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惑星記  作者: フランクなカイザーフランク
第二章 サイシュ公国戦争
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公国海軍出撃

 輸送船団は回避行動をとった。しかし、戦闘艦は回避できたが輸送船はまだ大きく転舵している最中だ。そこに向かって魚雷は突き進んでいく。


 すると、駆逐艦の一つが船首で輸送船を押し始めた。他の艦艇も輸送船を押し、なんとか全ての魚雷の回避に成功した。回避成功の報を聞いて胸を撫で下ろしたシクス将軍はこう告げた。


「特務大隊に連絡。A-1 爆弾を投下せよ、と」


 ジェルソン少佐は爆撃機内でその命令を聞いていた。機長は大隊の全機に空域からの離脱を命令し、隊長機1機だけが敵の潜水艦隊に向かっていった。


「みんな、ゴーグルはつけたな。わかっていると思うが光が強いから気をつけること。それと投下後は高速で離脱するから衝撃に備えろよ。じゃあキース、爆撃準備だ」


 機内にはこれまで経験したことのないような緊張が走る。前回は特別作戦だから緊張していた。だが、今回はこの爆弾がどれほどの威力を持っているのか知っているからこそ来る緊張がある。作戦遂行に対する不安はない。自分の命に対する不安もない。あるのはただ、世界が変わってしまうかもしれないという不安だけだ。


「爆撃態勢に入る。爆弾倉開け」


 機内全員がゴーグルをつけて閃光に備える。そして、爆弾倉の扉は開いた。海面下には潜水艦の艦影が見える。


「投下!」


 爆弾が切り離されると機体は旋回し、スピードを上げた。ガタガタと揺れる機内で、いつ爆発するのかと身構えていた。爆発までの数十秒は永遠の時かのように思われた。


 後ろで強烈な光があった。自分の影がはっきり映り、時が本当に止まったかと思った。


 閃光の後、外を見ると大きな水柱と共に潜水艦が打ち上げられていた。中にはもう折れてしまっているものもある。中にいる者はもう生きてはいないだろう。そして、爆心地からと思われる衝撃波で海面が揺れていた。それはどんどんこの爆撃機に追いついてくる。


 機長たちが艦隊と連絡をとっている時にそれは追いついた。機体は上下に揺れ、爆発の大きさを物語っている。




 爆撃からしばらく経った頃、セイツェマン達は威力の確認のために再び同じ海域に来ていた。海面には重油が浮かんでいる。


「こりゃすごいな。あんだけいた潜水艦が一瞬で無力化されてるや」


「残念だけど海は蒸発しなかったな」


 アモスは少し微笑んだが、再び真剣な顔に戻った。


「この前使った時は跡形も無さすぎて何とも思わなかったけどよ、こうして被害が目に見えると心にくるものがあるな」


「ああ。早くこんな戦争終わらせるべきだな」


 いろいろと調査した後また哨戒任務に戻ったが、それから潜水艦が来ることはなかった。




 サイシュ公国のキーウェルには航空偵察隊からの連絡が届いていた。出撃していた第一潜水戦隊の行方がわからなくなっていたからだ。文面を見たキーウェルは目を疑った。そこには潜水戦隊全滅の文字が書かれていた。


「おい!全滅とはどういうことだ!そんなわけないだろう!」


「キーウェル閣下、これをご覧ください」


 手渡された写真には海面に浮く重油が写っていた。


「ひとまず関係者を集めてくれ。緊急会議を開く」



 会議室に全員揃っていることを確認すると、キーウェル海軍大臣から説明があった。


「第一潜水戦隊の行方がわからなくなっていましたが、先ほど報告があり、全滅したということです」


 会議室が騒がしくなった。アベルノ公爵も動揺を隠せない様子でキーウェルに問いかける。


「全滅というのは本当かね?何かの見間違いじゃないのか?」


「私もそう思いましたがこの写真を見ればわかります」


 キーウェルがスクリーンに重油の浮く海の写真を投影すると、会議室にいた者は絶句した。


「この写真からもわかるように潜水艦は全滅しました。おそらく生存者もいないものと思われます」


 すると部屋に将校が1人入り、座っていたマンター潜水艦隊長に耳打ちした。


「お話の途中に失礼します。第一戦隊の生き残りが帰ってきたそうです」



 第一潜水戦隊で生き残ったのは1艦のみだった。その艦も満身創痍で通信機器は全て壊れていた。その乗組員が会議に召喚された。召喚された乗組員はどこか怯えた表情をしていた。


 キーウェル海軍大臣が乗組員に状況説明を求めた。


「一体何があったのか教えてくれるか」


「はい。何事もなく敵の船団に近づいて魚雷を発射した後に潜望鏡深度まで潜航しました。ですが魚雷は全てはずれ、次の機会をうかがおうということでさらに潜航するために準備していた時でした。爆発音の後に艦が持ち上げられて海面に出ました。その時何が起こったのかよく覚えていませんが、気がつくと艦隊からは離れて我々の艦だけが海に浮いていました」


「爆発があったということだな?」


「はい」


 少し沈黙があった後、乗組員は思い切ったように話し始めた。


「こんなこと申し上げるべきではないと思いますが、この国は一刻も早く戦争をやめるべきだと思います。この国が圧倒的な力を持つ帝国に太刀打ちできるとは思えません」


「何を言うのだ!この者を連れて行け!」


 会議に出席していた他の大臣の命令で乗組員は外に引っ張り出された。


「もしかすると帝国があの新型爆弾を使ったのかもしれません」


 マンターがそう言うと全員が静まった。皆、新型爆弾の存在を知らないわけではなかった。しかし、まさかこの国に対して使われたとは思えなかったのだ。


「いずれにしろ、作戦の変更が必要になるかと思います」


 しかしマンターの意見に何人かの将校が反対した。


「帝国といえど新型爆弾を短期間でそこまで多くは製造できないでしょう。なのでいくら威力が大きいと言えど爆弾のことはそこまで脅威として恐れる必要はないかと思います」


「私も同意見です」


 会議室中で議論が交わされる中、アベルノ公爵も爆弾はそこまで脅威として見なくても良いのではないかと言ったことで方向性は固まった。


「それではこれまで通り、作戦を続けたいと思います」


 話が落ち着くとキーウェルが話し始めた。


「敵がこのまま進めば1週間後には本島に到達すると思われます。ですから上陸を阻止するために海軍・空軍の総力を上げて迎え撃ちます。作戦開始予定日は2日後です。敵の船団を待ち伏せし、一気に叩く作戦です。詳細は各部門ごとに個別に連絡します」


 会議終了後、キーウェルはアベルノ公爵に呼び出された。


「キーウェル、例の件はうまく進んでいるのか?」


「はい、今は調整中です」


「あれにこの国の全てがかかっている。何としても成功させてくれ」


「承知いたしました」



 晴れやかではない空の下で、サイシュ公国海軍は出撃準備を行なっていた。旗艦にはマンター海軍中将が乗艦していた。


「マンター司令官、出撃準備できました」


「全艦出撃だ」


 汽笛と共にサイシュ公国海軍の全艦艇は出撃した。空は雲に覆われ、海は荒れていた。

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