短剣
「気は済んだか?」
「あぁ、久しぶりに殺してやったぜ。」
血だらけの握り拳を見せてきた。
女のほうを見ると首から上が消えていた。
首の辺りには微かに魔力の残滓が残っていた。
魔法に弱そうなザインはそれ気付いていないだろう。
「んでよ、どうすんだ?ここからどうやって出るんだ?」
「この女を使うんだよ。ザイン協力感謝。死んでくれ。」
は?という顔つきのザインの胸にはぽっかりと穴が空いていた。心臓を突かれたのか血が大量に溢れていた。
それにやっと気づいたのか吐血をして、そのまま倒れた。
女の方を見ると若干腫れた頬をさすっていた。
「おっかしいな。確かに当てたはずだったんだけど。」
そう言って、身体をゆっくりと起こし立ち上がった。
首をさすって、違和感がないのか調べていた。
「なるほど。身体の一部を空間ごと切り離したのか。」
「あら、バレちゃった。正解。私の十八番だったのよ。」
「そして隙を見せたザインを殺したと...。」
「貴方にも当てたつもりだったんだけどね。どういうことかしら。」
「俺には......おっと違う違う。ゴホン...。俺には当たりませんよ。すみません。」
「何よ急に改まって。気持ち悪い。」
初対面の人には礼儀良くしないとな。ザインと話してる時のまま話してしまった。
「ええと、俺はこれからここを出ようと思っているんですけど、あなたはどうしますか?」
「私はここの守り手としてあなたを逃がさないつもりでいるんだけど?」
女は戦闘体制に入った。
指先から魔力の残滓が見えた。
いや、足の指からも出ているな。
「俺はザインのような快楽殺人者では無いので、不要な殺生はあまり好まないのですが。」
「あらそう。私はどちらでも構わないけどね。」
女に気づかれないように魔法を使うか。
いや、どうせなら格の違いというものを見せるのもありか。余裕から絶望にしてやろうか。
。 。私との約束は? ばっかりずるいよ。
私にも べさせて。 空いたよ?
、お前はまだ出てきちゃダメだ。後でいっぱい食べさせてやるからもう少し待っててくれ。
「ボーっとしてるなんて、隙だらけ。行くよ!」
見えない攻撃が飛んできた。
正確には、空間がそこだけ歪んで見えるかのように見える。見た感じ正方形、円柱、三角形、球が見えた。
正方形の塊が襲いかかってきた。
それを華麗に避けてみたら、俺がいた場所は四角く、くり抜かれていた。すぐに地面が再生する。
「攻撃手段のないあなたに何ができるって言うの?避けてばかりじゃ疲れちゃうね?」
「そんなに反撃して欲しいのか?」
もういいか、普通にタメ口で。
俺がそう言うと女はさらに笑顔になった。口角が上がり、攻撃を避けている俺を見て勝ちでも確信したのか、そんな表情を見せてきた。
攻撃の手数が増えてきて、いろんな形のものが襲いかかってくるので身体を捻りながら避けなければならず、俺は2つほど避けきれず当たってしまった。
当たったのは肩と右足。
両方とも微かに当たっただけだったが、当たった場所がその形でくり抜かれていた。
普通に痛い。筋肉を齧られたかのようなそんな痛みを感じた。
「もうすぐで死んじゃうね。新しい子がどんな犯罪者かワクワクしたけど、こんな弱弱な子だったなんて。間違えられてこんなとこに来ちゃったのかな?」
いちいちムカつくような煽りをいれてくるのでそろそろ反撃をしようと思う。
反撃しようにも避けながら魔法を使うのはあまり練習してこなかったので難しい。荷物は取られてしまったので何も持っていない。
女の攻撃をあえて右腕に当てた。
俺の謎行動に首を傾げた女だったが右腕から血が出てこないことに驚いていた。
当たった右腕は黒く変色をしており、やがてぼろぼろと肉が腐り落ちていった。
その中から一本の短剣が出てくる。
銀色で傷一つない綺麗な短剣。剣の柄はくすんだ金色で、左手でそれを掴み引っ張り出した。
まだ筋や肉が落ちかけの状態だったのでそれを無理矢理引き剥がす。
「これならどうだ?立派な武器だろ。」
その武器を見て女は言う。
「なんて禍々しい。なぜこの距離でそれを見つけられなかったの!?これはまずいな。相当な代物だ。」
独り言のようにぶつぶつ言っていた。
攻撃が中断され俺は後ろに下がった。
距離を取り、短剣を横に薙ぎ払う。
女は一瞬の判断で地面に伏せた。
伏せていなかったら直撃していたであろう、女の後ろの壁は綺麗な断念で斬られていた。
「本能か?良い判断だ。お前のターンはおわりだ。絶望しろ女!」