表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/9

OP

短編ですが何話かにわけて投稿します。よろしくお願いします。

 その日、わたしは殺意を知った。


 わたしは一冊のライトノベルを読み終えて、放心状態のようになっていた。

 そのラノベはわたしと同じ中学生が書いたもので、SNSでは【最年少ラノベ作家爆誕!?】という宣伝により話題になっていた作品だ。

 その作者の名前は明野海浜あけのうみはま


 期待なんてあんまりしていなかった。

 同い年でデビューを果たした。

 ただそれだけで興味を持った。


 それだけだった。

 手に取り、読み始めたのはそれが理由だった。

 読み始めたのは自分の意思だったはすだ。


 でもページを捲った途端、わたしの意思は消え去り読まされていた。

 冒頭から一発でわたしの心を握ってきた。

 その手は強く決して放してくれなかった。


 文字を追う視線もページをめくる手も、止めることを許してくれない。

 気がつけば読み終わっていた。


 天才。


 それが最初に浮かんだ言葉だった。

 ただの天才じゃない。

 鬼才、神童に達しているとすら言える。


 才能の塊だ。

 それはもはや圧倒的な暴力だった。

 放心状態になってしまうほどの暴力。


 あっという間にわたしの《《メッキ》》が剥がれ落ちた。

 今まで自分の心を守っていたものが粉々になった。

 目をそらしていた現実が一気に襲いかかってきて、わたしは絶望へと叩き落された。


 勝てない、そう思った。

 思ってしまった。


 瞬間、わたしの心が折れた音がした。

 わたしは顔も知らない明野海浜という作家に殺されたのだ。


 でもわたしには叶えたい夢があった。

 立ち上がらなくてはいけなかった。

 そのためには強いなにかが必要だった。


 その思いに呼応したのだろう。

 折れた心を補強するように、その断面から強い感情が溢れ出した。

 それは――。


「……殺してやる」


 どうしようもない、殺意だった。

 初めて抱いた感情だった。

 明野海浜はわたしにはない、わたしがほしいものをすでに持っている。


 そしてなによりも、わたしの大切なものを奪おうとしたから。

 これは誰かに理解されるような感情ではないのかもしれない。

 わたしだけが抱える醜い感情なのかもしれない。


 でもそれでも関係なんてなかった。

 誰にも理解されない醜い感情であっても、わたしは抱いてしまったのだ。

 だったら明野美浜を殺さなければいけない。


 そうしなくちゃこの感情は消えない。

 だから周りなんて関係ない。

 わたしは明野美浜を殺したかった。


「いつか絶対っ、殺してやるッ!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ