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惑星記  作者: フランクなカイザーフランク
第二章 サイシュ公国戦争
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ミサイル誤射事件

「艦隊長。ターゲット、反転しました」


「模擬対空ミサイルを発射せよ」


 ルビウスの命令により、海の上から炎を吐く矢が発射された。それはいくつも大きな弧を描いて空の彼方へと飛んでいった。




「機長!ミサイル接近警報!」


「よし、全機エネルギー装甲を展開せよ!出力100%だ!」


「ミサイル着弾まで残り10、9、8 …」


「全員衝撃に備えろー!」


「3、2、1 今!」


 爆発音と共に機体は煙に包まれた。しかし機体に傷はなく、他の機にも損害はないようだ。


「エネルギー装甲により全機無傷!まもなく目標艦隊が見えます!」


「全機爆撃態勢に入れ。装甲解除は投下直前にすることを忘れるな」


「戦闘機隊が上がってたぞ!」


「後方装甲を解除して機銃が撃てるようにしろ。セイツェマン、ランドル!しっかりやれよ!」


 初めての実戦の時のように、爆撃隊の中を戦闘機が縦横無尽に飛び回る。今度は慣れた手つきで撃ち始める。

 何度も対空砲が近くで炸裂する。エネルギー装甲があるとはいえ、機体が黒煙に包まれる度に不安だ。


「爆弾倉開け!装甲解除!」


「投下!投下!」


「直撃判定!」


 爆撃隊は黒煙に包まれながら艦隊上空を通り過ぎた。模擬戦は第29A特務大隊の圧勝で終わった。

 そのまま艦隊の上を旋回していた時、海中から光が飛び出したのが見えた。


「無線より連絡!敵性ミサイルが発射された模様!爆撃隊は至急退避せよとのこと!」


「全員何かに掴まれ!」


 機体は大きく揺れ、スピードを上げた。ミサイルに対して艦隊から猛攻撃が加えられているのが見える。すると次の瞬間、光を放つ矢は大爆発を起こして撃墜された。


「ミサイルを撃墜したようだ。艦隊に戻ろう」


 空母に着艦した後、隊長機の搭乗員は全員司令室に呼び出された。そこには艦隊長の他にも大勢の将校がいた。


 すると艦隊長が話を始める。

「君たちも知っての通り、先ほどこの艦隊はミサイルによる攻撃を受けた。おそらく潜水艦によるものだろう。撃墜したミサイルの破片から調査したところ、オトシュ王国製のものであるという結論が出た。これからこの艦隊は厳戒態勢に移行する。対応は本国に確認中だ。質問のある者はいるかね?」


 沈黙が流れた後、解散となった。セイツェマンたちは艦隊長に呼び止められた。

「やはり将軍の設立された部隊とあってなかなか強かったですな。手も足も出ませんでしたわ」


「そう言っていただき光栄です」


「さっきの話なんだが、君たち29A特務大隊にも力を借りることがあるかもしれん。心づもりだけはしておいてくだされ」


「はい。わかりました」


「それじゃあ」


 そう言うと老兵は戻っていった。



 同じ時刻、サイシュ公国に急報が入った。

「潜水艦が帝国の艦隊を発見。航空攻撃が開始されていたので、それに呼応してミサイル攻撃を行ったと連絡がありました。例の作戦って発動されてましたか?」


「何?例の作戦はまだ準備段階だぞ。…今なんて言った?」


「潜水艦が帝国の艦隊に対して攻撃を行ったと…」


「まずいな。すぐ上に報告してくる」


 重厚な扉を開けるとサイシュ公国海軍を指揮しているキーウェル大臣が仕事をしていた。


「大臣、失礼します。先ほど我が国の潜水艦から連絡があり、帝国の艦隊を発見したと言うことです」


「そうか、ご苦労」


「いえ、報告はそれだけではなく…」


「早く言え。忙しいんだ」


「その… 帝国艦隊が航空攻撃を受けていたらしく、例の作戦が発動されたのだと勘違いをして帝国の艦隊に向けてミサイルを発射したようです」


「我が国の潜水艦が?」


「はい」


 仕事をしていたキーウェルの手は止まり、部屋には深海のように重く静かな空気が流れた。


「もう一度聞くが『我が国の潜水艦』が『帝国の艦隊』に対してミサイル攻撃を行ったのだな?」


「間違いありません」


「やることができた。すぐに各部門の大臣と職員を集めてくれ」


「会議をするんですか?」


「そんな小さな物ではない。戦争が始まるんだ。」




 数時間後、公国内の主要な人物が揃い緊急会議が行われた。中心に座るのはキーウェル海軍大臣とサイシュ公国領主であるアベルノ公爵である。海軍大臣から話は切り出された。


「数時間前に我が国の潜水艦は帝国の水上艦隊に対してミサイル攻撃を行いました。それによる公国・帝国双方の被害は確認されていません。ですが帝国から事実確認と責任の所在を明らかにせよと通告を受けました」


「なぜそのようなことが起こったのか、詳しく聞かせて欲しい」

 経済担当大臣が険しい顔で告げた。


「はい。我々サイシュ公国は先の対帝国秘密同盟加入により、対帝国戦への準備を進めてまいりました。その中で決まった作戦が『帝国の艦隊に対して航空機による攻撃を加え海上戦力を削いだ後、オトシュ王国までの海路を開き王国との共同戦線を展開する』というものです。この作戦は同盟加盟国にも通達されました。潜水艦の艦長は帝国の艦隊が航空攻撃に晒されているのを見て、その作戦が始まったのだと勘違いしたことでこのような事態になっています。実際は帝国による洋上演習だったようです」


「その潜水艦はマンターのとこのやつじゃないのか?」


 全員の目がマンター海軍中将の方に向く。マンターは潜水艦艦隊を率いており、侵略戦争時代には帝国の撃退に大きく貢献した。


「私の艦隊所属ですが、このような事態はいずれ近いうちに起こっていたことでしょう。なら今このタイミングで帝国に宣戦布告すべきだと思いますがね」


 この発言で会場が騒がしくなった。帝国に本当に太刀打ちできるのか、同盟国の支えがあるなら勝ち目がある、など様々な意見が飛び交っているのをアベルノ公爵は黙って見ていた。


「私は帝国への宣戦に賛成だ」


 アベルノ公爵が話し始めるとそれまで騒がしかった会場が一気に静まり返った。


「侵略戦争時代にも我々は攻撃を受けた。しかし、我々は帝国に負けなかった。なぜか。それは海軍力では我々の方が優っているからだ。今回も海軍主体の戦場となるだろう。なら我々に勝ち目はある。それに前とは違い他国の支援にも期待でき、さらに…」


 公爵の口が止まり少し考えた後、再び話し始めた。


「これは言うべきか迷うがこの際だし言ってしまおう。技術部には新兵器を開発してもらっている。これがあればどんな装甲でも破ることができるだろう。我々には勝ち目がある。これを逃す手はない」


 公爵がそうおっしゃるならと、会議の結論は固まった。

 

会議後、キーウェルはオトシュ王国大使館にいた。


「我々サイシュ公国は帝国に対し宣戦布告を行うことになりました。」


「事情は知っていますが、新兵器の完成はもう少し先ではなかったですか?」


「不安はありますが、アベルノ公爵が勝ち目はあるとおっしゃって皆盛り上がってしまいましてね」


「そうですか。ということは今日は例の作戦について伝えに来たのですね」


「はい。話が早くて助かります」


「そう思って本国に連絡していたのですが、急な話ですぐに支援するのは厳しいということです」


「やはりそうですか。そう思ってもう一つ別のお願いをしに来ました」


「どんなお願いですか?」


「それはですね…」




 サイシュ公国は帝国からの要請を無視し、帝国は公国に対して最後通牒を突きつけた。内容は「ミサイル攻撃に対する賠償金の支払いに加えて、サイシュ公国とオトシュ王国の主従関係を断ち帝国の支配下に入ること」だった。当然サイシュ公国は拒否し、帝国に対して宣戦布告を行った。対帝国秘密同盟によりオトシュ王国だけでない多くの国がサイシュ公国を支援し、帝国に対して経済制裁を行った。

 シグマ帝国にとって2度目の世界を相手にした戦争の開幕である。

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