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生徒会のお遊び。  作者: 藤代景
三年生編
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第101話 意味不明な行動

「なんか最近の生徒会長って生徒会長っぽくないよね~」


 ______ある日の放課後、河口からそんなことを言われた。驚きでダンボールを切る手を止める。


「急ね……でも分かるわ。私も最近そう思ってたし」

「珍しく同意だわ。最近の生徒会長は腑抜けてるっつーか」

「れ、怜奈と御堂まで……」


 そもそも生徒会長っぽくないって何だよ、と心の中で悪態をつく。


 確かに最近、今井達から「良い顔をしてる」なんて言われることが増えた。池ヶ谷にも「なんか良いことあったんすか?」としつこく聞かれたし。

 まあ……確かに、真琴の記憶が戻ったことで浮かれてはいるが。


 けど、自分ではそこまで自覚がない。

 そんなに変わったか……?いつも通りだろ。


「正直、復讐のこと忘れてんじゃねーの?」


 揶揄うように鼻で笑った御堂に、私は睨みながら「そんなわけないだろ」と作業を再開させた。


「……まあ、心の余裕ができたから。それで変わったように思えるだけじゃねぇの」


 ……とは言ったものの。御堂の言ったことはあながち間違いでもない。

 復讐心を忘れたわけじゃない。復讐したいという思いはまだある。けど……以前ほど強くない。全部を捨ててでも復讐してやろうという気概きがいが無くなってしまったように思う。


 それはきっと、真琴が家族の記憶だけを思い出したから。


 いじめのことも林道達のこともすっかり忘れている。私が気を付けてさえいれば、真琴は永遠にそれらを思い出すことなく生きていける。あの子は二度と苦しまなくて済むし、私も真琴と普通に生きられる。


 _____その可能性を、少しでも見てしまったから。


「(それに……もう戻れないところまで来てるわけじゃない)」


 池ヶ谷と樋口の人生を壊した。けれど、どっちも冤罪での報復だ。実際に暴力を振るったわけでもないし、怪我を負わせるようなことは一切していない。直接的には手を下していないのだ。


 それなら……まだ戻れるかもしれない?


「……?橘、どうした?顔色が悪いぞ」

「……いや、何でもない」


 心配そうに声を掛けてきた松葉から目を逸らす。


 なに馬鹿なこと考えてるんだ、私。今更戻れるかもしれないなんて……そんな淡い期待を抱いて。何の為にここまで来たんだよ。


 復讐を望んだのは、お前自身のくせに。




 ◆    ◆    ◆




「よし、今日の作業はここまでだ」


 私の掛け声に、全員が作業を止める。


「そろそろ次で完成できそうか?」

「そうだね。あとは色を付けるくらいかな」

「私達も、後はくっ付けて形にするだけです!」


 二週間後に控えた最後の文化祭。生徒会の出し物である劇の準備はかなり進んできた。脚本も確認して練習を進めているし、あとは細かい作業のみとなっている。怖いくらいに順調だ。


「それじゃ解散。また明日な」

「えっ?美琴さんは帰らないんすか?」


 机に座って書類を取り出した私を見て、池ヶ谷が不思議そうに首を傾げる。


「生徒会長は色々やらなきゃいけないことがあんだよ。お前らはさっさと帰れ」

「じ、じゃあ俺、手伝うよ。少しくらいなら力になれるかもしれないし……」

「……いや、大丈夫だ。むしろお前らは部活もあって疲れてるだろ。身体休めとけ」


 手伝うと言ってくれた松葉には悪いが断らせてもらった。

 別に急ぎじゃないし、こんなのいつだってやれる。だけど今は一人になりたかったから。


「じゃあ俺が手伝います!部活はもう辞めたし暇だしチョー元気だし!!」

「いやお前は特に要らない。帰れ」

「そんなぁ!」

「お前が美琴さんの傍にいたらストレスが溜まる一方だろ、消えろ。あ、美琴さんもちゃんと休んでくださいね!」

「身体壊さないようにね~」


 声を掛けてくれた七瀬と今井に何も言わず手を振る。

 _______扉が閉まった瞬間、私はため息と共に机に伏せた。



“姉さん、無茶はしないようにね。僕にとっての家族は姉さんだけなんだから”



 今井と病院へ行った時、帰り際に真琴から言われた言葉が頭から離れない。


 私にとって家族は真琴だけ。そして真琴にとっての家族は私だけ。お互いがお互いしかいないと確信している。そんな状態で私がいなくなったら……そうしたら真琴は一人になってしまう。

 真琴を独りぼっちにすることが私の望み?真琴を悲しませることが私の願い?


 私のしようとしていることは……真琴を不幸にするだけじゃないのか?


「(何度も同じことを考えて……何度も同じ後悔をしてる)」


 いい加減こんな自分辞めたいのに、どうすればいいのか分からない。どうすればこのモヤモヤは晴れる?どうすればまた前を向けるようになる?


 私は……私はどうすれば______。










「_____やっぱり酷い顔だな」


 突然聞こえた声に、私は驚きで飛び起きた。うるさく鳴る心臓を感じながら視線を斜め上に移す。

 その目に映ったのは、ここにいるはずのない男の姿だった。


「せっ……瀬戸!?」


 私が顔を伏せている間に来たのかと思ったが、いくら考え事をしていたって扉が開く音くらい流石に聞こえるし気付く。ならどうしてこいつがここに?


「何で……帰ったはずじゃ、」

「いや、普通に残ってたけど。影薄いし黙って隅っこにいりゃ誰も気付かないだろ」

「……お前、それ自分で言ってて虚しくないか?」


 そういえばこいつ影薄かったな。最近は存在感が出てきたのか見失うことも無く普通に接してたからすっかり忘れていた。

 瀬戸の説明に「なるほど」と納得はしたものの、今度は別の疑問が出てきた。


 何故こいつが生徒会室に残ったのか、ということだ。


「それで、何で残ってるんだよ。なんか用か?」


 普通に考えれば私に用があるからここに居るのだろうが、わざわざ二人きりになる意味が分からない。別に今井達がいても普通に聞けばいいだろうに。……それとも、今井達には聞かれたくない内容なのだろうか。そんな内容を私に話す理由もよく分からないが。


 だけど瀬戸は私の問いには答えず、黙って自分と私の鞄を持つとそのまま生徒会室を出て行こうとした。


「は!?ちょっ、何して……おい待て!」


 突然のことに困惑しつつも呼び止めるが、瀬戸は歩みを止めない。


「待てって言ってんだろ!ああもう……何なんだよ……!」


 瀬戸の目的は全く分からないが、鞄を取られている以上後を追いかけるしかない。

 私は生徒会室の扉に鍵をかけ、慌ててその背中を追いかけた。




 ◆    ◆    ◆




 自動ドアが開き、中に入ったところでようやく瀬戸が速度を緩めた。瀬戸の背中に近付きながら周囲を見渡す。どうやら私達はデパートに来ていたようだ。


 やたら人が多いと思ったら……どうりで。


「おい瀬戸、鞄返せよ」

「返したら帰るだろ。まだ返さない」

「はあ?」


 瀬戸の言葉に思わず顔を顰めた。帰ってほしくないから返さないって……子供か。

 でも……瀬戸は意味もなくこんなことはしない。きっと私をデパートに連れて来たのには何かちゃんとした目的があるんだろう。見当もつかないけど。


 ……しょうがない、付き合ってやるか。


「……分かった。帰らないから返せよ」

「本当かよ」

「私が適当な誤魔化しなんてしないって分かってるだろ」

「…………」


 返事はしなかったが、私の言葉を信用したのかこちらを見ることなく鞄を放り投げた。慌てて受け止めて肩にかける。


「それで?何でデパートに来たんだよ」

「……ずっと服が欲しかったんだよ」

「あ?」


 意味が分からず眉を顰める。すると瀬戸は服屋の前で足を止めた。


「俺の服、選んでくれ」

「……はあ?」


 ……服が欲しいからデパートに来たのは分かる。で、その肝心の服を私に選んでほしいから鞄を人質にしていたと。


「……何で?」


 ただ一言、それしか言えなかった。瀬戸の行動が理解できない。


「……友達だから?」


 何故か首を傾げられ、更に謎が深まる。


 まあ確かに、私達は友達と呼べなくもない関係だ。自分で選べないから友達に選んでもらうという思考自体は理解できる。だとしても何で今井じゃなくて私?

 いや、この際私でもいいが。ただ服を選んでもらうのに何でわざわざ鞄奪って黙って来た?普通に頼まれれば不思議に思いながらも頷いていただろうに。


「お前の服も選んでやるから」

「いや別に要らないし」

「ほら、さっさと選べ」

「話聞けよ!!」


 ツッコむ私を無視し、瀬戸はメンズ服の棚に向かって歩き出した。その背中を眺め、深いため息を吐く。


 正直帰りたい……が、一度付き合うと言ったからには帰るわけにはいかない。


「マジで何考えてんだよあいつ……」


 ぶつぶつ文句を言いつつ、瀬戸の後を渋々追いかけた。

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