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惑星記  作者: フランクなカイザーフランク
第二章 サイシュ公国戦争
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公国の光

 セイツェマンらが何度目かの補給のために母艦にいた時、突然警報が鳴り響いた。補給中だった機体は脇にどけられ、エレベータに乗せられた攻撃機が甲板に並べられた。そこへジェルソン少佐が走ってきた。


「敵艦隊が発見されたそうだ。攻撃隊の出撃を優先するから特務大隊は邪魔をしないように」



 艦橋ではシクス将軍やルビウス艦隊長をはじめ多くの人が敵艦隊への攻撃に向けて動いていた。


「敵の位置は?」


「ここから北西に100km程です」


「敵攻撃隊は出てきたのか?」


「レーダーには映っていません」


「敵の規模は?」


「戦艦6、大型空母5です」


「主力艦だけなら戦艦3、正規空母4のこちらが劣っているのか」


 情報解析が行われる中、攻撃隊は次々と発艦していった。第29A特務大隊は全機発艦後、発艦することができた。


 セイツェマンに対してランドルが話しかけた。


「いよいよ島に近づいてきた感じがするね」


「ああ。もう一度気を引き締め直さないとな」


 それ以上会話は続かず、それぞれの持ち場に戻った。無線からは味方攻撃隊の動向を知ることができた。


「敵との距離およそ60km。敵の迎撃に十分警戒せよ」




 一方で公国艦隊のマンター海軍中将は帝国の攻撃機が接近中との報告を聞いていた。


「すぐに迎撃隊と本土の攻撃隊に出撃命令を出せ」


「まだ敵艦隊の位置も分かりませんがよろしいのですか?」


「もうすぐわかるはずだ。それと例の特殊砲も発射準備を始めてくれ」


「了解しました」




「こちら帝国軍上陸部隊司令部!敵の迎撃隊をレーダーで確認!警戒せよ!繰り返す、警戒せよ!」


 攻撃隊の下方から公国の戦闘機が突き上げた。攻撃隊は態勢を立て直し、敵艦隊へと向かっていく。その間も戦闘機は攻撃を当てていき、攻撃隊に被害が出始めた。


「速度を上げて振り切るぞ!」


「敵艦隊視認距離までもう間も無く」


 攻撃隊のうち何機かは振り切ることに成功した。


「敵艦隊を発見!攻撃開始!」




 マンターは帝国の攻撃隊が迫ってくるのを艦橋からじっと見ていた。


「マンター艦隊長!数機が迎撃網を抜けました!」


「特殊砲を発射しろ」


「了解。総員対衝撃警報。特殊砲にエネルギー充填開始」


 戦艦に取り付けられた大砲の一つが砲口を光らせながら攻撃隊に向けて砲身を動かした。


「砲の誤差修正完了」


「エネルギー充填完了。いつでも撃てます」


「撃て」




「シクス将軍様!攻撃隊との連絡が全て途絶えました!」


「何?レーダーには映ってないのか?」


「全機ロストしました!」


「何が起こってるんだ」


「他の確認手段は試したのかね?」


 ルビウスはそう聞いてみたがどの手を使っても連絡不能だった。一度に全てが消えることなどあり得ない。しかし、もしそうなったのだとすれば上陸作戦を中止せざるをえなくなる。


「見張り兵より報告!敵の偵察機と思われる機影に見つかったとのことです!」


「レーダーで西に敵の攻撃隊を発見しました。こちらに向かっています」


「待機させていた迎撃隊を向かわせてくれ。それと防空艦は対空ミサイルの発射を命じる」


 するとドーゲン将軍補佐が、指揮をとっていたシクス将軍に対して進言した。


「将軍様、攻撃隊全てが一瞬で壊滅したとは到底思えません。状況がわからない今は防衛に専念するのがよろしいかと」


「わかった。一部の者だけで攻撃隊との通信回復に努めてくれ。防空が最優先だ」


「防空戦隊よりミサイル発射します」


 艦隊から数十本のミサイルが発射され、西の空へと消えていった。着弾までのカウントダウンが始まっている。


「シクス将軍様、戦艦に主砲の使用を許可しますか?」


「そうだな、対空弾の使用を許可する。すぐに発射準備をしてくれ」


「ミサイル着弾しました。12機撃墜です」


「間も無く迎撃隊が接敵します」


「速度から考えて敵の攻撃機はあの新兵器を持ったレシプロ機で間違いないと思われます」


「接敵しました。レシプロ機がおよそ10機、それ以外の爆撃機が30機、戦闘機多数とのことです」


「輸送船の護衛が最優先だ。もしあの光の束を撃たれても必ず庇うように命令せよ」


「了解しました」


 輸送船を中心とした円形陣に向かって迎撃隊に追われながら敵機が降下してきた。


「主砲をレーダーと連動させて対空弾発射せよ」


「了解。レーダーと連動させます」


主砲が動き、発射警報が鳴り響く。


「発射!」


轟音を立てて対空弾が発射され、敵機の前で炸裂した。砲弾の破片が機体に当たって燃えている。


「数機を撃墜した模様です」


「続けて対空システム起動。レシプロ機を優先せよ」


「システム起動しました。中距離砲射撃開始します」


 防空艦から射撃が始まり、次々と敵機を落としていく。だが、大砲を乗せたレシプロ機は勇敢に黒煙の中を突っ切ってくる。


「第一防御線抜けられます」


「近距離防空システムを起動します」


「各艦も砲撃戦開始せよ」


 高角砲、機関砲の光や煙が入り乱れ、空中にいた敵機のほとんどを撃ち落とした。生き残った数機は海面近くを飛んで艦隊への接近を試みた。海面の光を反射して光る機体は飛魚のようだった。


「敵機、低空飛行に入りました!」


「砲身光ってます!」


「射線上に駆逐艦を進めよ。絶対に輸送船には当てるな」


 敵が一機、また一機と海中に消えていく中、砲身を光らせているレシプロ機は輸送船を照準にとらえた。


「駆逐艦間に合いません!」


 次の瞬間、レシプロ機は翼をもぎ取られて海中に消えていった。どこかの艦の砲弾が当たったらしい。レシプロ機がいた場所には風に流されていく黒煙があった。


「敵の攻撃は今ので最後だと思われます」


 シクス将軍は椅子に腰掛け、深いため息をついた。すると司令部宛に無線が入った。


「ーーこちら第一次攻撃隊。司令部聞こえますかーー」


「こちらはルビウスだ。はっきり聞こえているぞ。一体何があったか教えてくれるか?」


「はい、迎撃網を抜けた第二中隊が爆撃態勢に入った時でした。艦隊の中央にいた戦艦からあの光の束が発射されて空中で大爆発を起こしたんです。第二中隊は全滅し、数機も爆発に巻き込まれて行方不明です」


「君たちは帰還中なのかね?」


「はい。攻撃続行は不可能と判断し帰還することにしました」


「わかった、報告ありがとう」


 通信を終えたルビウスがシクスの座っている場所まで歩み寄ってきた。


「シクス将軍様。敵は船にもあの新兵器を装備しているそうです。このまま艦隊を突っ込ませれば相当の被害が予想されます」


 ルビウスは言葉に詰まった後、深々と頭を下げた。


「…大変失礼ですが、シクス将軍様の第29A特務大隊をお貸しいただけないでしょうか。もし何かあれば私が責任を取ります。ですからどうか…」


 他の乗組員が見る中、シクスは口を開いた。


「そんなことを気にしていたのか。特務大隊はこの艦隊配属なんだ。艦隊長である君は遠慮なく使ってくれ。もし損失が出たとしてもその時は私が責任をとるから安心しろ」


「…本当にありがとうございます。この御恩はいずれ返させていただきます」


 そうしてセイツェマンたち第29A特務大隊は哨戒任務を外されることになった。突然の出来事に隊員たちは訳がわからないまま航空母艦に集められた。


 ルビウス艦隊長が隊員の前に現れ話を始めた。


「諸君らには潜水艦哨戒任務に当たってもらっていたが、任務を変更させてもらった。君たちには敵艦隊への爆撃任務を行ってもらう。それでは今から説明を始める」


 部屋の中が騒がしくなり、隣にいたアモスがセイツェマンに話しかけてきた。


「どういうことだよ。俺たちはシクス将軍直属部隊だから前線に出るはずじゃないだろ」


「わからない。だけど僕らを出さなきゃならないくらい戦局が悪いんだろう」


 騒がしい中、ルビウスは説明を始めた。


「先刻、第一次攻撃隊が敵艦隊に向けて出撃した。しかし結果は失敗し、損耗率が50%を超えた。報告によると敵の戦艦に諸君らも見たであろう光の束を発射する奴がいるらしい。そこで帝国一の装甲を持つ君たちにこの戦艦の攻略をお願いしたい。もちろんシクス将軍には許可を取ってある。この通りだ。頼む」


 ルビウスは頭を下げた。隊員たちが困惑していた時、ジェルソン大隊長が話しかけた。


「艦隊長、頭を上げてください。我々は帝国に尽くすためにここにいます。どんなことでもそれが国のためならなんとしてでもやり遂げます。我々は帝国軍人ですから」


 招集終了後、第二次攻撃隊が編成された。特務大隊のA-2爆撃機にも爆弾と燃料が積み込まれていく。


 その様子を見ながら座っているセイツェマンを見かけて、ランドルが駆け寄ってきた。


「戦いの前にはいつも不安そうだね」


「ランドルか。ああ、私はいつもわからなくなるんだ。自分が死ぬのが怖いのか、誰かを殺すのが怖いのか。でもここで戦わなければ誰かが死ぬ。それが戦争だって最後には思うんだ」


「今回も大丈夫だって。なんて言ったってうちの装甲は世界最高の盾だからね。何も不安に思うことはないよ。ただ仕事をこなすだけだよ」


 A-2をはじめ多くの機体が空に飛び立った。レーダーと偵察機の情報をもとに敵艦隊へと進路を向ける。


「全員気を引き締めろよ。我々特務大隊がこの戦いの鍵を握っているんだからな」


 ジェルソン機長が部隊全員に呼びかける。セイツェマンは拳を握り締め、新たな戦いに身を投じる覚悟を決めた。


 後に「サイシュ沖海戦」と呼ばれるようになる侵略戦争後初めての大規模海戦が行われた。公国の命運を握るこの海戦の裏では着実に世界大戦に向けた計画が進められていた。


 セイツェマンにとって対公国戦が始まって何度目かの出撃である。

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