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惑星記  作者: フランクなカイザーフランク
第二章 サイシュ公国戦争
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機動艦隊戦

 霧に包まれた静かな海に、騒がしい船が浮かんでいた。

 飛行甲板には戦闘機や爆撃機など多種多様な機体が出され、その周りで多くの人が作業している。やっと名前がつけられた新型機「A-2 装甲爆撃機」には他の機体より多くの人だかりができていた。


「セイツェマン、ついに始まるね」


 ランドルが後ろから声をかけてくる。


「ああ、ワクワクするけど若干不安な気持ちもあるな」


「大丈夫だって。なんて言ったってうちの飛行機には装甲がついてるんだから。並の攻撃では壊れないよ」


「そうだな」


「おーい、出撃前の確認をやるから2人ともこっちに来い」


 ジェルソン少佐に呼ばれて、2人は出撃準備に取り掛かった。


 作戦開始にあたって、攻撃隊全員が甲板に集められた。艦橋から甲板を見下ろす形で艦隊長が現れると、甲板にいる全員を見渡して、話を始めた。


「この海で公国と戦えるのは我々のみだ。帝国自慢の航空艦隊や他の海上艦隊は一切助けに来てくれない。普通に考えればこれは絶望的状況だろうが、我々にとってはチャンスだ。公国は、たとえ帝国といえども何の援護もない一個艦隊では何もできないと思っているだろう。この油断を上手く使って奴らを打ち負かしてやれ!帝国の最後の一兵までもが100万の兵に値することを見せつけてやれ!この一戦に第三海上艦隊全員の命、本土にいる国民の命、そして帝国の命運までもが懸かっている。諸君らの武運を祈る。以上で終わる」


 話が終わると、どこからともなく帝国万歳の声が聞こえてきた。どんどん大きくなるその輪は甲板上だけでなく艦隊中に広がった。


 機体に乗り、最後の調整を行う。弾薬は十分、回転銃座の調子も悪くない。空を見上げるとさっきまで出ていた霧は晴れ、雲ひとつない青空だった。翼下にも爆弾やミサイルが取り付けられ、戦闘準備は整った。出撃だ。


 エンジン始動の合図で機体は揺れ始める。発進位置につくと手を振る整備兵の姿が見えた。思わず手を振りかえす。


「こちら第29A特務大隊1番機。発艦する」


 機長の声の後、新型機A-2 は飛行甲板から飛び立った。もう戻ってくることはないかもしれないとセイツェマンは思うのだった。


 攻撃隊全機が出発してから20分ほど経った頃、無線が入った。


「敵艦隊から敵攻撃機と思われる機影を多数確認。攻撃隊の直掩機の一部はこれを迎撃せよ」


すると、ジェルソン機長はキース中尉に話しかけた。


「おいキース。敵がレーダーで見えるか試してくれ」


「ちょっと待ってくださいよ」


 機長に言われてキースはモニターを確認する。


「見えました。2時の方向で1000m下方に敵集団です」


「ヴェルン。無線で迎撃隊に敵の位置を教えてくれ」


 ヴェルン副操縦士が無線で連絡した後、戦闘機は次々と降りていった。下の方を見るとギラギラ光る敵機の編隊が見えた。大きな飛行機を中心に菱形のような形で飛んでいる。よく見ると中心にいる大きな飛行機はレシプロ機で、機首には大きな砲身が突き出ていた。


「おい、みんな見ろ。レシプロ機に大砲のっけてるぞ」


 アモスがそう話す。レシプロ機といえば侵略戦争初期から中期にかけて使用されていた骨董品だ。そんな旧式機にのっている大砲で艦隊がやられたとは、とても信じられない。


「敵に突撃する!」


 無線に入る迎撃隊の音声はまるで映画を聴いているみたいだ。しかし、下では実際に戦闘機が戦っている。爆撃機から伸びる曳光弾の筋を華麗に避けながら戦闘機たちは次々に敵機を落としていく。さすがは帝国軍と言える。


 それからしばらく経ち敵艦隊まで間も無くとなったところで、頭上をミサイルが通り過ぎていった。味方艦隊から発射された対艦ミサイルだ。攻撃隊の到着より10分前に着弾するように調整されている。

 すると無線ではミサイル着弾のカウントダウンが始まった。


「… 3、2、1、着弾」


 相変わらず敵の姿が見えないから戦果がどのくらいかわからない。


 厚い雲を抜けるとアモスが大声で叫んだ。


「敵艦隊が見えたぞ!!」


 敵艦隊は数隻の空母や戦艦などの巨大軍艦を中心に円状に広がった配置をしていた。

 敵は攻撃を予測していなかったのか、敵迎撃隊に遭遇することなく辿り着くことができた。戦闘前に最後の確認を行う。


「弾薬よし。銃座よし。機体の残エネルギー量よし。戦闘準備よし」


 第29A特務大隊は艦隊の周りを回るように飛び始めた。他の隊が第一波攻撃を開始する。


「こちら第一爆撃隊。敵艦隊へ突撃する」


 日光で白く光った爆撃隊が、青い海に浮かぶ黒船相手に飛び込んでいく。敵の猛烈な対空砲にさらされて火だるまが増えていく。しかし、数機は爆撃に成功し艦隊の外側にいた駆逐艦などに爆弾を命中させている。他方では魚雷を発射したのか、海に白い筋が何本も走っていた。そのうちの一本は敵の戦艦に命中し爆発を起こしている。


 一見すると敵の艦隊はいくつもの船が燃えており帝国の優勢に見えるが、実際には中央にいる空母などには一つも攻撃を与えておらず戦略目標は達成されていない。攻撃の第二波が始まるも、第一波と同じで艦隊外縁部に攻撃を加えるのみだった。


 第二波の攻撃が終わると第三波、つまり第29A特務大隊の番が回ってきた。機長は大声で叫ぶ。


「いいか!俺たちには最強の盾がある!味方はまだ空母を攻撃できていない!我々が攻撃しなければならないのだ!エネルギー装甲展開!全員覚悟しろ!」


 機体は敵艦隊に対して急降下を始め、激しい弾幕の中を突っ切っていく。ほぼ直撃弾のようなものまでエネルギー装甲が防いでくれる。これがなければとっくに落とされていたことだろう。


 敵空母に近づくにつれて対空砲火もどんどん激しくなってきた。機体は黒煙に包まれて外の景色は全くと言っていいほど見えない。


「高度200、170、150、120、100!投下!投下!」


「引き起こせー!」


 体に経験したことのない重さが加わり、一瞬気を失いそうになる。機体はエンジン全開で敵艦隊上空からの脱出を試みる。


 すると、真下で大きな爆発が起こった。その爆風で機体は持ち上げられ、視界を覆っていた黒煙も晴れた。そこには爆発炎上する敵空母の姿があった。


「やったぞ!」

 キースが声を上げる。機内は安堵と達成感で包まれた。しかし機長は冷静な口調でこう言った。


「まだ戦闘は終わっていない。爆弾もまだある。一息ついたら次の攻撃に移るぞ」


 この爆撃で敵の防空能力が少し落ち、他の攻撃隊も次々と空母に攻撃を加えた。

 そして戦闘開始から数時間後に敵の主力空母は大爆発を起こして海中に沈んでいった。


「それでは我々も攻撃を行う。全機一番機に従え」

 機長の命令で大隊全機が敵の戦艦に向かった。敵艦隊の中心にいる巨大軍艦のうちの一つだ。


 空母が一隻いなくなったとはいえ対空砲火は激しく、エネルギー装甲の強さが不安になる程だった。

 大隊は戦艦に対して一直線に向かい、次々と爆弾を落としていった。全機が爆弾を投下しきる前に戦艦は前部にあった砲塔を爆発させて、船首から海中に沈んでいった。爆弾を残した機は敵艦隊外縁にいた駆逐艦に投下し、複数を撃沈した。


 爆弾を全て投下し、攻撃隊は帰還し始めた。戦果は撃沈 戦艦2、空母1、軽空母3、巡洋艦2、駆逐艦18で快勝だった。帰還中も機内は騒がしく、皆嬉しいようだった。セイツェマンも戦果だけでなく自分が生きて帰れることに喜びを感じていた。


 第三海上艦隊に近づくと日も暮れ、すっかり星空になってしまった。艦隊の明かりが海上に輝いているはずだ。


 海の上でオレンジ色に光る場所があった。艦隊だ。皆身を乗り出して下を見ると、オレンジ色の光は艦隊が燃えている光だった。衝撃で言葉が出ない。


 艦隊の炎は海に映る星々を完全に消し去っていた。

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