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生徒会のお遊び。  作者: 藤代景
一年生編
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第4話 面白い男

「すみません、生徒会長はいますか」


 今井との握手を終えると再び扉を叩く音が鳴った。今日は来客が多いな……。生徒会に入りたいとかそういう用事じゃないだろうな。


「ええ、いますよ。どうぞ」


 声を作って返事すると、扉がゆっくり開けられて男が姿を見せた。黒髪で短髪。こっちもまた普通の風貌をしている。だけど今井と違って胡散臭い雰囲気は感じない。むしろ真面目そうな印象を受ける。

 男は私を見るなりビクッと肩を跳ねさせて、すぐに目を逸らした。


 ……怖がられている?何故?

 素はともかく、作った性格のほうは怖がられるような要素ないはずなんだけど。そう不思議に思っていると今井がニヤニヤしながらこそっと私に耳打ちした。


「彼、多分女が苦手なんだよ。クラスでも女子に話しかけられてビクビクしてたから」

「マジ?ふーん……」


 チラチラと私を見ながら顔を赤くさせる男。苦手っていうのは、嫌いとかそういうのじゃなく……ただ単に女に慣れてなくて恥ずかしいだけか。それなら遠慮したり気を遣う必要もないな。

 私が笑みを浮かべながら近付くと、またビクッと肩を跳ねさせる。……ちょっと面白いかも。


「どうしました?」

「えっ!?い、いや……その……ぶっ、部活のこと、で……」

「部活?ああ、結成の事ですね」


 部活を結成する為には生徒会にちゃんと話にいかなければならず、生徒会長から許可をもらわなければ部活は結成出来ない、という校則にしてある。変な部活を作られたら困る、というのもあるけど……何かあった時の為に結成された部活は全部把握しておかなければならない。メンバー全員の名前はもちろん、どういった活動を目的とした部活なのかということも。

 ……真琴には関係ないとはいえ、もう二度と部活内でいじめなんて起きてほしくないからな。できることはしておきたい。


「まあ、立ち話もなんですし……どうぞ、腰かけて下さい」

「あ、えと……あ、ありがとう……ございます……」

「おい松葉、遅いぞ!」

「!?バッ……来んな!今話してんだよ!」


 扉からまた一人来た。確かあれは……女子達がかっこいいだのなんだの言ってた男子か。名前は全く覚えていないけれど。


「遅いっつったって一時間も経ってねーだろ!」

「いや、普通ならもっと早く終えてるぞ。お前の女子耐性の無さがここでも発動してしまったんだな……」

「うるせぇ!!……あ」


 松葉、と呼ばれた男は様子を見ていた私に気付くと恥ずかしそうに「すみません……」と顔を赤くして俯いた。


「ふふ、構いませんよ。どうぞ、あなたも腰かけて下さい」

「俺もいいのか?すまないな」

「もちろんです。ご友人なのでしょう?」

「……騒がしくてすみません」

「いえ、いいんですよ。それより、敬語はやめて頂けませんか?同級生なんですから」


 私がそう提案すると「生徒会長にタメ口なんて」と首を横に振る松葉。敬語だと私が気を使ってしまう、と言ってみるがそれでも「でも……」なんて口をもごもごさせている。……こうなったら多少強引に行くか。


「同級生ですし、同じ一期生として仲良くなりたいんです……ダメですか……?」


 目を潤ませて上目遣いをしてみる。すると松葉はさっきよりもずっと顔を真っ赤にさせて目を逸らした。


「わ、分かりま……分かった!タメ口だろ?するから……!そ、そういう顔はやめてくれ……!!」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

「橘さん、俺もタメ口でいいですか?」

「ええ、もちろんです!」


 橘さんもタメ口で、と言われたけどそれはやんわり断っておいた。このキャラに慣れていないからか、敬語じゃないとうまくいかないんだよな。少なくとも今はこのままいかせてもらおう。

 私は早速気になっていたことを聞くことにした。


「お話の前に……名前を伺ってもよろしいですか?」

「あ、ああ。俺は松葉亮まつばりょうだ。まぁ……その、よろしく……」

「俺は霧野大輝きりのだいきだ、よろしく」


 霧野は名乗り終えると力強く私の手を握って顔を近付けてきた。その目は輝いている。


「橘さんは綺麗だな……!ぜひ俺とお付き合いしませんか!?」

「はい?」

「ちょっ、霧野!そういうのやめろって言っただろ!」


 松葉が咄嗟に霧野を引き剝がす。

 ……まさか初対面でいきなり熱い告白をされるとは。予想外の言動に驚いていると、松葉は気まずそうに視線を泳がせながらも説明してくれた。


「こいつ、クラスに行った時もこんな感じで……惚れっぽい性格みたいなんだ。だから気にしないでくれ」

「何を言う、松葉!俺は誰に対しても本気だぞ!」

「普通にクズ発言だからな!?それ!」

「こらこら。うちの会長様にはあまりちょっかい出さないようにね。あとお触りも禁止」


 ここでやっと今井が話に加わった。こいつ……面白いからって傍観してたな。


「橘さん、こいつは?……はっ!まさか彼氏!?」

「あはは、違いますよ。彼は生徒会のメンバーです。霧野さんのお気持ちは嬉しいですが、ここに来た目的が変わってしまっているのでは?」


 否定しつつ本題を促すと、霧野はハッとしたように松葉を呼んだ。松葉は「お前が話の腰折ったんだろ!」と頭をはたいたが。この二人、漫才でもしてるのか?

 松葉は一つ咳払いをすると顔を上げて私を見た。……と言っても視線は合わないけど。


「え、えっと……部活を結成させたいんだが……許可が欲しい」

「何の部活ですか?」

「サッカー部だ」


 ……サッカー部、ね。何の因果なのだろう。私はサッカー部と関わらなきゃいけない運命にでもあんのか?クソみたいな運命だな。


「その……普通の部だから許可が下りねぇなんてことはないよな……?」


 そんな思いが表情に出ていたのか、松葉が恐る恐るそう尋ねた。いけないいけない。顔に出すな、篠崎美琴。こんなことで表情に出していたら復讐なんて夢のまた夢だぞ。

 私は咄嗟に笑顔を作って口を開いた。


「ええ、もちろん。怪しい部や危険な部でなければ却下する理由などありませんから」

「そうか……ありがとな。じゃあ明日からグラウンド使っていいんだよな」

「はい。……あ、そうだ。一応、サッカー部のメンバーを集めたらこの紙に書いて私に出して下さい。グラウンドが使えるのはそれからです」

「?お、おう……分かった」


 紙を差し出すと、松葉は不思議そうにしながらも受け取った。


「それじゃ……おい行くぞ、霧野」

「今度時間が空いていればデートでも、」

「いい加減にしろ馬鹿!!」


 バタンッ、と勢いよく扉が閉められ、やっと静寂が訪れる。私はソファにもたれかかって一息ついた。

 はあ……やっと自然体になれる……。猫被ると決めたのは自分だが、それでも疲れてしまう。早く慣れないとな……。こんな調子じゃ、あいつらに会う時に本性を出してしまうかもしれない。それだけはダメだ。


「賑やかだったね、二人とも」

「お前……面白いからって口出ししたりしなかったり……」

「さっき言ったでしょ?面白いから復讐に手を貸すんだって。俺の行動原理はいつだって「面白いか面白くないか」だよ」

「…………厄介すぎ」


 まあ、そんな人間を受け入れてしまった以上どうにもならないが。


「それよりどう?あの松葉ってやつ」

「あ?どうって……まあ、面白い奴だとは思うよ」


 私の一挙一動にビクビクして……顔真っ赤にして。あそこまで女に耐性が無い奴もそういないだろう。何だか新鮮で、見ていて飽きない奴だと思う。……それでも、《《使えない部類》》なのだろうと思うと少し残念だ。ああいう奴は罪悪感を抱えてしまうタイプだろうから。


「はあ……帰るか」

「もう帰るの?」

「大体の生徒は帰ってるだろ。それに今日はもうやることないし」

「そっか。じゃあ一緒に帰ろう!」

「嫌」


 鞄を持って廊下に出ると、今井が「何でー?」と唇を尖らせながらついてきた。うわ、うぜぇ。まさか可愛いと思ってやってるんだろうか。顔が整ってるからって調子乗んな。

 そういう意味を込めて睨むが、今井は何とも思っていないらしくニコニコと笑っている。


「同じ生徒会の仲間なんだから仲良くしようよ」

「必要以上に関わる気はない。分かってるんだろ、私がお前みたいなタイプ苦手だってこと」

「そりゃあ、露骨に嫌な顔されたらね。でも、俺は君みたいなタイプ好きだよ?」

「……それって、…………いや、何でもない」


 私をどういうタイプの人間だと思っているのだろう。「君みたいなタイプ」って、一体どう見えてるんだ?

 ……気になったけれど、聞くのも面倒なのでやめた。こいつが私のことを好きだろうと嫌いだろうとどうでもいいし。計画に支障がなければそれでいい。復讐の手助けをしてくれれば、それで。

 だけどこいつと二人三脚か……ああ、面倒な未来が見える。


「どうしたの?顔色悪いよ?」

「……お前のせいだよ」

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