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デチャルネーレ  作者: ハゲタカ
Giant killing
22/22

新たな指標

煙を上げて燃える残骸は会長だったもの。

そう思うと俺は果てしない無力感を受け取った。

先ほどまで優勢だった状況を逆転され、そこからどう戦えばいい?

頭が真っ白になる。そんな時だった。


「有史さん!」


頭が正常に働くようになると、目の前は銀音さんがミノタウロスの大斧を受け止めている場面だった。

片腕とはいえミノタウロスの巨体の膂力に銀音さんは手一杯だった。


「くっ!」

「グォオオオオオオオオ!!」


押し負けて銀音さんが少し後ずさると、ミノタウロスは空いた片腕に魔方陣を宿す。


「うおっ!?」


背後から何かが通過したと思ったら、大斧だ。さっき投げてきた大斧がミノタウロスの手へ戻っていった。

物理的に戻っていく衝撃で飛んできた小石が俺の頬を掠める。

これは、無限に飛んでくる飛び道具か。しかも戻ってくるからブーメラン的な厄介さ。


「有史さん、私から離れないでください」

「も、もちろん」


こんな中であのミノタウロスと向かい合えだなんて無理だ。

縮こまって銀根さんの背に隠れる。なんて情けない男だ…


「ディフェンシオ!」


銀音さんは防御魔法を展開した。銀音さんを中心に半球のバリアで安全圏を形成。しかし、


「グォオオオオオオ!!」


必死にバリアを叩くが無駄無駄、銀音さんの実力で作られた魔法のバリアが割れるわけ…


「グォオオオオオオ!!」


割れた、いやにあっさりと。


「有史さん!ついてきてください!」


返事をする間もなく行動へ移っていく。というか声があげられないレベルで状況が衝撃的だ。

ひたすら銀音さんの背を追いかける。

目指す先は路地裏、遮蔽のある場所へ。

身を隠し、屈む。


「ここで待機を、私はあれを処理します」


こくこくと頷く。銀根さんはミノタウロスの正面に立って攻撃を誘発する。

俺を巻き込まないためか大斧を避けつつ場所を移動して遠ざかっていった。

自分が手出しできないことに歯がゆさを感じる一方で、視線は煙の上がった残骸へ向いていた。

会長、いまだに実感がわかない。

本当にやられたのか?その事実を少しだけ受け入れると喉元に胃液がこみ上げる。

そんな中、俺は飛来した何かに目がいった。

残骸へ放たれる矢、矢についているのは…矢文?それとキーホルダーのようにチェーンでくっついた多面体の結晶のようだった。

光が、放たれる。

この現象は見たことがある。以前の北川と戦った時に発動した符術だ。

何もかもを巻き戻す起死回生の一手、規模こそ違うが会長だった残骸を囲う光の雰囲気はそれと変わらなかった。

そして、残骸は元の会長の姿へと戻っていく。


「ふう、油断したな、己の気の回らなさをここに戒めるとしよう」

「か、会長!!」


一気に安心した。生き返ったそれが会長本人であったことに安堵した。

自我を失ったゾンビとかアンデットの類ではないようで良かったー。

会長は鞘を拾ってそのままミノタウロスのほうへ向かっていく。


「庚光刃・三連」


光の刃を3つ撃ち出し、ミノタウロスの背に突き刺す。


「…!?」


銀音さんに気を取られていたミノタウロスは振り返り、会長の姿を視認する。

凄むような不気味で黒い瞳、そんな刺されるような威圧に会長は余裕気に鞘を構えた。


「この結界ではこの結界のルールがあるようだな」


構えた鞘が光り出し、収まると似つかわしくない物が移った。

鞘に、スコープ?銃なんかについてるあのスコープが鞘口の近くについている。


「『庚万華鏡・双光刃』」


光の刃が出た。鞘口と、スコープから二つ、

そこから出てくるんだ…


「では、行くぞ!」


会長が駆け出す。ミノタウロスも大斧を構える、が、


「ヴェントゥス・フーヌス」


銀音さんと戦っている最中によそ見は許されない。

ミノタウロスの片腕は三つに切り落とされ、粉々に細断される。


「成敗!」


もう片方の腕も会長に切り落とされ丸腰、小突いたら倒れるんじゃないかと思うくらい不安定に立っている。

そして直前には強者たる二人が各々の得物の切っ先を向けている。


「では幕引きだ」

「死んでください」


強者たちの二撃が、ミノタウロスを葬った。


------------------------------------------------------


空が割れ、元の夜空が戻ってくる。

ミノタウロスの残骸からポロっとフードの男が出てきた。


「く…そ…が」

「さて、聞きたいことは山ほどある」


うつ伏せで倒れる男に会長は鞘を向けた。


「我が校の生徒を誑かしたのは貴様か?」

「…」

「答えるが良い、さもなければ実力行使で吐かせるぞ」

「待ってください、その男はコルセルニで回収します」


銀音さんがそこへ割って入った。例のごとくコルセルニ教会への貢献のためだろう。


「我が校が被害を被っているのだ、こればかりは譲れんな」

「根本を断つのならコルセルニに任せるのが賢明です」

「早急に対処せねばならん問題だ、この場で尋問する」

「余計なことを…」

「ヘイすとーっぷ!!」


口論の激化を防ぐために俺は声を上げた。

こんなギスギス見ていられん。


「そこのお前!」


俺はフードの男を指さす。


「あ、ああ」

「さっさと首謀者の名前と居場所を吐けこの野郎!!」


胸ぐらを掴んで剣を突き付けた。と思ったら剣なかった、結界なくなったせいで消えてた。


「いいか?吐かなきゃ1538℃の炎が俺のこの爪の先から噴き出すぞ!」


代わりに指を突き付ける


「こ、河埜家だ!」


男から飛び出たワードは驚くべきものだった。

耳にした瞬間は言ってくれたというほっとした気持ちと、なんか聞いたことあるなあ、という違和感が同時にあった。

俺は二人のほうを見る。

銀音さんは冷ややかな目で会長を見つめ、会長は少し焦りを含んだ気張りの表情をしていた。


「なるほどな、奴らが何を考えているかは分かった」

「河埜家はやはり信用できないですね」

「信用しなくていい、あれは私にとっても敵だ」


ん?河埜家が会長の敵?自分の家が?


「何を…そうして自らの不信感を高めて一体なにが狙いですか?」

「さながら、気分は革命家、というところだ」


いまいち全容が見えない会長の物言いに疑問を抱いていると、その背後から速足で接近する人影があった。

怒り、のようなものを感じたが次の瞬間それが確信に変わる。


「志木ぃ!」


そいつに胸ぐらを掴まれた。そいつは、根室だった。

いつもの静かな様子とは違い、明確な怒気がその顔に見えた。


「会長を…なぜ見捨てた!?」

「見捨てた?いや助けを呼んでただけで見捨てたわけじゃ…」

「よせ根室、ここで言い争うな」


怒りに狂う根室を会長が制止した。

俺を睨む根室は惜しむようにして胸ぐらから手を放す。


「私が負けたのはただの自己管理不足だ、結界内での自分の能力を把握しきれなかったからな、自業自得だ」


会長の言葉に根室はしぶしぶ引き下がる、よかったとりあえず。


「お前たちに頼みたいこともある、話の場を設けさせてくれないか?」

「…」


銀音さんもなんだか警戒心高めだが、素直に受けるだろうか?


「俺は別にいいんですが、ねえ銀音さん?」

「…まずは話から、ですね」


不満気だが、一応聞く耳は持ってくれそうだった。

会長の真意が聞ける機会かもしれない、そしてこのわだかまりの解消に…なればいいなぁ。


------------------------------------------------------


男が街中を歩く。人込みに紛れて、誰の歩調に合わせるでもなく足が進む。

他人とは決して合わない時間間隔、自分だけの世界。

閉塞感に憂いて、空を仰ぎ見る。そこは鮮やかな青が広がっているが、男の目は曇っていた。

曇天を見るような、呆れた表情だ。

近くの喫茶店に入る。

平日の午前中、人の少ない時間帯だ。

さほど並ぶことなくカウンターの前へ来る。


「いらっしゃいま、あ!」

「やあ」

「来てくれたんだ!」

「せっかくだしね、このキャラメルなんとかを」

「かしこま!サービスしとくよ!」


やたらと長いメニュー名を言い切れずとも察してくれた女店員。

準備をする姿を見る男の目は、曇り切っていた先ほどの目とは違い、澄んでいた。

ただ美しいものを見る目ではなく、純粋さが入り混じっている。


「おまたせ!」

「おまたせしました、だろ?」

「かたっ苦しいこと言わないでよー、ほら、盛っておいたから」


女店員からメニューの写真より大きく生クリームの盛られたカップを受け取り、踵を返す。

生気を取り戻したかのように見えた様子は、窓側の二人席に着くある人物が視界に入ったところで失われた。

黒地にギラギラと金色のラインが入ったジャケットにジーンズ、ジャラジャラと首という首に多すぎるぐらいに巻き付けたチェーンやすべての指にはめている指輪、裕福さを過度にアピールしているような容姿は男にとってはあまりいい気分にはしなかった。

その人物が男に気が付くと、胡散臭い微笑みと共に手を小さく振った。


「こっちこっち」


男が席に着くとため息交じりに聞く。


「今度は何の説教だ、蒐集家」

「説教だなんてそんな言い方はないでしょ、君を激励しに来たんだよ」


蒐集家と呼ばれた人物は何か直接的な嫌味を言うようではなかったが、軽薄な態度からは悪意が透けて見える。さらには身を乗り出して男の耳元でささやく。


「君に失敗した自覚があるだけで今回は見逃そうと思うんだ」

「…」


そう言われると男は両手を正面に合わせて頭を下げた。


「ありがたき幸せです」

「うんうん、こういう心遣いを大切にね、出なきゃ誰も助けてくれなくなるよ」


余計なお世話、と出かかった口を閉じる。

現状、自分は蒐集家の言う失敗をした男でしかない。

その自覚をもって話を聞く。不服ではあるが原因は自分にあるのだから受け入れるしかない。


「君への任務は前任者の護衛だった、だとすれば、君が失敗した理由は護衛に向いていないからだと思うんだけど、どう?」

「そうかもな」

「だとすれば護衛ではなく目標人物の暗殺をお願いしよう」


蒐集家はテーブルにファイルを広げた。そこにある写真や書類が目に入る。

そして、ある写真に喰いついた。


「こいつは…!?」

「君にはこの人物を殺ってもらおうか、できなかった場合、どうなるか分かっているね?」


つばを飲み込む。暗に自分の人生の終焉を示唆され緊張する。

覚悟はしているはずだった。自分の命など惜しくもない。

それ以上に欲しいものがあるから。

ただ一つ、喫茶店のカウンターにいる人物が目に映っては揺らいでいた。

カルロス・デミング


卑怯者と蔑まれるノクス魔術の使い手。ローブを被った中性的な男。

透明化を得意とする魔術系統だが本人の実力不足なのか、最後に相対した銀音と僚にはバッチリと見られていた。

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