魔術
女は素早く立ち上がった。
手を俺に向ける。
「敵を捉え、抉り取れ!空術、ボロス!」
空術!?魔術の一種か。
キツくなったのか、本気を出してきたな。
っ!まずい。
「...嘘だろぉ。」
直撃してしまった。
俺の下半身が消えてしまった。
初めての感覚に脳の反応が遅れる。
感覚がない。
「ハァ...ハァ...、まさかこれを人間相手に使う日が来るとはね。これであなたもおしまいよ。」
おしまい?
まだ左腕が生きてるだろ?
必死の思いで手首を動かす。
ちょっとでも動けば良い。
「おっと、危ない危ない。そこも切り取らないとね。」
肩から先が消えた。
もう痛みなんて無い。
あるのは頭と胴のみ。
血は身体から出ていない。
あぁ、意識が遠のいていく。
回復しないと...な。
回復...。回ふ...く。か...い...?
「ぉ、おい...どうなってるんだ...おまえ?」
なお...さなきゃ......。
か、身体...を...、再生。
「やっぱ、ここにくるやつは人間やめてるんじゃ無いの。
生きて出られたら、王様の事殴ってやらないと気が済まないわよ。」
、私いる?欲しい?生きたい?
私必要?いるよね。うん、私も生きたい。まだまだよ。
「は、はぁ!?か、身体から出てるそれ...一体なんなのよ!?」
あぁ、俺もだ。 、俺もまだ生きたい。
だから出てきて良いぞ。今回も頼む。
「さ、先に消してやる!空術、飛爽・三式!
っ!?は、弾かれた!?」
ちょっと身体借りるね。
あぁ、頼む。
「...ぁ、......ぁあ。ん。やっほー、こんにちは?」
「は?」
「は、じゃ無いでしょ。私のニム、どうしてくれるの?やっと外に出れたのに、ニムがこんなんじゃ私生きていけないよ?」
「この化け物...!」
手足の感覚がある。
視覚も回復してきた。
筋肉の張りを感じることができる。
今俺の身体は胴体から黒くドロドロとした物体で手足が形成されている。
「あ!短剣が、落ちてるじゃん。これは拾っておかないとね。」
短剣が右腕の中に入ってくる。
身体がうねり始めた。
「貴方は誰...?」
「私はニム。ニムって良い名前でしょ?私が考えたの。」
おい、 。余計なことは喋るなよ。
そろそろ、いいんじゃないかな。
「小汚い女の子ちゃん、またね。」
意識が変わる。
「んぁ、あぁ。よぉ、女。おはよう。」
「...っ!?」
「あー、今ので2354回目の形成か。
意識が変わるのさえなんとかならないかなぁ、なぁ?」
「わ、私に言われても...。そ、そんなことより、あなたなんなのよ。人間が生き返るなんて、再生するなんて聞いたことが無いわ!」
「この限られた空間内にいるお前に教えてあげよう。」
俺はまだ柔らかい筋肉を凝視しながら魔術を使った。
「秘術、虚無・斬昔。」
「えっ!?」
まさか攻撃してくるなんて思っていなかったのであろう。
女の身体がクロスに引き裂かれる。
血は出ていない。
無論、血を出さないのだ。この術は。
どう、して...?と言いながら女は絶命した。
俺は女の近くに寄り、頭に手を当てた。
「どうだ?食べれるか?」
うーん、まぁまぁかなぁ。いただきます。
女の頭が軽くなるのが分かった。
情報が流れてくる。
空間系魔法を扱い、空術の術を4つ保有して、ここの制御を管理していたのか。女の名前は、アイリー。『魔手』の二つ名持ち。元宮廷魔導士で、そこそこの地位にいたようだ。
「さて、傷も塞がった事だし、ザインのも取っておくか。」
ザインがいたところを見ると、アイリーの空間魔法で穴が空いていて原型を留めていなかった。
これでは食せない。ザインのことは諦めるか。