約束
その豪奢な屋敷は日本に立つには不釣り合いな洋風のものだった。
二階建てで屋根は赤、壁は城、窓枠は木目のある茶色、明暗のはっきりしたカラーリング。一度見たら誰でも印象付けられるようなデザインだ。
その屋敷の一室、二人の男が窓際でチェスをしていた。
「湿った空気も風情があるものだな、志木」
「黒野、風情とか俺よくわかんねえんだけど」
曇った空に今にも雨が降りそうな湿り気、そんな中で窓を解放している。
「さっさと閉めてくんね?」
「それはダメだ、私のモチベーションが下がる」
強情なやつだな、と志木は譲歩する。
チェスの盤面を見ればお互い五分のように見えた。
「んで?お前が勝ったら何をやるわけ?」
「世界を貰い受ける」
「…」
黒野の突拍子もない発言に志木はただ唖然としていた。笑うべきか怒るべきか、思考に混沌が渦巻く。
「成人にもなってガキみたいなこというなよ、冗談言う場面ぐらい考えたらどうだ?」
「冗談と取るか本気と取るか、お前に任せるよ」
そう言って黒野は志木の駒を次々と取っていく。
「あ、卑怯な番外戦術を…」
「勝手に惑わされておいて文句を垂れるな、お前が勝ったらどうする?」
志木は納得いかないような表情を浮かべるが、ついには愉快な表情で駒を動かしながら言った。
「息子の未来を約束してもらおう」
「…ふ、それでいいのか?」
「ああ、それだけでいい」
その愉快な表情の裏には確かにれっきとした思惑がある。
だが黒野は、志木の思惑など読み取れなかった。
「じゃあ、約束だ」
「ああ、二言はない」
勝敗の行方は、誰にも分からない。例えおてんとうさまでも曇った空に遮られては見え辛かろう。