無地
「あーあー。疲れたぁ。」
手を頭の上で組み身体を伸ばした。
歪だった身体は元通りに戻った。
遺体から衣服をはぎ取り、着用した。
見栄えは多少良くなっただろう。
「王都に来た目的は仲間を探す事...では無く、ただただ、単純に観光をしに来ただけ。それなのに、こんなとこに来る羽目になってしまうとは。まぁここの存在を知ることもできたし、運が良いと言えば良いのかな。」
肩を叩かれた。
ん?ここには俺しかいないはずなんだが。
「や、やぁ、こ、こんにちは?」
「びっくりした。」
挙動不審な男の子がいた。
「僕は、ビアー、よろしくね。」
「俺はニム。いつからここにいたんだ?」
「さ、最初からさ。ここ、ができ始めた時から。」
「もしかしてお前も二つ名とかあるのか?」
「!よよよよく分かったねねぇ!」
不自然なほど焦り始め、汗を大量にかいていた。
ここにいる奴らは何かしらの異名を持っている。
俺には無いけどな。
「僕は『無地』、って呼ばれているよ...。」
こいつがあの有名な『無地』だったのか。
数年前各国の偉人を暗殺し、一時期有名になったやつだったかな。捕まったはずだったがすぐに脱獄しそのあと消息不明となった大物のはずだ。
「僕はずっと『魔手』の後をつけて生活してたの。だ、だからここから出る方法も知ってるよ...?」
「どうしてこのタイミングで出てきたんだ?」
「そ、そそそれは...、き、君がここを破壊しそうだったから、出てこないとなって思ったからだ。」
相当な手練れなのだろう。ずっとここにいたということはザインよりも長くいるのか。大先輩じゃないか。
「それで、ここからどうやって出るんだ?女は殺してしまったし、『破壊』のザインも死んでしまっている。」
「簡単だよ。ここは空の上にあるんだ。だ、だから下を壊し続ければ簡単に脱出できる。それに『魔手』の制御も効かなくなってきてるし、おそらくすぐ出れると思うよ。」
「そうか。いろいろありがとうなビアー、ついでに王都の観光名所についても教えてくれないか?」
「ぼ、僕魔族だから、ここのことはよく分かってないんだ、ごめんね。」
魔族?気づかなかった。人間に擬態するのうますぎだろ。
「擬態うまいな。言われなきゃ分からなかったぜ。
観光名所は自分で探してみるわそれじゃまたどこかでな。」
「気をつけてね、ば、バイバイ。」
軽く手を振ると振り返してくれた。
なんだか、かわいいやつだな。小動物みたいだ。
おっと、もうビアーの気配を感じることが出来なくなってしまった。一瞬すぎて分からないな。
ビアーに教えてもらった地点で俺は魔法、いや魔術を使った。
「秘術、虚無・溜出。」
下に向かって高濃度の魔力の塊を放った。
圧縮された魔力は具現化を起こし、床に亀裂が入った。
亀裂は床から壁、壁から天井へと、空間全体にいき渡った。
「秘術、虚無・一点突き。」
魔力を纏った人差し指を亀裂に差し込む。
力を込めて押し込んだ。
そのまま床を突き破っていき、かなりに深さまで行った。
かなり硬くなってきたのでさらに込める力を強くした。
「キィキキキッ!ボガァン!!」
爆音と共に突き破り、王都が見えた。
本当に空中にいたようだ。
そのまま自由落下をした。
このまま落ちれば肉塊に成り果てるであろう。
また再生すれば良いだけのことさ。
そのまま風を感じながら落ちていった。