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生徒会のお遊び。  作者: 藤代景
一年生編
12/106

第12話 舞台に上がれ

 テントに戻ってしばらくすると、リレーのアナウンスがグラウンドに響いた。出場する二人も軽い準備運動をしながら入場門へと向かう。

 応援の言葉は掛けなかった。あいつらが一位になろうが最下位になろうが私には関係のないことだ。目立ちたいなら勝手にすればいい。そういえばあの二人って別々のクラスだったよな。そうなるとどっちかは一位になれないだろうが……ま、どっちが一位になれず悔しがってても面白いからいっか。


「橘さん、何だか楽しそうね?」

「……ええ。なにせ、生徒会のメンバーが出場しますから」


 近くにいた教師に聞かれ、いつもの貼り付けた笑みで適当に答える。「楽しそう」ね。……久々に言われたな、そんなこと。

 考えてみれば、復讐を決めたあの時から素で笑っていないような気がする。……笑えるわけがないけど。真琴が苦しんでるのに、私だけが笑ったり幸せになっていいはずないんだから。

 _________でも。


「(本音で話したり言い合ったりするのが楽しい、なんて)」


 ほんの一瞬でも、そんなことを思ってしまった。私にそんな資格はないのに。


『アンカーの二人_____1組の今井くんと3組の瀬戸内くんが競り合っています!』


 放送部の実況が聞こえ、顔を上げて二人の様子を見た。今井は楽しそうに、瀬戸は涼しい顔をして走っている。だけどどっちも負けず嫌いだから心の中ではバチバチなんだろうな。

 ……楽しいとか幸せとか、私の復讐にそんな感情ものは必要ない。今井や瀬戸とつるんでいるのも、生徒や教師に良い顔をしてるのも、全部復讐の為。いじめっ子達の人生を壊す為だ。この体育祭だって他の生徒が満足すればそれでいいんだ。私がどう思おうが、計画通りにさえなれば問題ない。


『ゴーーール!!一位は_____今井くんです!リレー優勝は1組となりました!!』

「よしっ。残念、俺の勝ちだね」

「チッ……!くそっ。脚でも引っかけて転ばせれば良かった……」

「あはは。言ってること相当やばいよ?」


 ゴチャゴチャとそんなことを考えている間にリレーが終わっていたようだ。今井が一位の旗を持って笑っている。

 結局勝負は今井の勝ちか。あんなあからさまに不機嫌そうな顔した瀬戸、初めて見たな。どっちかというと今井の悔しがる顔のほうが見たかったけど……いや、あいつは負けたとしてもヘラヘラ笑うだけで悔しさを顔に出したりしないか。


『次は借り物競争です。出場する生徒は門の前に集まってください』

「……お、やっとか」


 余計なことは考えず競技に集中するか、と椅子から立ち上がる。近くにいた教師に軽く会釈してテントを出ると、ちょうど戻ってきていた二人とバッチリ会った。


「やあ、橘。見てくれてた?」

「全然。気付いたら終わってた」

「えー?あんなに頑張ったのに~」

「ヘラヘラ笑って走ってたくせによく言う……」

「そういう瀬戸だって涼しい顔して走ってたでしょ」


 ……何だかんだ仲良いな、こいつら。


「はいはい、お疲れさま。じゃあ私は行くから」

「ああ、そういえば借り物競争に出るんだっけ?それなら気を付けなよ」

「あ?気を付けるって何を……」


 それは始まってからのお楽しみだよ、と。今井は楽しそうに笑みを浮かべながらテントへ向かった。瀬戸と目を合わせるが「俺は知らない」とでも言いたげな顔で首を横に振った。

 今井の発言は気になるが……ここでうだうだ考えていてもしょうがない。警戒するのはとりあえず競技に出てからだ。








『位置について……よーい________ドン!!』


 直後にピストルの音が鳴り、それと同時にスタートする。遠くから聞こえるクラスメイトのうるさい応援の声に密かに顔を顰めながらもお題が置かれた場所まで走る。そして自分の前にあったお題の紙を取って開いた。

 その中身を見た瞬間________思わず「は?」と声を上げそうになってしまった。


「(な、何だこれ……!?「好きな異性」……!?)」


 ふざけたお題にイライラを募らせつつも思考を巡らせる。

 借り物競争のお題を考えたのは他の生徒達だ。だけど前日に私達生徒会が一枚一枚確認して、ふざけたお題や不可能なお題はちゃんと除けている。少なくとも私が確認した中にこんなお題は無かった。

 ……だけど、お題を確認していたのは私だけじゃない。膨大な量だからと今井や瀬戸にも手伝わせていた。要するに、二人のどっちかがこのお題を除けなかったということになる。

 ____昨日のことを思い出すと同時に、今井の言っていた言葉の意味を理解する。


「(いっ……今井の野郎か!!)」


 咄嗟に今井に視線を向けるが、当の本人はニヤニヤと笑ってこちらを観戦しているだけ。だけどその笑みが答えだということを私は分かっている。


「(このクソ野郎……!!面白がってスルーしやがったな!?気を付けろってそういう意味かよ!!)」


 今井のことだ、借り物競争の準備をする際に私がピンポイントでそのお題を拾うよう体育委員に指示していたのだろう。ああくそ、やられた!ムカつく!!

 ……いや、落ち着け。ここで怒り狂ったら作り上げた私のイメージが壊れてしまう。とりあえず落ち着いて考えよう。


「はあ……」


 このお題が「好みの異性」とかだったらまだ言い訳もできたんだがな……。「好きな異性」と言い切ってしまっている以上、誰を連れて行こうと明日から噂されるに決まってる。そんな面倒なことは絶対に避けたい。だからといってこのまま何もせずに最下位……なんていうのもムカつく。せっかくなら今井にギャフンと言わせたい。……チッ、癪だがやるしかないか……。


『2組の橘さんが走り出しました!その向かう先は_____生徒会のテントです!』

「……何でこっちに向かって来てるんだ?」

「瀬戸に用があるんじゃない?」

「……お前、借り物のお題に細工したな?」

「細工だなんて大層なものじゃないよ。橘が面白いお題を拾うようちょっと工夫しただけ」

「それを細工って言うんだろ。めんどくさいな……俺を巻き込むなよ」

「____失礼」


 ゴチャゴチャと何か言っている二人の前に立つ。

 本当は「おいテメェ」と呼びたかったが、近くに教師がいる為それは叶わなかった。


「やっほ、橘。どう?俺が用意したサプライズは」

「……今井さん、覚えておいてくださいね。私、サプライズ大っ嫌いなんです」


 二度とすんなよ、と言う意味を込めて圧をかけるけれど、今井の様子からして全然効いていないようだ。……こいつにそんなことしても無駄か。まあいい、とりあえずお題の人間を連れてゴールに向かおう。


「ほら、行きますよ」

「___えっ?ちょっ、ちょっと!」


 さっさとゴールに向かう為、今井の手を掴んで走り出した。自分が選ばれるとは微塵も思っていなかったのだろう、動揺していたおかげで難なく連れていけた。

 後ろで何か喚いているが無視だ無視。


『____ゴーーール!一位は……2組の橘さんです!!』

「っ、よっしゃ!!」


 周りに聞こえないよう小さくガッツポーズしながら喜びの声を上げる。2組から聞こえる歓喜の声に耳を傾けつつ体育委員にお題の紙を渡した。肩で軽く息をする今井を横目に何となく言いたいことを察する。

 体育委員は規定通り「出場者が持ってきたものがお題に沿っているか」を確認する為にお題を読み上げる必要がある。つまり私のお題も読み上げられる。


『それでは、体育委員がお題を読み上げます』

「(______馬鹿が)」


 私がどう動いても困ることになると思ってたんだろ。実際、自分が連れて来られるとは思いもしてなかったみたいだしな。だけど残念。


「橘さんのお題は________「好きな異性」です!」


 お題を聞いた瞬間うるさいほど沸き上がった悲鳴に眉を顰めるが、すぐに今井と目を合わせて意地悪く笑ってやった。誰を連れて行ってもどうせ噂されるんなら、お前を巻き込んでやる。


「自分だけ傍観者でいられると思ってんじゃねぇぞ」


 お前が舞台に立つ気がないのなら、私が無理矢理引きり出して立たせてやるよ。傍観者でいようなんて許さない。復讐という名の舞台に観客なんか要らない。だからお前の欲求を満たす為の駒になったりしない。

 私はいつだって______この舞台の主役でい続けるんだから。


「………………」


 今井は少しの間キョトンとしていたが、突然口元を隠して笑い出した。


「____ふふふ……あははは!!」

「っ……!?なっ、何だよ……?」


 突然笑い出した姿に引いていると、今井はひーひーとお腹を抱えながら涙を拭った。


「ふふ……『橘美琴』って思ってた以上に面白いんだね!まさか俺を引きり出すなんてさ。でも……それくらいしてくれないと君の復讐に手を貸した意味がないよね」

「は?何言って……」

「初めはさ……そこまで期待してなかったんだ。ちょっとした暇潰し程度だと思って手を貸した。だけど君は俺の予想以上だった。……ふふ。このままだと『橘美琴《君》』に恋しそう」

「……やっぱキモイな、お前」

「あはは、誉め言葉?」


 私を試すところも、からかうところも、面白がって傍観するところも……全部全部嫌いだ。その能力さえ無ければとっくに縁を切っているだろうなと思ったのは一度や二度じゃない。これなら余計なことしない瀬戸のほうがずっとマシだ。








「橘さん、今井くんのこと好きなの!?」

「今井はどうなんだよ!?」


 生徒会のテントに戻ろうとしたところでクラスメイト達がやって来て詰められる。

 せめて体育祭の後じゃダメか?めんどくせぇ。……いや、どっちにしてもめんどくさいけど。


「私、その……恋愛的な意味で好きな男性というのがいなくて……なので、普段から仲良くしてくれている今井さんに来ていただいたんです。瀬戸内さんでも良かったのですが、今井さんよりずっと疲れている様子だったので……」


 とりあえずうるさい奴らを黙らせる為に用意していた答えを口にした。我ながら完璧な理由だ。

 私の言葉に「何だ~」「やっぱそうか」とつまらなさそうに納得してぞろぞろと自分の席に帰っていくクラスメイト。……静かになったのはいいけどなんか腹立つな。

 テントに座っていた瀬戸はどこか楽しそうにこちらを見ている。きっと「巻き込まれずに済んだ」とか「今井のやつやり返されててウケる」とか思ってるんだろう。瀬戸にしては珍しく分かりやすい顔をしてる気がする。


「もったいないな。そのまま噂されればよかったのに」

「面白がってんじゃねぇよ!他人事だと思いやがって……」


 ニヤニヤと笑いながらふざけたことを言ってくる瀬戸に小声で言い返す。こいつもいつか今井みたいな目に合わせてやろう。


「残念。俺は噂になっても全然良かったんだけど」

「黙れいかれポンチ。お前のそういう冗談は真に受けねぇからな」

「やめとけよ、今井。どう考えても橘に口説きとかそういうのは効かないだろ」

「そうかなあ?橘って意外と素直な誉め言葉とかには弱い気がするけど」

「お前の誉め言葉が素直じゃないから刺さらないんだろ」

「ふん。私を落としたいんなら「本気で言ってる」って思わせるほどの演技力がないと……」

「へえ?あの言葉、本気じゃないと思ってるんだ?」

「…………え?」

「あ。二人とも、あと五分で閉会式始まるよ。喋ってないで壇上の横に並ばないと」


 今井はそれだけ言うとさっさとテントから出て行ってしまった。


「…………何、今の」

「……さあ?意外と本気でお前のこと気になってるんじゃないか?」

「い……いやいや、まさか」


 今井が私を好きになる理由なんて無いし、きっかけらしきものも特に無かった。まさかあいつがあのお題に影響されたわけがないし……。


「(……本当、よく分からないやつだ)」

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