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デチャルネーレ  作者: ハゲタカ
Awakening of justice
14/22

手遅れ

地上では陽太郎が未だ湧き出てくる騎兵との戦いを続けていた。

彼の傍らには既にドラゴンはいない。


「オラぁ!」


見渡す限り、最後の一体に見える騎兵を頭から大剣で砕く。

少し静まったグラウンド、だが地面からは実体のない紫色の炎が残る。


「ったく、戦える実感を得られるのは良いが、限度ってもんがあるだろ」


大剣を地面に刺し、一息つく。

校舎の3階を見る。心配そうに陽太郎を見る生徒たち。

だが手出しはしない。連携の上手くいかない相手なら一人で戦う、それが陽太郎のスタイルだ。


「まだまだやれるっての」


自らを鼓舞し、大剣を引き抜く。敵はゾンビのように這い出てくる。

一見して馬と共に出てくるその姿は人馬一体の誉れある兵士、だがこれらに感情はない。

馬と兵がセットになっているだけ、そう設定された、生き物ですらない殺人マシーンだ。


「『フラメンヴェレ』!!」

陽太郎はそんな連中に手心も容赦もしない。一蹴、陽太郎の目の前は全て炎のベールに包まれ、波となって進行した。

新しく這い出た騎兵たちは消え、また静まり返る。


「はぁ、はぁ、まだやれってか?早くしろよ音っち、有史」


疲れ果てている陽太郎、そんな彼を屋上からじっと見ている影があった。

双眼鏡で表情を確認し、ニヤリと口角を吊り上げる。


「絶好の機会だ、ドラゴン使い」


------------------------------------------------------


「言い分を聞いてやるぜ、北川先生よぉ」


その見覚えのある面を確認して大きく出る。

ようやく黒幕を追い詰めたって感じではあるが…何にも対策してないんだよなぁ。

ナイフを構えて何とか虚勢を張っているが、その裏にはスカスカ貧弱ボディが控えているのだった。


「俺はアンタみてえに暴力で全て解決しようだなんていう野蛮人じゃねえからさ」

「私がお前に暴力をふるったことはない」

「馬鹿なことをおっしゃる、前会った時俺に何したか、…もしかして覚えてらっしゃらない?」


いやまさか、記憶喪失とか二重人格とかそういうわけじゃないだろうな?


「私は嘘を教えたことはない」

「んんー?そうか?そうだっけ?」


確かにこいつの授業は分かりやすく、間違いをしていた記憶はない。

他の先生は「それちがいまーす」と生徒に指摘されてお顔真っ赤にしながら訂正したりしていたイメージ有るけど、こいつはそんなイメージない。


「どっちにしろ、アンタは敵だ、何を企んでいるかは知らないけど…」


俺はナイフの先を北川に向ける。


「アンタを止める、バリスティック!ウェーレ・ヴェスタ!」


射出型に切り替え、風の槍を纏う。

こいつの口上だの詠唱だのを聞いている暇はない。言い分は聞いた、あとは屈服させるだけ。


「気が早いな、健一さんにそっくりだ」

「あん?」


なんか父さんの名前が出てきた、なんで?精神攻撃か?


「お前の父親には世話になった、日本でも、海外でも…」


俺を動揺させることが狙いと見える、だがそんなことで手は止めない。

刃を伸ばし、切先は北川の右腕の脇部分へ…


「この計画においても、だ」


その刃は止められた。北側の手にある二つの刃、ハラディによって。

軽々と、あっさりと、窘められるように阻まれた。

一撃で戦闘不能にする勢いで放ったはずだ、だけどこの結果は…不自然だ。


「くっ!」


刃を引っ込めて元に戻す。刀身を経路に魔術を流される危険性がある。

北川の使用する魔術の全貌が分かっていない以上、警戒しなければならない。

ドジ踏んで即死、なんてのも笑えないしな。

ただ、もう手遅れな感じがする。既に奴の術中のよう危機感。


「そもそも、私をこの計画に誘ったのは健一さんからだ」

「うるせえええええ!!」


聞くな、こんなやつの言葉を信用してはいけない。

もう一度、突き刺すようにして刃先を放った。

だが、止められる。結果は同じだ。


「スワンツ!!」


ならばと陽太郎の魔術を使ってみる、だが振り回した竜の尻尾は刃同様に止められた。

なんだ?原因が分かっているようで実際は分からない、気持ち悪い感覚。


「だからこそ、今一度私の話を聞かないか?志木」


俺も他に手がない、少し考える時間を作ろう。

尻尾を収め、射出型ナイフをおろした。


「…何を提案するつもりだよ」

「お前をこの計画の一員として歓迎しよう」


下らない提案だった。躊躇の余地もない。

だが時間を作るために迷うふりをしよう。


「うーん、どうすっかな…」

「答えは分かっている、見え透いているぞ」


腐っても国語教師、作者の気持ちを考えさせるエキスパートだ。俺の様子なんて余裕で看破されてしまう。


「だが、お前の父親はこの計画に率先して行っていた、そしてお前にもその恩恵を与えた、その意味が分かるか?」


意味、北川の言葉をまともに考えてはいけない、だけど奴の言葉には妙な力がある。

ダメだ考えるな志木有史!お前はただ目の前の敵を打ち倒すことだけを考えていればいい。


「お前を、この計画の一部として組み込むことを考えていたからだ」


心が乱れる、気が滅入る。うすうす思っていたことがいつの間にか肥大化していた。

父さんが世界征服?こんなやつら引き連れて?

記憶の中の父さんは良い人だった。俺と一緒に遊んでくれて、いろんなものを買ってくれて、父親として素晴らしい人だった。

だけど、良い面ばかりじゃない。煙草を吸ってはいけない場所で吸ったり、仕事の愚痴をポロっと言って悪態をついたり、それらもまた父さんの一面だった。

だからこそそうなのかも、と思ってしまう。

悪人引き連れて、大義のためなら手段を問わない。そんな可能性が浮かび上がってくる。


「そ、そんなの知るかぁ!!ウェーレ・ヴェスタぁ!!」


結局何も思いつかなかった。ただ悪い思考へ流れていくのが怖くて闇雲にナイフを振りまわした。

風の槍を纏った射出型ナイフ、それを伸ばしてもう一度、北川へ振るった。

攻撃が通じる気配もなく、ただ止められる。


「学習しないな」


突如、逆流する風の槍、つまり槍の先は纏う射出型ナイフの持ち手側。


「ぐあっ!?」


ナイフを通じて俺へ衝撃が伝わり、吹き飛ばされる。

刃部分は北川の足元へ落ち、俺は空間の端の壁へ吹き飛ばされる。


「まだ理解できないか?何度でも教えてやろう、お前は私に勝てない」


ハラデイを正面に据えて俺に見せつける北川。

無力を感じろと、諦めろと言う。


「最後の警告だ、協力しろ、志木」

「…じゃあ、質問良いっすか?」


このまま闇雲に攻撃を続けても仕方ないと思考を変える。

精神攻撃、話術ターンと言うのはこういうところで光る、はず。


「いいだろう、なんだ?」

「このままにしておくと、この学校はどうなる?」

「どうもしない、生徒たちに手を出したりはしない」

「…本当に?」

「ああ、本当だ」


北川の言葉に淀みは見られない。嘘が上手い余程のポーカーフェイスか、事実か。

だけどそんな計画を銀音さんたち、コルセルニ教会が危険視するのはなぜだ?

コルセルニ教会にとって不都合な事態、それが本当に他の人たちにとって無害なものだとすると銀音さんが俺を言葉巧みに騙して利用している可能性がある。それが、俺に信じられるか?

─ 私の一生をかけて、貴方を守ります ─

あの言葉を、疑うのか?


「…ああなんだ、そういうことか」


答えは決まった。俺は立ちあがり、刃の無くなった射出型ナイフを構える。


「答えは決まったか」

俺は答えない、答える義務はない。

目の前にいるのは敵だ、恩師でも立派な社会人でもない、害獣だ。

俺を噛み殺そうとする獣と一緒だ。

こういうのには行動で示すに限る。


「残念だ」


北川はハラディを回転させる。炎の円を描き、その炎はやがて俺の目に…


「ぐっ!」


俺は目を抑えた。悶絶するほどの熱さ。

眼球部分の全水分が蒸発していく。

このままだと前と同じく何もできないまま…


「ぐぅ…」

「このままでは全て焼き尽くしてしまうぞ、お前の魔力が流れる全てがな」


魔力の、流れる全て?

俺は北川の言葉の意味を考えた。

適当なことを言っているわけではない。そんなことを言って俺を嵌めようとする理由がない。

魔力の操作、つまり魔法か?

俺に流れる魔力を焼き尽くすってことは、魔術じゃなくて魔法。

ならば対応策は…


「…ふぅ、レクペレシオ!」

「見破ったか」


俺の中の魔力の制御、それがこいつの力に対する対応策だ。

徐々に俺の目から炎が消えていく。癒やしの魔術で目玉も元通り。

必要なのは分析、能力把握。

確証を得てから戦いへ臨む、それが堅実だ。銀音さんならそう言う。

だけど実践以上に勝る確証はない!


「もう怖くねえぞ、北川ぁ!」

「クソガキが、調子に乗るなよ」


口調を変えた北川に怯むことなく俺は立ち向かった。


------------------------------------------------------


有史が落下し、去った後はデスブリンガーとの一騎打ち。

銀音は有史を一人にしたことに不安を抱えつつも手は緩めなかった。

むしろ力が入る、以前コインランドリーの上で戦った際は一人ではなかった。

今は一人、繕う相手もなし。

ひたすら鎌と鎌の打ち合い。速度は得物の軽いデスブリンガーが上だが、それに対応する銀音は劣る様子はない。

デスブリンガーの動きを読み、鋭い刃先を打ち込む位置に峰を置き、凶刃を防ぐ。

得物が大きい分、動かす手間は少ないのだ。

だが攻勢に回ることは難しい。堅実な防御態勢に入ったのなら、攻撃態勢に切り替える大きな隙が出来る。


「『ビースティア』」


デスブリンガーが唱える。瞬間、鎌を振るう速度が上がった。

勢いも急変し、銀音は少し後退りする。

明確な優勢は、デスブリンガーの方にあった。


「どうした?使えよ、死の魔術を」


そんな煽りに対して銀音は応えない。応える暇などない。

全集中を目の前の脅威を排除するためだけに注ぎ、力の配分を的確に調整する。


「そのまま押しつぶされるのがお好みか?なら望み通りにしてやる」


さらに加速するデスブリンガーの攻撃。いい加減限界が来たようで、銀音は片膝をついた。

その隙をデスブリンガーは突いた。両手の鎌を同時に振りかぶり、一撃必殺を狙う。


「死ね!」


強い言葉だ。その強さを乗せるように鎌には黒く禍々しい重みが乗っていた。

いくら鋼の得物だろうと、砕けてしまうような一撃。

それを、銀音は大鎌でいなした。


「!?」


二つの鎌を大鎌の表面に掠め、つば競り合いを拒否した。

隙が生じたのはデスブリンガーも同じだった。

銀音は大鎌を振りかぶり、首元を目掛けて振り下ろした。

同時に、二つの鎌も振り上げるのに時間がかからなかった。

だが…銀音の攻撃は通る。


「ぐあっ!?」


長柄の大鎌は一方的な一撃を繰り出せる。小鎌で繰り出されるデスブリンガーの抵抗は銀音には当たらない。ただ、大鎌の一撃を軽減するだけだった。


「クソッ!!」


距離をとるデスブリンガー、その際に銀色の何かが銀音の足元に落ちた。

ネックレス、そして十字架。銀音の一撃で切れたようで首には掛けられないがこれは…


「ロザリオ?」


謎のロザリオに銀音が疑問符を浮かべる。


「…ふ、ざけるなよ」


デスブリンガーは憎しみの籠った声を上げる。


「デスサイズが…手加減しやがって!!」

「・・・」


銀音は手を抜いたつもりはない。だが全力で行くつもりもない。

できる限りの力をセーブしているだけで、それで圧倒している。


「デスサイズを名乗っておきながら…一撃で殺せない臆病者が!!」


怒り心頭で向かってくるデスブリンガー。

我を忘れているわけではないだろう。当然、隠し玉に警戒して構える。


「『メメントモリ』…」


その言葉を聞いてハッと銀音の顔つきが変わった。

受け身だったその態勢を即座に回避へ切り替える。


「『ウルティマ・フォルサン』!!」


だが既にデスブリンガーの魔術は発動していた。

逃げ場がない。

瘴気の滲み出る黒い巨大な二つの鎌、それらが左右の退路を覆う。回避は不可能。


「名前負けが!二度と名乗るな!」


全てが覆いつくされ、黒へと染まる。

そこに立っていたのは、デスブリンガーだけ。

勝敗は決まった。


「名乗った覚えはないです」

「がはっ!?」


デスブリンガーが血を吐く。背後に銀音が降り立った。

白かったドレスを黒く染め上げながら。


「弱いです、ハッキリ言って殺すに値しません」

「ごあっ」


唖然とするデスブリンガーの背を蹴り、大鎌の峰を向ける。


「リガレ」


手足を二つの光の縄がデスブリンガーを拘束し、無力化した。

「大層な名を掲げておいてこの弱さは身の丈に合ってないのではないですか?」

「ぐぅっ・・・!」


銀音の罵倒にデスブリンガーは何も言えないでいる。ただ悔し気に歯ぎしりするだけだ。


「せいぜい蟷螂マンティス辺りが相応しいと意見をさせてもらいます、シグナス」


そう言い残して、白鳥を呼び十字の穴へと落ちていった。

「…チクショウ!!」

デスブリンガーはあまりにも哀れな敗北に、悪態をつくことしかできなかった。


------------------------------------------------------


俺はもう一度ナイフを振るった。ヴェントゥス・バスタを纏った一撃だ。


「フォルマティオ」


北川は変形の魔術を唱える。ハラディの刀身が伸び、短剣から長剣の長さになって俺の攻撃に対応した。

長さが変わったからと言って、俺の攻撃が衰えるわけではない!


「…ぐっ」


受け止めきれずに遂に攻撃を逸らした。打ち合うことを止めたのだ。

これはチャンスだ、ゴリ押しが出来る合図だ。

このまま手を止めないで圧していく。

逸れた刃を返し、反対側から斬る。

それを北川は受け止める。そろそろ限界なんじゃないの~?


「無詠唱は、もはや効かんか」


北川が刃を逸らす勢いで後退する。

流石に射程外なので俺も一歩踏み込んで押し込むしかない。


「逃げるなよぉ!!」

「そのつもりだ、『インサニモス』」


踏み出した足が、重くなった。重さが侵食するようにして全身に回る。

刃が元に戻り、地面にひれ伏した。悪態をつくにも体勢がきつい。


「く、そ」

「まだ私の方が上手だ、そのことを忘れるなよクソガキ」


コツコツと足音を鳴らしながらひれ伏す俺へ近づいてくる。

俺は、何もできないでいる。


「全く、お前を見ているとこの国の平和ボケ具合が見て取れる」

「な、に」

「お前は俺がなぜこんなことを、どうして、と疑問に思っているのだろう?」


思考の内を読もうとしている、そうやってマウントをとって気持ちよくなる作戦か?

しゃべるのも一苦労なのでしゃべらないが。


「ほかの国を見れば一目瞭然だ、お前と同じ歳の子が身を粉にして働いている、家族のためにな」


説教をし始めた、だから嫌なんだよ、こういう大人。


「説教に嫌悪感を感じたか?当然だろう、お前は真面目ではないからな、真面目なことに対して真摯に

向き合えないのだろう?」


思考を先回りされた。しかしここで驚いてはいけない。相手に主導権を握らせて優越感を与えてはいけないのだ。


「教師の言うことかよ、それが」


咄嗟に出てきた言葉がこれ。負け犬の遠吠え並みの情けない返しだが、なぜか北川は少し考え込むようにして、言った・


「…そうだな、では教師らしく聞こう」

「?」

「お前の父親が、お前に力を与えた理由、答えてみろ」


理由、俺が巻き込まれ、この結界内でやたらと力の優遇をしてもらっている理由。

こいつの言う通り、父さんが何かの計画に俺を巻き込んでいたのか、または別の理由か。

そもそも、意図せず起きた事故か。

それが一番俺にとって現実的で、納得しやすい理由だ。

だけど、違う、そう思うと力が湧いてきた。

正確には戻ってきた感じか。これはもともと俺に備わっていたもの。


「…俺、記述問題って嫌いだけど、これだけは答えるぜ」

「!?」


立ち上がる、俺の内から体を押しつぶされるような力が弱まっていく。


「父さんは!俺に世界を救ってもらいたかったんだ!」


湧き上がる力がそのまま放出するようにナイフに乗る。そして、可視化した風が螺旋を描いて纏い付く。

台風とかサイクロンとかのイメージが現象として実現する。


「じゃなきゃ殺された説明がつかねえよなぁ!?国語教師ぃ!!」


うまく制御できない、だけどこの暴風を北川に向けることはできる。


「なんとか言ってみろ!百点満点だろぉ!」

「ぐっ、うっ!」


乗りに乗った俺の力を北川のハラディへ叩きつける。

全身が軽い、さっきまでの重みが全て北川の魔法のせいだとしたら俺が負けるビジョンは見えない。


「吹き飛べぇ!!」

「ぐうあああああああ!!」


徐々に増していく暴風によって北川は宙を舞い、全身が風で包まれて切り刻まれていく。

俺は力を出し切り、風も徐々に弱まっていく。宙を舞った北川は重力に沿って地面に背中から打ちつけられる。


「はぁ、はぁ、なんとか言ってみろよクソ教師」

「がっ、はぁっ!?」


悶絶してものも言えない様子だ。流石にやりすぎたか?とは思ったものの生きているから別にいいかと思い直す。


「有志さん!」


頭上から声が聞こえた。銀音さんだ。

白鳥に乗って下降してくる。


「へへっ、やったぜ俺」


銀音さんへ向けてサムズアップをする。

流石に疲れて体の平衡感覚がアンバランスだが、まだ立ってはいられる。

ナイフを床に突き刺し姿勢を安定させた。

白鳥が着地し、銀音さんが近寄る。


「そっちは大丈夫すか?」

「対処済みです、問題ありません」


涼しい顔で言う。あのデスブリンガーとかいうやつ、触れたら死ぬみたいなこと言ってたけど、それを難なく対処ってことか。流石だァ。

北川を見る。倒れて虫の息、優勢は明らかだ。


「なんとか北川を無力化、それでこれ、どうしますかね?」


上にあるミラーボール、もとい結晶を指さす。

下手に手を出して爆発するのも怖いから銀音さんに任せたかった。


「壊します」

「ああ、いいんですね」

「すでに解析は終えています、あとは実行するだけ…」

「くはっ!」


銀音さんの言葉に食い気味で遮ってきた声がある。

北川だ。


「おめでたいな、壊す程度で解決すると思うか?」

「ヴェントゥス・フーヌ…」


北川の煽りにガン無視を決めた銀音さん、しかし、異変が起きた。


「!?」

「おわっ!?」


詠唱を終える前に地響きで床が揺れる。

俺もバランスを崩して倒れ込んでしまった。

結晶が光り輝き、それにつながる管がバクバクと食事をする蛇のように膨らむ。


「すでに仕込みは終わっている、後は裁きの時を待つだけだ」


心なしか、北川の声に勢いが戻っているように聞こえた。

見ると、血が引いていく。ズタズタにしたはずの北川の身体が癒えていく。


「な!?」

「残念だ、全てが無駄だ、そうだろう?死の魔術師」


立ち上がる北川。服もボロボロ、眼鏡も割れて役に立たないレベルの損傷。

なのに体は無傷そのもの。


「全てはこの日のため、努力が実る日が来た!」

「何調子乗って…」


教師っぽい口調で語る外道に少しイラっと来た。

だが、次に襲い掛かる焦燥感、体全体が何かに引き寄せられる。

何とか引き寄せる方向を探るとそれは結晶、結界の核の方だった。


「もう手遅れだ、我らが力を尽くし成長させた努力の結晶は!時間を経て肥大化する!!」


北川の身体を何かが覆う。一つ一つ白い雪のような破片が集まり、鎧を形成した。


「私たちの勝ちだ!!トラッシュ・コルセルニ!!」


人の上半身に馬の下半身、それを覆う白い鎧。兜は白く覆われた表面に黒い深淵から黄色い眼光が怪しく覗く。

ケンタウロス、その表現が俺の知識内ではやっとというところか。


「この結界の全ての力が私に集まる、この世界で私が最強、ということだ」


理解力の乏しい俺に、元国語教師は分かりやすく現状を解説した。


------------------------------------------------------


外では陽太郎が耐えず戦闘を続けている。


「クソぉ、らぁ!」


先ほどまで余裕気に放っていたはずの魔術も、もはや微量の力で大剣に纏わせて斬るだけ。

接近し鍔競り合いを挑んで、反撃も受けつつ辛勝。

それが数体もの騎兵を相手にすると陽太郎の身体はボロボロ。


「タイマンは苦手じゃねえけどよ、連戦はきついわ」


何とか最後の一体を斬り、全滅させるとこぼれ出る弱音。

ただの独り言、誰に伝えるでもない言葉。


「きついよね?じゃあ僕で終わらせようか」


それに応える言葉があった。


「うっ!?」


陽太郎の胸から突き出る青白い刃。

それは背中から突き刺さったモノである。

目で追い、放たれた位置を逆算すれば宙に浮く召喚士に至った。


「て、てめえ…」

「やあこぎげんよう、あの時の借りを返しに来たよ、ヴォカーレ・ドラグノイド」


杖で位置を指定する。その先は、陽太郎に近い位置。

二体の竜人が現れる。

陽太郎より少し大柄な竜人、それも二体。

すぐさま湾刀が振るわれる。


「…なんてことねえ!!」


かつては軽く翻弄した相手だ、だが…

手負いの彼にはやり過ごすだけの力がない。

キィン、と金属音が鳴り響いた。劣化した大剣が、折れたのだ。


「キャパってあったらしいな、俺」


肩から斜めに刻まれた傷が彼の敗北を物語った。

倒れ、地に伏し、根を張る。

天変地異のような地響きに揺られ、陽太郎は苦痛の表情には無くむしろまどろむような表情で眠りかけていた。

そんな中で寄ってくる足音、召喚士の姿を見る。


「僕の勝ちだ、ドラゴン使い、卑怯と罵るなよ?作戦勝ちなんだから」


足蹴にされた頭、しかしそこに陽太郎の意識は無く、ただ薄ボケた視界。

召喚士の首にかけられたロザリオが揺れていた。


------------------------------------------------------


3階の一教室、そこには避難している生徒たちがいた、はずだった。


「おご…」

「むが…」


そこにはうめき声を上げる木々が生えているだけだった。

3階の高所に、不自然に成長していく。

人の形が見当たらない中、隅にかろうじて人の姿を残した女子生徒がいた。

面を被った、女子生徒。


「大丈夫だよ」


彼女は優しく木々に呼びかける。

誰も聞いてはくれない。だがそこには命がある。


「助かるよ、私は信じてるし、識っているから」


絶望的な状況に、希望を見出しているかのように口元はほころんでいる。


------------------------------------------------------


昇降口、そこに二人の生徒が立っていた。

刀と弓を構え、入り口に対して向ける。


「僚、抜かりはないな?」

「ああ、もちろんだ、事はすべて終えた」


入り口と窓から駆けこんでくる騎兵、襲来しても二人は微動だにしない。

根が全身を拘束するように張り巡り、動けずにいるのだ。


「ならば後は待つだけだ、結果が良かろうと、悪しかろうと、な」

「…良い方だと確信はしているがな」


木偶となった二人、それに騎兵たちは容赦なく蹂躙した。

剣で斬り、上半身を吹き飛ばし、根元がちぎれると倒れ、馬が駆けてズタズタと蹄鉄に圧されていく。

学校を守るものは最早、誰もいない。

人物ノート⑫


デスブリンガー


デスサイズの名を聞き、憧れつつも憎んだ青年。

使う魔術は基礎魔術と死の魔術、そして自己強化するビースティア。

理性的に見えつつも劣等感の塊であり、デスサイズへの執着は底知れない。

ただ殺すためではなく、強さの証明、自己承認欲求を消しきれず、それは行動へ現れ出た。

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