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戦闘


朝になり目が覚めた。今朝は少し曇っているな。もしかしたら雨が降るのかもしれない……



「起きるか。」



俺はベッドから降りて台所へと向かった。

テーブルにはまだ朝食は要されていなかったが、座って待つことにする。

少しして、母さんが朝食を持ってやってきた。



「あら、今日は早いのね。おはよう、ケイン。」


「おはよう。たまたまだよ。」


「それじゃ、朝ご飯にしましょうね。」



配膳を済ませ、朝食を頂くことにする。

昨日の夜の感じから期待はしていなかったが、やっぱり黒パンと豆のスープだった。ガックリ……



「じゃあ、仕事に行ってくる。……っと、その前に。」



ストレージからホーンラビットの肉を3……いや、4匹分取り出して母さんへと渡した。



「あら? 今日は1匹多いのね。」


「この1匹の半分は家で、残りの半分は、ジャックの家に優先して渡してくれると助かる。

 残りは母さんに任せるよ。」


「そ、そうね。わかったわ。」



これで今日の夕食は大丈夫だ。俺は安心して仕事へと出かけるのだった。

畑では、ジャックが作業をしていた。



「おはよう。」


「よぉ! 昨日はありがとうな。」


「気にすんな。とりあえず母さんにはジャックの家に優先的に持って行ってもらうように言っておいたから。」


「そうか! ありがとう!!」


「じゃあ、ちゃっちゃと仕事しちゃおうぜ。」


「だな。」



俺たちは別れて畑を掘り始めた。




・・・・




お昼を少し過ぎたころ、ジャックの叫び声が聞こえてきた。



「ケイン、ケイ~~ン!!」



何事かとジャックの方を見ると、必死な顔でこっちへと走って来ていた。

よくよく見ると、ジャックの後ろの方に白い何かが……あれはウルフ!?

俺はストレージからショートソードを取り出すと、ウルフへ向かって走り出した。



「馬鹿っ! ケイン逃げろ!!」



ジャックが俺に向かってそう叫んだが、大丈夫。ウルフとの戦闘は経験済みだ。



「大丈夫だ。任せろ!」



俺はショートソードを振りかぶってウルフへと切り付けた。


スカッ!


ウルフは俺が振りかぶると、急展開して横に飛んだため、俺の攻撃は外れてしまった。



「何!?」



向こうの世界のウルフだったらまっすぐ突っ込んできたのに!

俺の攻撃を避けたウルフは、振り下ろした俺の右腕に向かって噛みついてきた。



「痛っ!」



当たり前だが、ウルフに噛みつかれた腕は痛かった。痛みのない向こうの世界が変なだけだ。



「この野郎!」



俺は痛みを我慢して、左手だけでショートソードを握ると、ウルフに向かって叩きつけた!



キャイン!



さすがにこの距離で、しかも噛みついているウルフに対して、攻撃は外さない。



「どうだ!」



さすがは+5まで強化したショートソードだ。不安定な態勢での左手による攻撃だったが、致命傷を与えたみたいだ。

ウルフは、噛んでいた腕を外すと、そのまま倒れて息を引き取った。



「や、やった!」



何とか倒すことが出来た。ただ、向こうの世界と違って時間経過で体力が回復しないのか、腕から血が流れていた……



「くそっ、痛てーな! ……そうだ!」



こういう時のためにと買っておいた初級HPポーションが有ったんだっけ。

俺はストレージから初級HPポーションを取り出した。



「これってどうやって使うんだ?」



怪我した場所にかければ良いのか? それとも飲んだら良いのだろうか。

とりあえず半分だけかけてみて、駄目だったら飲んでみよう。


と言う訳で、初級HPポーションの蓋を開けて腕に振りかけてみることにした。


シュワアアァァ~~


すると、みるみる腕の傷が塞がって治ってしまった。

どうやらかけるが正解だったみたいだ。



「おぉ! すげー!!」



初級HPポーションが半分残っているが、何かの時に使えるだろう。ストレージに保管しておくことにした。



「おい、大丈夫か!」



そこに逃げていたジャックが戻ってきていた。



「大丈夫だ。ほら、ウルフも倒したしな。」


「本当だ。ケインすげーな。」



倒れているウルフの死体を見て、やっぱりこれが普通で、肉や皮などで落ちているのはあり得ないことだよな。と改めて思ったのだった。



「なぁ、これどうするんだ?」


「どうしよう?」



このままだと肉が臭くなって食べられなくなるって聞いたことがあるが、俺は解体とかの経験が無い。どうしたら良いんだろう。



「おーい!」



遠くで呼ぶ声が聞こえてきたので、その方向を見てみると、男性が走ってこっちへとやってきていた。

あれは……ロンドさんだ。



「ロンドさ~ん!」



俺が手を振ると、向こうも振り返してきた。どうやら俺だと気が付いたみたいだ。

少しして、ロンドさんが到着した。



「ケイン、こっちにウルフが来なかったか? 狩に失敗して逃がしちゃったんだよ。」



どうやらあのウルフは、ロンドさんが取り逃がした獲物だったのか。



「えっと、来たと言うか、何と言うか……」



俺がどう答えようかと悩んでいると、ジャックが言ってきた。



「そのウルフだったら、ケインが倒したぞ。」


「えっ? 本当かい?」


「ほら、そこに転がっているだろ?」



ジャックが指を指した先にウルフが転がっているのが見えた。



「本当だ……しかも1撃で倒している!? これをケインが倒したのか?」


「えっと、はい。」


「怪我はしなかったのか?」


「はい、大丈夫です。」



噛まれて怪我はしたが、一応治ったからな。



「えっと、このウルフはどうすれば良いのでしょうか?」


「ん? ケインが倒したんだろ? だったらケインの物だぞ。」


「でも、これってロイドさんの獲物じゃ……」


「何言っているんだ、倒した人に所有権が有るに決まっているじゃないか。

 まぁ、狩っている最中に横殴りされて止めを刺されたら別だけどな。今回は違うだろ?」


「えっ? 狩の最中じゃないんですか?」


「違う違う、逃げられた時点で、俺の優先権は無くなったぞ。」


「そういうものなんですね。」


「ああ。」



向こうの世界でも似たようなルールが有ったし、どこも同じ様なものなんだな。



「ロイドさん。」


「何だ?」


「解体することが出来ないので教えてくれませんか?」


「……そうだな。折角だし教えてやろう。」


「ありがとうございます。」



俺はロイドさんに解体の仕方を教わるのだった。

正直吐きそうになったのは内緒である。とりあえず、何とか解体を覚えることが出来たのは幸いだった。



「ロイドさんありがとうございます。お礼に少しお肉を持って行ってください。」


「いいのか?」


「はい。」


「なら、少し貰っていく。すまんな。」



ロイドさんがひと塊分だけ取ったのだが、それじゃ少なすぎるだろ。



「ロイドさん、もっと持って行っても大丈夫ですよ。それに、この前成人のお祝いでも頂きましたし、なんならお礼のお返しってことで、半分持って行っても良いです。」


「そうか。助かるよ。」



ロイドさんはそう言うと、半分のお肉を取ってくれた。



「今度何かお礼しなくちゃな。」


「いえ、いつもお世話になっているのはこちらですから、気にしないでください。」


「そうか。ありがとよ。」


「はい。」



ロイドさんが帰った後は、残った肉をジャックと半分こすることにした。



「俺の分まで悪いな。」


「こんなにあっても食べきれないしな。」


「そりゃそうか。」



俺がそう言うと、ジャックは嬉しそうに肉を貰うのだった。



「じゃあな。」


「また明日。」



ジャックと別れた俺は、家に向かって歩き出した。

帰る途中、ふと思い出したことがあった。



「そーいや、ジャックの家に優先的にお肉あげる約束したんだっけ。」



今日のウルフ肉を合わせると、それなりの量になりそうだ。そんなに食べきれるのだろうか……まあいいか。



「ただいま。」


「おかえりなさい。」


「これ、おみやげ。」



そうって、手に持っていたウルフ肉を母さんへと渡した。



「またお肉? どうしたの?」


「ロイドさんが取り逃がしたウルフを、たまたま俺が倒すのに協力したから、お裾分けで貰ったんだ。」



正確には違うが、まあ良いだろう。



「そうだったのね。後でロイドさんにお礼を言わなくちゃね。」


「だ、大丈夫。ちゃんとお礼言っておいたから。」


「そう? それなら良いのだけど、でも一応会った時には言っておくわね。」


「う、うん。」



ロイドさんの手柄にしたのがバレたら……まぁ、ロイドさんなら適当に言ってくれるだろう。信じてますからね、ロイドさん!



「じゃあ、夕食にするから手を洗ってきなさい。」


「わかった。」



手を洗いテーブルに着くと、さすがに今日の夕食は豪華だった。

黒パンなのは相変わらずだが、今日は、肉が入ったスープでは無く、シチューだった。これは正に贅沢だ。

後はオレンジ色の柑橘類がデザートとしてあった。



「シチューだ!」


「凄いでしょ~! 今日は小麦粉とバター、ヤギ乳を頂いたから頑張っちゃった。」


「すげー!!」


「ほら、冷めないうちに食べましょう。」


「うん!」



早速シチューを頂くことにする。


ズズッ……


ほんのりの塩気とヤギ乳のまろやかな味わいが口いっぱいに広がって鼻から抜けていく。これはやばい!

俺はガツガツと勢いよく夕食を食べるのだった。

食後にはデザートも食べられて満足だ。



「あ~幸せだ。」


「本当にね。」


「最近色々と美味しい物ばかり食べられて駄目になりそう。」


「だったら明日からは、元の黒パンと豆のスープにしましょうね。」


「それは止めてくれ!」


「うふふふっ、冗談よ♪」



最近生活に余裕が出たからか、母さんの冗談が聞けるとは……

よし、もっと頑張って母さんを楽にさせてやるぞ~!!


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