに近づいて来た。


「ワンス将軍様、救出のために参上しました」


 そこには全身を黒い装備で覆った帝国の特殊部隊の姿と共に、ランドルの姿もあった。


「ランドル!なぜここに!」


「説明は後でする。とりあえず出て!」


 牢の鍵が次々と開けられ、捕虜たちは一目散に飛び出した。


「飛行場に輸送機を駐機してあるから全員そこに向かってくれ!」


 全身黒の兵士が叫ぶ。セイツェマンらはランドルに駆け寄った。


「ランドル、無事だったか!」


「うん。みんなも生きてて良かった。早く行こう!」


 特殊部隊が爆破して作ったルートを進み、ワンス将軍やセイツェマンら捕虜たちは飛行場に出た。そこには帝国の紋章をつけた輸送機が扉を開けて待っていた。周りでは特殊部隊とオトシュ王国軍の間で銃撃戦が繰り広げられている。


「早く乗り込め!」


 黒の兵士の誘導に従って捕虜は次々に乗り込んだ。セイツェマンは窓の近くへと押されていった。


「全員乗り込んだ!出るぞ!」


 黒の兵士が合図を出すと、捕虜を載せた機体は浮き上がり始めた。他の機も浮き上がり、機内ではまたも歓声が上がった。セイツェマンの近くには第一艦隊のテクリがいた。


「セイツェマンさん、やりましたね!」


「はい。まだ実感が湧きませんが本当に嬉しいです」


 するとテクリが持っていたペンダントが光った。


「まずい!」


「テクリさん、どうしまし…」


 そう言った時、外が光り横を飛んでいた輸送機が爆発した。その輸送機は爆発を繰り返しながら地面に落ちて行っている。


 機内は混乱に陥り、制御不可能になっていた。叫ぶ者や泣く者、放心状態になる者など様々であった。


「落ち着け!皆、落ち着いてくれ!」


 ワンス将軍の声が機内全体に響き渡った。


「私はもう仲間を失ったりはしない!私を信じてくれ!」


 全員が黙り、機内には警報と他の機からの無線、周りで炸裂する対空砲、追撃してくる敵機とそれを撃墜する友軍機のエンジン音が響いていた。

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