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 美山愛梨のペンネームは明野海浜。

 超がつく売れっ子作家であり、界隈では鬼才とまで呼ばれる才能の持ち主。

 わたしにとんでもない衝撃を与えやがった高校生作家だ。


 高校生やそれ相応の年齢で作家デビューを果たした人間は、実のところそれなりに多く存在する。

 だけど明野美浜はそれよりも下、中学生の頃にデビューを果たした。

 前例がないわけじゃない。


 むしろ小学生でデビューした人間だっている。

 それでも圧倒的に数は少ない。

 ラノベだけで絞ればゼロだ。


 デビュー当時は彼女の話でもちきりだった。

 その年齢はもとより、年齢に見合わぬ才能、そしてデビュー作は彼女の処女作だという事実。

 話題にならないはずがなかった。


 わたしはわたしより才能がある奴が嫌いだし、ムカつく。

 それがどんな相手でも、だ。

 でも明野海浜はそいつらよりも遥か上の才能を持っている。


 だからわたしは明野海浜が特別大嫌いだ。

 殺したいと思うほどに、大嫌いだった。


 美山愛梨がそんな超売れっ子作家だと知ったのはついひと最近のことだ。

 それは偶然だった。

 わたしのバイト先である喫茶店に美山がきたのだ。


 わたしがシフトの時間に喫茶店へ行ったときにはもうすでにいて、着替えてホールに出たときにわたしは美山に気がついた。

 美山は女性の誰かと対面して喋っていて、わたしには気が付かなかった。

 気が付かれたら面倒だと思ったが、だからと言ってサボるわけにはいかない。


 なるべく視線を向けないようにすれば気が付かれにくいかもしれないし、最悪気が付かれてもこっちが気が付かないフリをすればいい。

 わたしはそうやって自分自身に言い聞かせて、普段通りに仕事を始めた。

 しばらくして、美山の席の近くにいた客の対応を終えたときだった。


「明野海浜の作品を待っている読者がたくさんいるんです」


 美山たちの席からそんな声が聞こえてきた。

 わたしは思わず美山の方を見てしまった。

 美山の対面に座った女性が身を乗り出すような姿勢で、真剣な表情で美山に話をしている様子だった。


 女性は続ける。


「だから明野先生。ゆっくりでもいいんです。どうか続きを書いてください」

「……でも。もうあたしは」

「大丈夫です。また書けるようになるまで、我々編集部がサポートしますから」


 ほとんどの話は耳に入らなかった。

 女性が美山を明野先生と呼んでいる。

 その事実だけが頭の中を埋め尽くしていた。


(あの美山が、明野海浜……?)


 周りのことなんて見えなくなった。

 わたしはふらふらと美山の傍に寄った。

 隣に誰かの立つ気配を感じたのだろう美山が、ゆっくりとわたしの顔を見上げてきた。


 目があって、しばらくわたしたちは黙ったまま見つめ合った。

 やがてわたしから口を開いた。


「……美山」

「……凜香ちゃん。あの、これは――」

「お前っ。……明野海浜だったのか?」

「……」


 それが美山愛梨がラノベ作家の明野海浜だと知った瞬間だった。


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