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惑星記  作者: フランクなカイザーフランク
第二章 サイシュ公国戦争
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迎撃任務

 サイシュ公国による宣戦布告があって半日ほどが経った頃、第三海上艦隊は帝国領と公国領の間にある海域を航行していた。他の海上艦隊は別の海域の警備にあたっていたため、この海域への到着には数日かかるとのことだった。

 セイツェマン達は来るであろう決戦に向けて整備を行なっていた。休憩しているとアモスとランドルがセイツェマンの元まで歩いてきた。


「久しぶりに3人だけで飯でも食べないか?」

 アモスの提案でそのまま艦内にある食堂へ向かった。


「戦争に憧れて軍に入ったけどさ、まさか短期間でこんなに戦争に参加するとは思わなかったな。それでも生き残ってるのは奇跡だよ」


 食事をとりながらアモスの言うことにうんうんと頷く。

 他愛のない話をしていると、ランドルが口を開いた。


「そういえばセイツェマンはどうして軍に?」


「そうだな…この前も話したが私は孤児院で育ったんだが、何も変わり映えのしないあそこが嫌いで軍隊に入ったんだ。その頃は帝国の軍隊ならある程度安全で楽しい日々が送れそうって思ってた。少し甘かったと今は思うな。ランドルこそどうして軍隊に?そういう性格じゃなさそうなのに」


「うちは父さんが元軍人でね。子供の頃から軍人になるように言われて育ってきたんだ」


「ってことはお父さんは侵略戦争を戦ってたのか?」


「うん。多分この海域にも来たことあるはずだよ。父さんは海軍に入ってて、オトシュ王国の潜水艦には気をつけろって話も聞いてたし」


「そうなのか。アモスはどうなんだ?」


「俺は実家が農家で三男坊だったから軍隊に入ったんだ。絶対そっちの方が面白いしな」


「私と同じような理由だな」


 そんな風に話していると休憩時間が終わり、それぞれ作業に戻った。


 セイツェマンが格納庫に向かう通路を歩いていると艦が大きく傾いた。するとブザーが鳴り、「敵潜水艦発見。魚雷を発射した模様。回避行動を行うため総員衝撃に注意せよ」とアナウンスが流れた。しばらくするとブザーは鳴り止み平常運転に戻った。こういうことがあると自分は戦場にいることを思い出す。


 敵機発見のアナウンスや敵潜水艦発見のアナウンスが増え艦内の緊張感が増してきた頃に、これまでとは雰囲気の違う鬼気迫る警報が鳴り響いた。

「敵航空機と思われる機影をレーダーにて多数確認!総員戦闘配置!迎撃隊発艦せよ!」


 艦内は慌ただしくなり、飛行甲板からは続々と戦闘機が発艦していった。第29A特務大隊も招集され、ジェルソン少佐から話があった。


「レーダーが敵攻撃隊を探知した。本来なら爆撃隊は艦内任務にあたることになるが、新型機は航続距離が長く搭載量も多いということでミサイルキャリアーとして迎撃任務に参加することになった。初めての実戦だが、これまで訓練してきた成果を発揮する機会だ。思う存分戦ってくれ」


 機体はすでに甲板に上げられ、発艦準備が整っていた。全員が乗り込み、順番に発艦していく。

 外に見える海は青空を写して光っているようだった。


「久しぶりの実戦だ。みんな気を引き締めていけよ」

 ジェルソン機長はそう言った後、スロットルを上げて発艦した。


 発艦した機から隊列を組んでいく。敵攻撃隊まではおよそ100kmだ。それまでは母艦のレーダーが誘導してくれる。


 しばらく飛ぶと、ミサイルの射程範囲に入った。


「キース。レーダーを起動して敵をロックしてくれ」

 キース中尉は了解と言うと手元にあるモニターをいじり始めた。


「全機、ミサイル発射準備。爆弾倉開け」


 機体下部の扉が開くと、そこからアームでミサイルが機外に出された。


「ロック完了。いつでも発射できます」


「よし。全機対空ミサイル発射」


 爆音と白煙を伴ってミサイルが発射された。第29A特務大隊は各機数発発射した後、敵の側面に回り込むために進路を変えた。


「距離的にまもなく弾着です」

 レーダーを持つキースに注目が集まる。


「おそらく弾着しました。手元のレーダーだけでは被害はわかりません」


 この部隊初めての戦果は何とも曖昧だった。すると先に行っていた迎撃部隊から連絡が入った。


「ミサイル攻撃で最低でも10機は落ちてるぞ!これで爆撃隊もエースだな」

 この報告に笑みが溢れたとき、迎撃部隊から続けて連絡が入った。


「公国にも新型機がいる。図体がデカくて大砲がのってる。なんだあれは」


 別の迎撃隊員が間髪入れずにこう言った。

「おい!大砲が光ってるぞ!すぐにあいつを落とせ!」


 セイツェマンが無線に夢中になる中、外で光の筋が見えた。その光は第三海上艦隊に向けて飛んでいったようだった。


「艦隊の方角に向けて何かが撃たれた!艦隊にいる奴は警戒しろ!」

 迎撃隊の誰かがそう告げるも、艦隊側からの応答はなかった。


「これより第29A特務大隊は第三海上艦隊に向かう。全機、進路を変更してくれ」


 無線は混乱していたが、機長の落ち着いた言葉で大隊は艦隊への帰路についた。


 ある程度時間が経ち、艦隊の座標に近づくにつれて大きな雲が目に入った。それは共和国の首都で見たものより小さかったが、形はそっくりだった。


「艦隊が見える!ほとんどは無事そうだぞ!」

 アモスが大声で叫ぶ。下を見ると空母などの大型艦は無傷のようだったが駆逐艦のいくつかは爆発に巻き込まれたのか、真っ二つに折れていたり炎上したりしていた。


 すると迎撃隊から連絡が入った。

「敵攻撃隊が撤退し始めた。我々も母艦に戻る。艦隊の状況がわかるやつはいるか?」


 これに応えて、これまで音信不通だった艦隊から無線が入った。


「こちら艦隊司令室。駆逐艦数隻に被害が出たが、母艦は無事だ。全部隊至急帰還せよ」


 母艦に帰ると被害確認のために隊長機搭乗員は集められた。

 被害の報告を行った後、艦隊長とジェルソン少佐が話していた。


「一体何があったんですか?」


「私にもわかりませんな。突然光が差し込んだかと思った次の瞬間には大爆発が起きておりましたわ。被害確認をしようにも通信機器が全てダメになって、復旧するまでに時間がかかったわ。噂程度でしかないが、もしかすると公国が開発していた新兵器が完成したのかもしれませんな」




 格納庫で一息ついていると、アモスが話かけてきた。


「セイツェマンは光の筋見たか?」


「ああ。あれほど速いのは人生で見たことがなかったよ」


「こんなこと言っちゃいけないんだろうけどさ、もしあんなのを敵全員が持ってるならこの戦争に勝ち目はないな。あんなものをこの機体に撃たれてみろ、木っ端微塵になるぜ」


「何言ってるんだ。帝国は世界最強なんだぞ?お前も実感してるだろ?あれくらいの兵器でやられるような国じゃない」


 言葉ではそう言うものの、それは願望に近かった。敵全員が一発で軍艦を沈められるような兵器を持っていると考えると恐ろしい。それがいつ自分に向けられるのかもわからない中で戦うのはもっと恐ろしい。


「アモス、そんな暗い顔するなよ。こっちには帝国が生み出した最強の装甲だってあるんだ。余計な心配はいらない」


 アモスは不安そうにぎこちない様子で歩いていった。


 次の日、第三艦隊内の航空部隊が全員集められた。艦隊長が壇上に上がると真剣な顔つきで話し始めた。


「昨晩、我が軍の偵察機が敵機動艦隊を発見したとの報告があった。座標は諸君らに渡した書類の通りである。おそらく昨日の攻撃隊はこの機動艦隊から発進したものだと考えられる。我々は敵が油断している今が絶好のタイミングだと考え、攻撃隊を編成することにした。書類に出撃命令が書かれている者はこの後残ってもらう。作戦開始は今日の昼から。各員仕事にかかれ」


 手元の紙を見ると案の定出撃命令が書かれてあった。持ち場に戻る者は少なく、第29A特務大隊以外にも多くの部隊が攻撃作戦に参加するようだ。


「ここに残ってもらった君たちの全員が攻撃隊に参加してもらう。あの大爆発を見た者には不安があることだろう。だがここで退いてしまえば帝国本土の国民に被害が出てしまう。他の艦隊の援護が無い中では君たちだけが頼りだ。よろしく頼む」


 到着が遅れている他の艦隊や改修作業をしている航空艦隊の援護は期待できず、第三海上艦隊の戦力だけで戦うことになるため負ければそこで本土への侵攻を許してしまうことになる。負けるわけにはいかないのだ。




 サイシュ公国の新兵器が世界で初めて投入された。その威力は公には公開されなかったものの、一部の関係者には大きな衝撃をもたらし、激しくなる軍拡競争の原因の一つとなってしまった。惑星誕生以来稀に見る、人類全体を巻き込む戦争の足音が近づいていることに誰も気づかないのであった。

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