王都
キキエの村からさらに歩き、気づけばもうお昼頃になっていた。王都に近づいてきたのか人も多くなってきた。
剣を携えている人、杖を持っている人、本を持ってる人など、いわゆる冒険者と呼ばれる人達だろう。
すれ違う度に俺の貧乏そうな服装を見て笑いを堪えたり、冷めた目で見てくる人たちがいた。
見られているのを無視しながらさらに歩くと大きな城壁と門が見えてきた。
門の前にはさまざまな人が列を作り、待機していた。
最後尾に並び待っていると、他の人たちの声が聞こえてきた。
「おい、いつまでかかるんだよ!」
「ちょ、ちょっと、そんな大きな声で叫ばないで!」
「だってよ、あれから全然進んでないんじゃないかよ。」
「みんなそうなんだよ。自分だけ融通がきくと思わないで!」
ごもっともだ。男の方はうんざりとしていたが女の方はしょうがないでしょ!と男をなだめていた。
たしかに俺が並んだのはついさっきだが列は一人も動いていない。
門の方から男が歩いてきた。
「王都に入る前に荷物検査をすることになった!」
「に、荷物検査?」
「また、怪しい者は捕らえる!」
この発言により列に並んでいた人たちはざわめき始めた。
普通荷物検査などせずに身分証明書と硬貨を支払って入ることが出来るのだが、何かあったのだろうか。
「いずれ知ることになるだろうが、今知ってもらうぞ。
ここ王都から南にあるサラドの街で殺人事件が起きた。
犯人の特徴は男。情報はそれだけだ。殺された者は、サラド伯爵。貴族暗殺事件として犯人には多額の懸賞金がかけられることになった。これにより、荷物検査というものが設けられた。大人しく従ってもらうぞ!男はここに、女はこっちに並べ!」
サラドの街は俺が早朝に出て行った街だ。平和と平穏で有名な街は殺伐と不穏な街に変わってしまった。
男女別々に並び再び手続きが始まった。
女の方は素早く進み、男の方はゆっくりと時間がかけられた。
暑い日差しが身体に当たり続け、水分を取っていたら、俺の番が来た。
「おい、次はお前だ。名前と出身地を言え!」
「俺はニム。出身地はニャーミル地方の村です。」
「随分と遠いとこだな。王都には何をしに来た?」
「冒険者の仕事と、王城に少し用事がありまして。」
「王城?まぁ良い、その旅袋の中を見せろ。」
旅袋を手渡す。
門番の男はフクロウ開けゴソゴソとさぐり始めた。
何かを見つけ驚いた声を出した。
「こ、これは金のセミリア草のマーク!それに許可証まで!」
「王城にはちょっと偉い人に合わないといけないんです。」
「おぉお、知らなかったとはいえ申し訳ない。通って良いぞ。」
「ありがとうございます。ところでそちらの人は?」
奥の方で手錠をかけられた男とそれを心配そうに見る女の姿があった。
「あぁ、あいつは荷物検査の時に荷物から血もついた短剣が見つかったため念の為捕えただけだ。」
「怪しい人は何するか分かりませんからね。では。」
さっき列で並んでいた男女だ。恐らく冒険者であろう。
血のついた短剣は魔物と戦った時に着いた血だと思うが、後処理をしなかったのが悪かったな。
袋の中にある金のセミリア草のプレートと許可証を手に取り、気づかれないように握りつぶした。それを魔法で燃やした。本物のプレートや許可証は無炎で壊れることは無い。俺が持ってたのは偽物の物。
それも精度が非常に高く、ぱっと見では気づかれない。
そうして無事に王都に入れた俺は人混みの中で袖の中から短剣を取り出し、宣戦した。
「俺はニム。今から選別を行う、抗え人間よ!」
変な目で見られた俺は腹いせにその人間を刺し殺した。
悲鳴と怒声で埋め尽くされた。