OP
短編ですが何話かにわけて投稿します。よろしくお願いします。
その日、わたしは殺意を知った。
わたしは一冊のライトノベルを読み終えて、放心状態のようになっていた。
そのラノベはわたしと同じ中学生が書いたもので、SNSでは【最年少ラノベ作家爆誕!?】という宣伝により話題になっていた作品だ。
その作者の名前は明野海浜。
期待なんてあんまりしていなかった。
同い年でデビューを果たした。
ただそれだけで興味を持った。
それだけだった。
手に取り、読み始めたのはそれが理由だった。
読み始めたのは自分の意思だったはすだ。
でもページを捲った途端、わたしの意思は消え去り読まされていた。
冒頭から一発でわたしの心を握ってきた。
その手は強く決して放してくれなかった。
文字を追う視線もページをめくる手も、止めることを許してくれない。
気がつけば読み終わっていた。
天才。
それが最初に浮かんだ言葉だった。
ただの天才じゃない。
鬼才、神童に達しているとすら言える。
才能の塊だ。
それはもはや圧倒的な暴力だった。
放心状態になってしまうほどの暴力。
あっという間にわたしの《《メッキ》》が剥がれ落ちた。
今まで自分の心を守っていたものが粉々になった。
目をそらしていた現実が一気に襲いかかってきて、わたしは絶望へと叩き落された。
勝てない、そう思った。
思ってしまった。
瞬間、わたしの心が折れた音がした。
わたしは顔も知らない明野海浜という作家に殺されたのだ。
でもわたしには叶えたい夢があった。
立ち上がらなくてはいけなかった。
そのためには強いなにかが必要だった。
その思いに呼応したのだろう。
折れた心を補強するように、その断面から強い感情が溢れ出した。
それは――。
「……殺してやる」
どうしようもない、殺意だった。
初めて抱いた感情だった。
明野海浜はわたしにはない、わたしがほしいものをすでに持っている。
そしてなによりも、わたしの大切なものを奪おうとしたから。
これは誰かに理解されるような感情ではないのかもしれない。
わたしだけが抱える醜い感情なのかもしれない。
でもそれでも関係なんてなかった。
誰にも理解されない醜い感情であっても、わたしは抱いてしまったのだ。
だったら明野美浜を殺さなければいけない。
そうしなくちゃこの感情は消えない。
だから周りなんて関係ない。
わたしは明野美浜を殺したかった。
「いつか絶対っ、殺してやるッ!」