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「また落ちた……」
自室の机の上に置いたノートパソコン。
その画面には某ライトノベル新人賞の一次選考の結果ページが映っている。
作品名と作者名が簡素に並べられていた。
そこに【海原リンカ】という作者名は載っていなかった。
わたしのペンネームだ。
今までいくつものライトノベル新人賞に応募してきたが、箸にも棒にもかからなかった。
どうにかしたいとは思っているが、どうすればいいのかわからなかった。
だから美山に頼ったのだ。
美山はわたしに二つの課題を出した。
一つはキャラの魅力。
これはどうすればいいかの指導を受けている。
問題はもう一つの課題。
美山が言うには、わたしの小説からは「誰に何を伝えたいのか」というものが伝わってこないらしい。
それを言われたとき、たしかにわたしはそんなことを考えたことはなかったと思った。
でもそんなことを考えて意味なんてあるのだろうか。
面白ければそれでいいんじゃないのか。
たとえそこに作者の伝えたいことを入れたら、空想の物語として成り立たない気がするのだ。
でもそんなわたしに美山は言うのだ。
そういうことじゃないと。
メッセージ性を求めているわけじゃないと言う。
具体的にと聞いても「自分で気がつかないと意味がない」なんて言われる。
ますますどうしていいかわからない。
でもあの天才が言うのだから大事なことなのだろう。
わからなくても考え続けた方がいいのだろう。
でもどう考えればいいのかさえもまだわからなかった。
それが手に入れば、わたしは作家という夢に一歩でも近づけるのだろうか。
「はぁ……」
キャスター付きの椅子の背もたれにもたれて、天井を仰ぎ見る。
思わずこぼれ出たため息。
……本当に、わたしは明野海浜を殺せるのだろうか。
新人賞で芳しい結果を残せない現状。
デビューできるかどうかもわからないのだ。
明野海浜を殺す以前にスタートラインにすら立てないかもしれない。
「……なに考えてんだ、わたしは」
一瞬よぎった不安を払拭するために両頬を叩く。
気持ちを切り替えるためにPC画面にSNSサイトを表示させた。
青い鳥が出迎える。
流れていく情報を見ていけば嫌なことを少しでも忘れられる。
そう思った。
でもそれは悪手だったかもしれない。
ふと見たトレンド一覧に【明野海浜】という文字があった。
そのひとつ下のトレンドは【引退】という二文字。
なんだか胸騒ぎがして、わたしはその文字をタップした。
瞬間表示されたのは大混乱の呟きばかりだった。
曰く、『明野海浜引退ってどういうこと!?』やら『は? え? は? 明野海浜が引退!? 嘘だろ』やら。
「……は?」
わたしは思わずつぶやいていた。
意味がわからなかった。
夢なんじゃないのかと思った。
目についたまとめサイトのリンクを踏む。
そこにはこう書かれていた。
『大人気ライトノベル作家である明野海浜が、自身のツイッターにて突然”ラノベ作家を引退します”と発言。約二年ぶりのこのツイートはファンへと大きな衝撃を与えている。明野海浜作品を刊行しているレーベルには問い合わせが殺到。それに伴い、公式ツイッター及び公式サイトは声明を発信。レーベル自体も寝耳に水だった様子で声明には”現在確認中です。詳細がわかり次第お知らせします”と記載されている。明野海浜といえば中学生でデビュー――』
わたしは途中で読むのをやめて、慌てて明野海浜のツイッターページへと飛んだ。
どうか嘘であってくれ。
わたしの願いは虚しく、そこには『ラノベ作家を引退します』という一文が確かにあった。
美山に電話をかける。
出ない。
ラインを送る。
どれだけ待っても既読にならない。
なんで、どうして出ないんだ……。
どういうことだよ……。
なんで……。