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デチャルネーレ  作者: ハゲタカ
Awakening of justice
11/22

常套な誘引

不安が募る朝、訓練は身が入らなかった。

気が気でないというべきか。ただ走ってたり、陽太郎と柔道している場合ではない。


「でやああ!」

「うおおお!」


いつも通り俺は力負けしていた。迫真の勢いで倒れる声を上げる。


「どうしたぁ!いつもより手ごたえねえぞ!」

「しゃあっ!」


何とか気張っては見るものの、陽太郎には見透かされるばかりだ。

やはり歴戦の猛者はそういうのが分かるものなのか。


「…もうそろそろ柔道部の連中が帰ってくるか」


時計を見る。7時40分頃だ。45分になれば本来柔道場を使うべき奴らが戻ってくる。

俺たちはあくまで借りている身なので退かねばならない。


「今日の朝練はここまでにしておくか」

「え、なんで?」


陽太郎の宣言に俺は疑問を持つ。今こそ鍛えておかねば不祥事に備えられない。


「もう少しリラックスしろよ」

「んなこと言われても、花壇見に行っていい?」

「おう」

「よっしゃ」


そういえばと、花壇のことを思い出し即向かった。

最近手入れしてなかったからな、さぞ寂しがっていることだろう。

狩れている可能性すらある、いや、枯れていて欲しい。

枯れていれば俺がいればこんなことにはならなかったと俺の必要性が高まるから。

逆に、すくすくと育っていたのなら俺、要らない子。

つっても結局は手を入れなきゃすぐ枯れてしまうのは当然の帰結だけどな、ハハハ。

角を曲がり、そこには花壇が広がっている。それは枯れてはいなかった。

そして、先に手入れをしている人がいた。

スペクター卿、もとい根室だ。


「来たか、光のガーデナーよ」

「お、おお、スペクター卿」


なんか属性追加されてる。


「不要物は排除した、貴様は何もしなくていい」

「おいおい、誰が頼んだよ」

「ここは学校だ、お前の庭ではない」


確かに、俺の花壇ではないが、しかし俺の存在意義が。


「ふん、レゾンデートルについて考える必要はない、お前には別にやることがあるだろう?」

「やること?」


つかレゾなんとかってなんだ?


「聞けガーデナー、向埜家はコルセルニに協力はしない、だが俺たちは守るべき世界を守る、そうだろう?」


根室はポケットから何かを取り出し、俺へ突きつける。


「これは?」

「会長からだ、向埜家秘伝の魔法具、受け取っておけ」

「秘伝?いいのかそんな大事そうなもの」

「言ったはずだ、守るべき世界を守る、それはお前とて例外ではないだろう?」

「…」


絶妙に見えない。根室は何を言いたいんだ?


「…確かに渡した、ぬかるなよ」


そう言って根室は去っていった。

俺も特にここに用事はない、根室が全部やっちゃったから。

雑草抜きも水やりも全部終えた後がある。

…もしかして俺の訓練を応援してくれてんのか?

でも陽太郎に打ち切られたしなあ。

自主練するか。あ、やっぱ魔術書読むか。

俺は校舎へ戻った。


------------------------------------------------------


授業が終わり、放課後になった。

少し魔術書を読み込んで部室へ向かう。


「お、石井」

「遅かったな」 


平均値の男がいた。


「ちょっと本を読み込んでて」

「面白いラノベでも見つけたのか?」

「いやーラノベと言うよりは辞書みたいなもんで…」

「辞書みたいなラノベもあったぞ」

「…マジ?」


ラノベって中高生向きの小説じゃないのか?

そんな某京極作品みたいな太さで読み切れるのだろうか。

俺が席に着くと続いて誰かが入ってきた。


「お、大将やってる?」

「寿司屋じゃねえよ」


陽太郎だった。こいつが部室に来たということは…


「俺もようやく重い腰を上げて動くとするか」

「今腰を下ろしたばっかだろ」

「おん?別に訓練の時間とかじゃないぞ」


訓練かと思ったがそうではないらしい。

じゃあ普通に部活動なのか、珍しい。


「そこのゴーストと少し話があってな」

「ゴースト?」

「スペクターだ」


相変わらずの影の薄さか、いつの間にか俺の席の斜め前に根室が座っていた。


「野暮用ならば一対一で話すがいい」

「野暮用だが、これは会長さんにも話しておくべきことでな」


陽太郎が俺の方をちらっと一瞥する。


「?」

「一体何の話だ?」


俺と石井は揃って疑問符を浮かべたが、突然の気づきによって理解した。


「大したことではない、奴らは光の者、俺は闇の者であっただけだ」

「すまん、標準語で喋ってくれ」


銀音さんが拒否した協力のことだろう。

コルセルだの向埜家だのとは関係なしに、俺達が個人的に協力するのは構わないはずだ。

ただ銀音さんを差し置いてそういう話を進めるのもどうだろう。


「すまんが、根室を…ハッ!?」


陽太郎がなにかに気がつくと、石井の腕を掴む。


「な、なんすか」

「石井、お前もこい!」

「え、嫌っす、なんで?」

「お前、尿意が限界なんだってな、俺はお前の尿意のことには詳しいんだ、早く部室を汚す前に来いっ!」

「あ、ちょっ、何なんすか気持ち悪い!」


全員ごそっと部室から出ていき、俺一人残る。

ああ、俺もそのラッシュに、ビックウェーブに乗ればよかったかな?

なんて考えていると窓際にコトッと鳥が降り立ったような音がした。

見ると天使がそこに立っていた、違った銀音さんだ。


「有史さん」

「銀音さん?なんで」


ハブられているの察知したのか?意外と寂しがり屋なんだな。


「急いでください、新たな結界の痕跡が確認されました」

「え!?」


その言葉に身が強張った。

やはり、このタイミングで来るか。

恐らくこれで相手の動きが予測できる、んだろう?

確証は無いけど、得られる情報の重要性が高まるはずだ。


「腹括ります!」

「意気込みは認めます、けれど不用意な真似はしないように」

「イェスマム!」

「さて、予想通り結界の反応は以前よりも北にあります」


銀音さんが俺へ手を差し伸べる。


「陽太郎も後から来るので、私たちが先行します」

「ウっス!よろしくお願いしまっす!」


気合十分、覚悟十分とコンディションはばっちりだ。

窓枠に乗る、すると下に白い鳥が羽を広げたまま待機していた

時が止まったままみたいな奇妙な感じだ。


「シグナス、発進」

「グワ」


アヒルみたいな声だな。アヒルなのか?


「ちゃんと掴まっていてください」

「掴まる?」


この体毛にか?一応掴めるけど…

掴んだ瞬間に急発進した。


「うおおおお!?」


速い、速すぎる。さながらエアバイクだ。

建物の隙間と言う隙間を縫っていく。

当たるか当たらないかという生死の狭間で自然と顎を上下に振ってしまう。


「うおぅんおぅん」


こ、怖い。圧倒的恐怖に身がすくむ思いだ。

俺が耐衝撃に備えていると動きはすぐ止まった。


「着きました」

「もう!?」


着いた先は誰も寄り付かないような廃工場だった。

まあただでさえ田舎の端のコインランドリーだったんだからそんな場所にもなる…

なんで?


「なあ銀音さん、なんで敵は北に向って行っているんだ?」

「色々ありますが有力なのは二つ、一つは北へ向かう痕跡を残すことによる誰かへの合図、もしくは魔術的な意味を持たせ、儀式を行おうとしているか」


儀式、生贄とか使って行うあれか。国土錬成陣みたいなもんか。


「もう一つは…」


言いかけたところで世界が変わる。

昼間なのに空が真っ暗。

そして工場内の影に目を光らせる怪物たち。こいつらには見覚えがある。

カエルだ。最初に俺を襲ってきたあの。

巨大カエルではないが、普通のカエルよりは少し大きい


「ただ私たちを、もしくはあなた個人を誘導しているか」

「リベンジマッチか、燃えてくるじゃん」


あの時は抵抗する術を持っていなかったが、今は違う。

俺は剣を握る。

こいつがあるから俺はそう易々とはやられない。


「ヴェスタ!」


先手必勝!ゲコゲコと腹を膨らませてこちらの様子をうかがっている鈍い爬虫類どもに風の槍を放つ。


「ヴェスタ!ヴェスタ!」


ただ詠唱が中々面倒だ。だからこそここで工夫を凝らす。


「ムルト・ヴェスタ!」


剣先に巨大な魔法陣が展開し、風の槍が一斉に発射される。

違う、そうじゃない。

俺はマルチロックをしたいだけで一地点に集中して打ちたいわけじゃない。

そしてオーバーキル、一撃で死んだであろうカエルの身体はハイエナに漁られるがごとく貪られ、肉片が散り散りになる。


「げ」


一体に集中してしまったがため、他方向からカエルの舌が伸びてくる。


「まだまだ、甘いですね」


俺を襲う舌は全て斬られ、届くことは無かった。

銀音さんの大鎌がきらめく。


「巣立ちの時は遠そうです」

「さながら俺は親に守られる雛ですか」

「腕を上げてきたと思ったのですが、思った以上に見過ごせない実力です」


言いながら銀音さんは大鎌を振り、カエルが切り裂かれていく。

無詠唱で、刃が触れずに裂かれていく様は剣技の達人のよう。

無詠唱魔術と言うのは強者の証だ。今の俺がやっても出ない。と言うかまずやり方が分からない。

杖を出してそこからどうするんだ、と終ってしまう。


「あとは、あれだけですか」


カエルたちの肉片が散り、霧散していく中、奥に鎮座するシルエットが見える。

俺の身長の2倍くらいはある巨大サイズのあのカエルだ。


「こっからがホントのリベンジだ、銀音さん、見ていてくれ」

「周囲の警戒を怠らないようにしてください」


俺は前に出る。汚名払拭の機会だ、あの時の情けない声を上げていた俺はもういない。


「行くぜ、新技!『ディフォルマティオ・バリスティック』!」


俺は剣を変形させる。ナイフのような剣を。

刀身を飛ばすあのナイフへと。

スペツナズ・ナイフ、バリスティックナイフとも呼ばれるあの射出型ナイフだ。

銃弾等が魔術的に考えると威力が低くなるのなら、ナイフを飛ばす方がいいに決まっている。


「飛ばねえナイフはただナイフだ」

「ナイフである以外の意味はありませんけど」


ただ変形させるだけで終わりではない。

その飛ばし方、扱い方が新技だ。


「ウェーレ・ヴェスタ!」


この扱い方のコツは二つある。

一つは杖を取手側に置くこと。

接合部から魔方陣を発し、刃をロケットのように噴射させる。

そしてもう一つは刀身側の接合部に魔方陣を置き、磁石のように引き留める。

その状態をキープし、ヴェスタによる風の刀身を形成。

射出型ナイフはリーチが伸び、ロングナイフとなる。


「盛大なリベンジだ!」


俺は巨大カエルに向って飛び、ナイフを傾けて振るう。

巨大カエルを綺麗にスパっと切れるほどに刃は伸び、そのまま一刀両断。

カエルは抵抗する所作を見せても関係なし、この新技の錆となった。

再形成するから錆にすらならないけど。

刀身を戻し、銀音さんにVサイン。


「流石に単体相手には苦戦しないようですね、数少ない成長が見れて安心です」

「辛口評価っすね…」

「当然です、命のやり取りに甘えは許されません」


そりゃそうだけど、もう少しムチとアメのアメが欲しいと切実に思う。


「しかし、妙です、結界が張られていて敵がこれだけとは」

「俺が初めて入ったときはあのカエルだけだったけど?」

「いえ、あの時は結界がすぐに閉じました、しかし今は…っ!?」


突然の攻撃、銀音さんが大鎌で投擲物を弾く。

俺たちの話し合いの最中に割って入る輩がいるとは許せん、しばくぞ!

カラン、と落ちた投擲物を見る。


「ちっ、なんで生きてんだよぉ!」


ナイフだ、ナイフを投げてくる金髪の男だ、俺たちとは真反対の方向のコンテナが積み上がったその一番上にいる。

ん?どこかで見たような奴だが…


「有史さん、私が正面で引き付けます、背後に回って抑えてください」

「了解!」


銀音さんが攻撃を弾きつつ、俺は工場の端の方へ行く。

そして、攻撃がある程度集中した瞬間を狙う。


「くらえ!」


大技らしき一斉投擲の隙に俺は剣先を背後へ向ける。


「ヴェントゥス・イニエシオ」


少し声を抑えて魔術を使う。

剣先から膨大な風を発し、ジェットブースターのようにダッシュする。

もちろん、自分で制御できるよう加減をする。

しかしながらハウエバー、思った以上に早かったため、壁を蹴って減速、と言うか壁を走っていた。


「ふんっ!」

「まずい!」


俺が壁から足を突き放し、コンテナへ乗り移った瞬間、奴はナイフを俺へ向けた。


「ヴェントゥス!」


そこへ銀音さんのアシストが入り、ナイフが吹き飛ぶ。


「ああ!?」

「逃げるなよ!」


まずはこちらに向けられているナイフのあった手を剣の側面で退ける。

そして背後から脇を通して拘束し、足を宙に浮かす。


「は、離せ!」

「銀音さん!」

「リガレ!」


銀音さんが拘束魔術を発動し、両側の肘と膝をくっつけて拘束。

相手をH字になった体制で転がす。


「な、何だこの態勢!」


「おそらく一番屈辱的な態勢でしょう」


なぜそのような態勢に…もしかして銀音さん、お怒りか?

鬼神とかした銀音さんはジリジリと金髪の男ににじり寄る。


「さて、あなたは一般人かと思いましたが、あまりにも魔力が弱すぎて察知できなかっただけでしたか」

「ぐっ」


観念しきれない様子で金髪の男は唸る。

その顔に見覚えがあった。


「あ、こいつはもしかして闇バイトの…」

「ええ、あのコインランドリーにいた一人です、そして結界の核の結晶も持っていた、ですが…」


銀音さんは訝しむ。


「あのとき建物内の人はみんな消えていた、結界への入場条件は敵側からすれば自由自在…なのでしょうか?」

「…」

「なんとか答えたらどうだ?」


あのとき、確かにコインランドリーには誰もいなかった。

そいつがなぜ今ここにいるか。考えられるのはあのあとに結界に入れる資格を得たか、もしくは結界への入場をオン・オフ自在なのか。


「…」


まだ黙りこくっている、この男、状況がわかっているのか?


「やむを得ません、情報を吐かないのであれば害になるだけです」


銀音さんが大鎌を振り上げる。

流石にその脅しには屈したか、男は口を開いた。


「…吐いたら、解放するか?」

「その情報が正確である確証を得られるまでは解放できません」

「お、俺は何も知らねえ!結界が張られたら自然とここにいた!」

「他に仲間は?」

「い、いねえ」

「…」


銀音さんが大鎌を男の首筋に突きつけ、力を込める。ジリジリと刃が食い込んでいく。


「一人だ!一人、付き添いがいた!」

「それはどこに?」

「しらねえ…ほんとに知らねえんだって!」


大鎌の食い込みが深くなっても言葉は変わらない。

遂に銀音さんが大鎌を動かし、斬りつけた。


「がっ!?」

「これ以上の情報は期待できないですね、詮索を急ぎましょう」


ダラダラ流れる血、最後の足掻きのように痙攣する体、やがて動きを止める。


「…し、死んだ?のか?」

「これで生きていたのなら脅威の生命力です、普通の人間である以上、死んでいます」


死、死体、動かなくなった人体。

気持ち悪い、だけど吐き気は起きない。

殺しにきたのだから殺し返されるのは仕方ないだろう。

銀音さんの殺人に立ち会うのはこれで2回目だ。

1回目は死体も残らず切り刻まれて風に消えたのでショッキングなこともなかったが…

こう死体が残ると手が震える。震える手を抑えるが抑える手もまた震える。

目を逸らしたいが、逸らしてはいけない。

俺が使っているのはこんな世界だ。まだ浅瀬だ、こんな風景。

大切な人たちの死に比べれば、どうってことない。


「大丈夫ですか?」

「なにが?」

「…何でもありません」


察してくれたのか、銀音さんは追求しなかった。


「…結界を解きます」


銀音さんはそう言って大鎌を掲げた。


「アパトム」


ガラスが割れるような音、結界が破壊される音だ。

だが、景色は変わらない。


「…おかしいです」

「何が起こっているんだ?」

「アパトム、アパトム、アパトム」


何度も銀音さんが唱える、だが変わらない。


「ダメですね、結界の解除魔法が効きません」

「ってことはつまり、どゆこと?」

「アパトム…前言撤回です、これは魔法が効かないのではなく、張り直されているようです」

「???」

「もしかしたら、この男が結晶を持っているわけではない?」


銀音さんも確証を得られていない。

とりあえず死体をまさぐるか。ちょっと嫌だけど。


「じゃあ、こいつを調べれば…」

「結界の主が死亡すれば解除されるわけではないようですね…いえ、待ってください」


俺が死体に手を出そうとした瞬間、銀音さんは何かに気づいたようだ。


「これは、下の方のようです」

「下?」


下は工場の床だ。

工場ならば、地下もあるか。


「地下か、どうやって入るの?」

「単純に階段を使うのは危険です、この床を破壊します」

「え?」

「『ハガル』」


床がひしゃげる、とは行き過ぎた表現ではないことを言っておこう。

魔方陣とはまた違う、Hの字に似た形の文字が足元の床に浮かび上がると円状にくり抜かれ、ベコベコと形を変えて落ちていく。


「うおおおおお!?」

「『ターダス』」


急に足場のなくなった俺は銀音さんにしがみつく。銀音さんは魔術により落下を緩やかにする。

気球に乗っている感覚ってこんな感じなのだろうか?うお、柔らか…


「変な気は起こさないでください」

「だったらいきなり床を破壊しないでくださいよ!」

「これに対応できないようではド三流です」


スパルタだ、今朝の陽太郎とは大違いだ。

シクシクと俺のテンションと同期するかのようにゆっくりと降りていく。


「全く、このままでは死んでも文句は言えませんよ」

「悔いのない死に方をするよ」

「はあ、頑張ってください」


ため息を付くようになってしまった、しかし致し方ない。これが俺の生き様だから。

着地したのは暗い謎の空間。工場の設備、なのか?


「これは、拡張領域ですね」

「なにそれ?」

「結界に付与できる特性の一つです、現実にない空間を作り出し、動きやすくしたり隠蔽場所として使われています」

「今回は隠蔽ってことか」


道理で工場っぽくないわけだ。工場の地下なんてオイルとか廃棄物とかで汚れてるイメージだけど偏見かな?


「隠蔽…にしては少し甘いような気がしますが」


銀音さんが先導する。おぞおぞとその後ろへついていく。情なっ

でもこんな背景黒一色だと全然わからないのは仕方ないのでは?

銀音さんは、何か見える魔術でも使っているのだろうか。


------------------------------------------------------


銀音さんについていくこと約30分、いい加減長くないか?

変わらない風景に飽き飽きしてきたところで銀音さんが足を止めた。


「景色が変わりました、接敵の可能性があります、準備を」

「オーケイ」


俺は剣を構える。進んでいくと、地下道のような場所に出た。

壁面にパイプが通っているが、これも現実の工場のものか?もしかしてここで領域の終わり?


「拡張領域のカスタマイズがされているので、罠などにも気をつけてください」

「あ、ここも拡張領域なんだ」

「どちらにせよ相手の領域です、油断だけは禁物ですよ、『デプレンシオ』」


銀音さんが魔法を発すると、光波が前方を進行する。

そして、何かを感じ取ったのか、銀音さんが眉をひそめた。

「探知に反応しました、およそ50m先」


50m、となると見えるあの鉄の扉の向こうだろう。

扉に近づいて両端の壁にそれぞれ張り付く。


「開きますよ」

「うす」


俺と銀音さんは取っ手に手をかけ、開いた。

開ききったあと、少し間をおいてそっと覗く。


「なっ!」


思わず驚嘆の声を上げてしまう。

最初に目がついたのは部屋の上部に浮かんでいる結晶。形はまんま銀音さんが回収したものと同じだ。

だがそれより遥かに大きい。豆電球とシャンデリアぐらいの差だ。

青白い光を発して、心臓のようにドクドクと一定の振動をしている。

結晶と言う割には生物的な動きをしている奇妙な物体だ。曲がるスマホみたいなもんか?いや違うか。

そしてびっくりポイントその2、その結晶の下にいたのは以前大月と揉めていた生徒、上島さんだ。


「う、上島さん?」

「…ああ、やっと来てくれた」


彼女は望む待ち人に会えたかのような、嬉々とした表情を俺達に見せた。


------------------------------------------------------


俺達はそれぞれの得物を構えながら上島さんと向かい合う。

上島さんは地面に描かれた魔方陣のような紋様の中心に正座を崩した姿勢でいた。


「北川先生が言っていたとおりだ、これで全部終わる」

「上島さん、先生になにか言われたのか?」


俺が質問すると、上島は目が虚ろになり、興味を失ったかのような表情になる。


「あんたたちがいなくなればいいの」


そう言うと手を掲げて詠唱した。


「『ヴォカーレ・アガリタスク・デュープレックス』」


上島さんより手前に魔方陣が2つ現れると、そこから黒い外套の大柄な男たちが現れる。

こいつは…


「アガリタスク、ですね」


学校でも戦ったあいつだ。なんとか勝ったけど、もう一度勝てるだろうか?

いや、あのときとは練度が違う、それにコイツらに対して有効な魔術を知っているんだ。


「有史さん、10秒だけ片方を足止めしてください、一体はすぐに処理します」


大鎌を構え直し、俺へそう指示する銀音さん。すぐさま真正面から立ち向かう。


「ヴォカーレ・グラディウス」


アガリタスクたちが大剣を取り出す。

足止め?そんな程度で済めばいいけどな。

一度倒したから知っている。こいつの倒し方を。


「ナーゲル!」


陽太郎の魔術を使う。魔方陣が現れ、鋭い爪を持つ爬虫類の腕が飛び出し、アガリタスクの腹部を貫いた。


「ナーゲル!」


もう一度、敵の頭をめがけて使う。想定通りに爬虫類の腕は頭を貫いた。

前は魔力切れで使えなかった二度目のナーゲル、頭さえ潰せばもう動くことはできない、はずだ。

銀音さんの方を見る。少しきょとんとした表情で立っていた。

その少し間の抜けた顔の傍らに倒れて消えかけているアガリタスクがいるのは、ある種のギャップを感じる。


「驚きました、陽太郎に教えを?」

「見様見真似っす、この結界でしか使えませんけど」


すぐさま上島さんに向き直る。

なんか悔しそうに爪を噛んでいた。


「クソッ!なんでっ!?」


いや、爪どころか指を噛んでないか?血がダラダラ出てますけど。


「観念してください、これ以上抵抗するのなら容赦はしません」


鎌の刃をギラつかせる銀音さん。殺す気でかかるか。


「邪魔を、するな!ヴォカーレ!」


上島さんが再び何か魔術を発動させる。だが…


「…は、は?」


召喚魔術のようだったが、何も召喚されない。

上島さんも発動しないことに疑問を持っている様子だ。魔力切れか?


「なんで…なんで!?」

「終わりです」


銀音さんが大鎌を振りかぶる。


「ちょ、ちょおーっと!!」


銀音さんの前に出る。流石に知り合いを殺されるのは気が引ける。


「待ってくれ銀音さん、上島さんはもう何もできない」

「生かしておいては損でしかありません」

「殺しても損だ」


俺は必死に訴えかける。殺さない選択肢があるのならそうしたい。


「…尋問しましょう」


銀音さんが大鎌を下ろす。安心した、まだ人の心が残っていたようだ。


「や、やだ、なにこれ!?」


上島さんの方へ視線を移すと、その姿はみるみる変わっていった。

足は地に根を張り、胴体は木の幹に、腕は枝へ、髪や爪は葉へと変わっていく。

涙を流しながら怯える表情は樹皮の紋様へと消えていく。全てが固まっていき、その物体は動物というカテゴリーに属するようなものではなくなっていく。

変化の終わりには何かがキンッ、と音を立てて地面を跳ねる。

そこに小さな木が立つ瞬間であった。


「ぎ、銀音さん、これは!?」


銀音さんは黙々と落ちたものを拾う。それは指輪のようだった。


「代償、というよりは結果ですね」

「結果?」


その2つの何が違うのかわからない。


「この指輪は魔術を排出するためのものです、つまり目的がこの木のようになること」

「体から一切の魔力を排出した結果、ってことですか」

「そうです」


さっきのアガリタスクたちは上島さんの全魔力で召喚したものか。

となると、


「木に魔力は宿らないんですか?」

「宿りはしますが、産みはしません、逆に言えば魔力を失っても生きていける」


銀音さんは木に触れる。


「彼女の様子は指輪の機能を知らなかった、誰かがそそのかしたと思われます」


誰か、上島さんに何かを吹き込んだ人物といえば、心当たりがある。


「北川先生…」

「そろそろ戻ります」


銀音さんが踵を返す。


「え?結晶は回収していかないの?」

「あんな巨大なものは回収できません、それにこうしているうちに一番匂う場所が攻められる危険性があります」


銀音さんがこちらへ振り返り、淡々と説明し終えると…


「ッ!」


珍しく狼狽える表情を見た。いや、珍しいというか初めてだ。

俺も振り返ってみると、壁から触手が生えていた。

その触手が結晶に絡みつき、ドクドクと水を吸い取るようにして振動する。

結晶は小さくなっていき、最終的には銀音さんの持つ手のひらサイズに変わっていき、落ちて砕けた。


「…急ぎましょう」

「学校ですか」

「はい、そこしか考えられません」


俺達が入った経路から逆を辿る。背後から轟音が連続で響く。


「ぎ、銀音さん」

「拡張領域が崩れます」


上島さんだった木、あれが瓦礫に埋もれてしまう。俺達にはどうすることもできない。

人物ノート⑨


赤鳥


『三条家』の一人。魔導師としての度量を示す『メンシス等級』によって炎の魔導師の最上級『スカーレット級』に分類される実力者。

ある計画に加担し、夜の玲瓏高校を訪れた。

銀音と交戦するが、対策していたにも関わらず術式破壊の魔法を受け、戦闘不能。

仲間の召喚士に回収されて屈辱を味わう羽目になる。

白刃は大事な弟であったが、彼がデスサイズへの憧れを抱くと失望することになった。

憧れるならば、まずは自分からだろう、と。

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