二つの光
刃同士が離れることが開戦の合図となった。
陽太郎が大剣を鎖鎌を持つ男に向けて振るう。
「おらぁ!」
男は瞬時に空いた二つの鎖鎌で大剣を防ぐ。
そうすると銀音と仮面の女が再度攻撃を仕掛ける。
男の両脇はがら空きだ。鎌と刀の凶刃が迫る。
「獲物が一つだと単調だな」
「おあっ!?」
防いでいた大剣を足で蹴飛ばし、自由になった二つの鎖鎌で凶刃を防いだ。
「『錬刃』!」
「『デモリッション』!」
「レピュディアシオ」
双方向から発動する魔術を一つの魔法で抑える。
魔術が使えないとなると単純な物理の力比べだ。
「こんのぉ!」
体勢を立て直した陽太郎が男の下半身を狙う。
一番防御の取れない部分だ。だが、この結界内では。
「『トニトル』」
足先を杖とし、放たれた雷の魔術。それに反応して魔法を唱えようとするが…
「ネガシ…ぐああ!」
魔術に苦悶する陽太郎。魔法は間に合わなかったようだ。
「蒐さん!」
銀音が仮面の女に呼びかける。仮面の女は頷くと鎖鎌から刀を離した。
「ヴェントゥス・フーヌス!」
銀音が魔術を放つ。三つの風の刃が鎖鎌に衝撃を与えた。
「む?」
男が何かを察知し、銀音から距離をとる。
銀音と男の間に衝撃が発生する。足元のコンクリートには無数の刃傷がつけられていた。
「手練れか、…まさかお前が白刃をやったのか?」
「誰ですか?それ」
「…そういう認識か、さては戦場上がりだな?」
「だから何ですか?私が何人殺していようとあなたが死ぬことには変わりない」
「言うじゃないか、俺がここで投降しても聞き入れないか」
「信用がありませんから、そんな騙し討ちをしてきた人間を何人も見てきました」
銀音と向かい合う鎖鎌の男。
そこに体勢を立て直した陽太郎が駆けだした。
「野郎!やってくれたな!ヴォカ…」
そこに仮面の女の素早い肘うちが入った。
「うごっ!?てめっ!何しやがる!」
「退くぞ、私たちは邪魔になる」
鳩尾を打たれようとも流石の腹筋の強さで気を引くだけにとどまったが、陽太郎の行動は止まる。
「相手は恐らく死に連なるもの、銀音の同類だ」
「は!音っちと同類なら都合が良いぜ、死の魔術へ挑むチャンスだ」
「馬鹿なのか?文字通り死ぬぞ」
「うちのかわいこちゃんに任せれば問題なしよ、ブレスに死は通じない」
「どう見ても機動特化型の杖だ、遠距離に居ようが接近され一瞬でとられるぞ」
「…ぐっ」
仮面の女に言い負かされ屋根から降りる陽太郎。
銀音と鎖鎌の男が互いに向かい合う。
「…ナンバー81」
「なんですか?」
「俺の認識番号だ、お前は?」
「会員ナンバーですか?それとも口座番号?」
「…言う気は無いか」
「どちらにせよ、あなたは死にます、知ったところで死んでしまえば何も残りませんよ」
銀音が大鎌を構えて駆けだす。二撃、三撃と打ち合うが男の方は消極的だ。
「待てよ、まだ死ぬわけにはいかない」
「戯言を!」
「分かった分かった」
銀音の大鎌をいなすように鎖鎌を扱い、距離をとった。
「お互い、こんなところでは死ねないんだろ?」
「…襲撃してきた本人が言えることですか」
「俺の目的はあくまで相方との同行だ、生死は問われていない」
男は銀音を見てから周囲を見渡す。
「偵察も兼ねていたが、お前のような大物がいるとなるとそう遊んでもいられない」
「…一体何を」
「お前に免じて生かしておいてやるってことだ、さっきの仮面の女、素早かったが、俺が殺せない速度じゃない」
「…」
いつでも仲間を殺せていた。そう言いたげだ。
「ではな、『宵闇』」
「!?『イグニシオ』!」
男が闇夜へ消えると銀音が周囲に魔法をかける。
しかし、男の姿は見えず、銀音はしばらく警戒していた。
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根室についていきコインランドリーへ戻ってきた。
そこには仮面の女と陽太郎、そして屋根の上に銀音さんが俺たちを待つように立っていた。
「よお、どうだった?」
「多分、逃げられたんだけど」
「逃がしてやったと言うが良い、我々の優勢な状況であったのだからな」
そうともいえるかもしれないけど、けどお前負けかけてたよな?
「大事ないな、志木」
仮面の女が俺に言う。この人が誰なのか、片方が根室であったことでだいたい予想がついていた。
「あ、はい、問題なかったっす、会長」
女が仮面をとる。予想通り、そこにいたのは我らが生徒会長・向埜蒐だった。
人物ノート⑧
向埜蒐
玲瓏高校2年生、生徒会長。
文芸部所属ではあるものの、運動部とのつながりが深く、人手を要求されれば文芸部から貸し出すほどの人望のある人物。
勿論、それには明確な理由がある。彼女の向埜家は伝統ある名家であり、地元ではその名を知らない人間はいないほど轟いている。
知らない人間など、転校してきた人間くらいのものだ。