ED
「読んだよ」
どれくらいの時間が流れただろう。
空がオレンジ色になり始めたころ、美山は静かにそう言った。
窓際で外を眺めていたわたしは、椅子に座る彼女を振り返る。
どうだった?
なんてことは聞かない。
伝わっているのなら、きっと美山から言葉を口にすると、わかっていたから。
「……凛香ちゃんはさ、本当に自分勝手だね」
「言っただろ。わかってるって」
「あたしの気持ちなんて何もわかってないね」
「わかるわけがない」
「凛香ちゃんのために明野海浜であってほしいなんて、自分のことしか考えてないセリフだよね」
「そうだな、その通りだ」
「明野海浜がそんなに大切?」
「ああ。明野海浜がいないと海原リンカじゃいられない」
「……そっか」
美山はそっとわたしの小説を撫でた。
「明野海浜がいるってだけでまた歩き出せるんだね。……すごいな」
「お前も海原リンカだけ見てくれ。大勢の読者のために書けないならわたしのために書いてくれ」
「じゃあこれからもあたしだけを――明野海浜だけを見てくれる?」
「ああ、目を離してやるもんか」
「そっか……」
美山はそこで笑った。
「……ねえ、凜香ちゃん」
「なんだ?」
「いつか絶対、明野海浜を殺してね」
「ああ、絶対に殺してやる」
fin.