次なる戦いに備えて
決戦後の第六航空艦隊はバカラシントシに帰還し、兵士達には少しの休暇が与えられた。この休暇を無駄にするまいとセイツェマン、アモス、ランドルは外出許可をもらい街へと繰り出した。
「そういえばセイツェマンはバカラシントシの孤児院出身だよな?挨拶に行かなくて良いのか?」
「私はあそこから解放されるために軍に入ったんだ。二度と戻りたくなんかない」
「本当にいいの?またいつ休暇があるかわからないよ?」
「いいんだ。彼らだって私の顔すら覚えてないだろう」
セイツェマンにとって、孤児院は幼少期の退屈だった時代を象徴するものだ。育ててもらった恩は感じつつも、過去を思い出させるあの場所には帰りたくなかった。気を使ってアモスが話題を変えた。
「そうか。なら、ここの近くにある市場に行かないか?」
「良いね。僕も本を買いたいし行こう」
「あれだけあったのにもう読み切ったのか」
「セイツェマンだって今週に入ってから3冊も読み切ってるよ」
3人が笑いながら通りを歩いていると、誰かが演説をしていた。しかし、その者の前で足を止める者はなく、それでもなお男は大声で訴えていた。
「今、我が帝国は窮地に立たされている!なぜなら国民が国の利益より自分の利益を優先しているからだ!過去の人々は帝国の栄光のために命を捧げた。それを見習い我々も団結すべきだ!帝国が再び栄光を勝ち取るにはそれしかない!国のために働こうではないか!」
2人が買い物をしている間、セイツェマンはその男の演説を聞いていた。すると、通りすがりの老人が話しかけてきた。
「軍人さん、あれが気になりますか」
「はい。私がこの街を出た時にあんなことを言う人は見なかったもので」
「最近、ああいうことを言う人が増えてきてるんですよ。なんでも、東の方のミニーム共和国で生まれた、確か…『国家主義』でしたかな?の思想らしいのですわ」
「そんなものが流行っているのか」
「はい。この国は皇帝様や軍人さんが守ってくれている安心感があるのでああいった論説に流される人はいませんが、一部の人間が影響されているようなんですよ」
「そうなのか、教えてくれてありがとう」
「いえいえ。ああいうのを真面目に聞くと周りから変な目で見られますから気をつけたほうがいいですよ」
そう言うと老人は立ち去っていった。アモスとランドルが集合し、ランドルが話しかけてきた。
「セイツェマン、さっきは何を話してたの?」
「あの演説を聞いていたら老人が話しかけてきてな。あれは『国家主義』という新しい思想なんだそうだ」
「そんなのがあるのか」
「そうらしい。国家を最優先する考え方で、国民は国家のために”奉仕”するんだそうだ」
「まるで軍隊だね」
「全くだ。戦時下の環境がそうさせているんだろうが、早くこれまでのような街に戻ってほしい」
「そのためには俺たちが頑張ってこの戦争を終わらせないとな」
その後セイツェマンたちは艦隊に戻り、いつ来るかわからない出撃要請に備えた。
同じ頃、バカラシントシでは今や皇帝の宮殿と化しているシクス将軍邸で五将軍会議が開かれた。皇帝自らが出席したものの、フィフス将軍は未だ不在だった。
「第一将軍のワンスです。フィフス将軍は一命を取り留めましたが、まだ安静が必要ということで欠席です。今日の議題は今後の作戦計画についてです」
参加者に資料が配られ、ワンス将軍は話し始めた。
「我々が敵と対峙するにあたっての1番の懸念事項は”特殊砲”と呼ばれる光を発射する大砲です。皆さんがご存知のように、フィフス将軍と第五艦隊はこれにやられました。発射される砲弾の速さは、推定ですが… 音速の約9倍だそうです」
他の将軍は少し動揺したが、ジース将軍は冷静に質問した。
「その程度なら迎撃可能だと思いますが、何が問題なのでしょうか」
「しっかり狙って撃たれると、こちらは何も手出しできないというところです。サイシュの科学者たちに特殊砲を製作させたところ、完成した砲から発射される砲弾の初速は音速の約20倍にまで達します。前回のような近距離戦闘になると、偏差なしでほぼ確実に当たります。発射前に気づいたとしても狙われ続ける限り当たります」
「つまり、我々は敵の目から見えないところにいなければならないと?」
「そういうことになります」
「艦隊防空装甲で特殊砲は防げないんですか」
第三将軍サースが言った。
「実験の結果では、今のエネルギー装甲では防ぐことはできません」
部屋がざわついた。しかし、ワンス将軍は話し続ける。
「ですが、特殊砲にも弱点があります。特殊砲は発射のためにエネルギーを大量に必要とするため、発射後はしばらく身動きが取れなくなり、次の発射までに最低でも1時間は要します。我々は何としてもここを突かなければなりません。そこで第三航空艦隊の主力艦にこの前搭載した新型砲を使います。A-5 加圧砲です」
するとワンスは図を広げた。
「A-5では従来型の火薬ではなく、小型のA-1爆弾を火薬として使います。砲身には帝国が量産に成功したA-1爆弾の爆発にも耐えうる金属を使用しました。しかし、連続発射すると砲身が壊れる可能性が高いので10発程度が使用限度です」
「特殊砲の開発はまだできていないんですか」
シクス将軍が聞いた。
「特殊砲は設計図など何もかもが盗まれた状態で、実戦用の安定した砲はまだ完成していません。なので、ひとまずはA-5砲でしのぎます」
「大丈夫だシクス。我々第三艦隊が一撃で仕留めて見せるさ」
話が一旦落ち着き、次の話題に移った。
「それでは次の議題です。旧ラース共和国地域で広がっているレジスタンス運動にどう対処すべきでしょうか。各将軍の意見を聞かせてください」
すると、第四将軍シンが発言した。シン将軍は、侵略戦争時代に現皇帝が戦地の愛人との間に作った子だ。皇帝は侵略戦争時代にそれぞれの戦地で愛人を持ち、シン将軍はそれら愛人との間にできた唯一の子とされている。そのため最初は将軍とすることに反論があったが、皇帝の意向で将軍に就任したのだった。
「敵との内通や、国内での大規模な反乱を防ぐためにも徹底的に取り締まるべきです」
ジース将軍がシン将軍に質問した。
「シン将軍。我々は今、敵から攻められる可能性が高いのです。そんな時に貴重な戦力を治安維持に充てている場合ではないのではないでしょうか」
サース将軍が続けてワンス将軍に聞いた。
「もし敵航空艦隊が攻めてきたとしてそれが特殊砲を持っているなら、我々は敵の視界外から攻撃するのでそこまで戦力は必要ないのではないですか?」
「はい。十分な防空戦力さえあればこの前の決戦ほどの戦力は必要ないと思われます」
「なら、ラース方面に治安維持部隊を送ってもいいんじゃないですか?」
「そうですね。なら、任務はラースに近い第六艦隊に任せましょうか」
心の準備ができておらずシクス将軍は焦って返事をした。
「よろしいですが、特務大隊はいらないんですか?」
「第一艦隊には101戦闘爆撃隊がいるし、第三艦隊も防衛任務に就くので大丈夫です」
会議が終了しようとしていた時、ずっと黙っていたルーサス皇帝が話し出した。
「皆、帝国のためによく働いてくれている。皇帝として心から感謝する。皆に伝えなければならないことがあるから少し聞いてほしい」
将軍達は姿勢を正し、皇帝の話を聞いた。
「以前も話したように、惑星記は帝国の研究機関で解読されている。そのほとんどがこの惑星であった出来事や、かつて存在した文明が開発した技術などなのだが、その中にいくつか予言が存在することも確認された」
将軍達は息を呑んだ。
「その予言にはこう書かれているらしい。『が揃いし時、地は揺れ天は割れ、いずれ文明は跡形もなく惑星から消える』と」
将軍達が動揺する中、ワンス将軍は皇帝に質問した。
「何が揃った時なのでしょうか」
「わからん。解読不能だそうだ」
会議は終了し、各自それぞれの艦隊へと戻っていった。シクス将軍はルーサス皇帝と将軍らを見送った。日はすでに沈んでおり、空には星が輝いていた。
「シクスよ、またお前は出撃するのだな」
「はい。帝国を守るのは私の使命ですから」
「立派になったな」
父親から褒められてシクスは嬉しかった。ルーサスは暗い空を見上げながら話を続けた。
「この世界も終わりが近いということかもしれんな。これだけ戦争が起これば人類が滅ぶのも納得だ」
「父上、まだ滅ぶと決まったわけではありません。なのでどうか悲観なさらないでください」
「少し、街を歩いてくる」
「私も行きます」
「いや、いい。警護もいるから安心しろ」
そういうと皇帝ルーサスは暗くなった街へと歩いていった。
翌日。シクス将軍は第六艦隊を召集した。結局、昨日は皇帝が帰ってくるまで起きっぱなしだったのでシクスは寝不足気味だった。
「ラース地域で反帝国運動が盛んになっているという情報が入った。そこで我々はラース地域の治安維持を任されることになった。オトシュ国境では友軍が戦っている。彼らの後押しができるように各員、奮闘してほしい」
シクス将軍の演説の後、アモスがセイツェマンに話しかけた。
「激戦の次は治安維持だと気が抜けるな。あっちでは今日も戦ってるっていうのに」
「まあ、安全なところで仕事できるなら私はそれでいい。死ぬ可能性は低い方がいいからな」
「戦うために軍隊に入ったってのに、これじゃあな」
アモスはその後もぶつぶつ言っていたがセイツェマンは無視することにした。母艦はゆっくり動き始め、ラースに向けて進んだ。途中、空からはかつての戦場を見ることができた。砂漠には敵味方の黒い残骸が散乱し、今にも砂に埋もれてしまいそうだった。
「戦いすぎて初めての戦争を忘れるところだったよ」
ランドルがセイツェマンに話しかけた。
「ああ。あの頃は戦争が怖かったし戦争が起こる世の中が変に見えた。でも今ではどうってことない。慣れが1番恐ろしいな」
砂漠に反射した太陽の光が、より鮮明に過去の跡を目立たせていた。




