証拠
目が覚めた。今日も良い天気だ。
先ほどのあまりりすさんとの会話を思い出す。
「証拠か……」
確かに一目見て分かる何かが有れば、いちいち説明する必要も無くなるので、そういった物が有っても良いのかもしれない。
だけど、それがどんなものかが分からない……
「悩んでいても仕方がないし、起きるとしますか。」
俺はベッドから降りて台所へ向かうことにした。
朝食はすでに準備されており、母さんはすでにテーブルに着いて待っていた。
「母さん、おはよう。」
「今日は少し寝坊助さんね。」
「ごめん。」
「うふふふっ、さあ、朝ご飯にしましょうか。」
テーブルに着き、朝食を頂くことにする。
「「いただきます。」」
今日の朝食も豪華だ。黒パンは相変わらずだが、肉が入った野菜スープに、焼いたベーコンにヤギ乳だった。
こうも毎日豪華な食事が続くと、元の食事に戻れなくなりそうだ。
「何か凄いね。」
「本当にねぇ~、こんな贅沢をして良いのかしら?」
「大丈夫、頑張って働くから!」
「そう? だけど無理だけはしないでね?」
「うん!」
食事も終わったので、母さんにホーンラビットの肉を3匹分渡すと、仕事に向かうことにした。
「本当に毎日取ってこれるのね。それじゃ今日は、別のところにお裾分けしてくるわね。」
「まかせるよ。じゃあ行ってくるよ。」
「行ってらっしゃい。」
家を出た俺は、畑へと歩いていく。
ふと、持っている鍬を見て思いついた。
「これって、異世界の証明にならないかな。」
あの世界で、この道具を見たことは無いし、良いのでは無かろうか。
一応、候補の1つとしておこう。
畑に到着すると、やっぱりジャックはすでに仕事を始めていた。
「今日も早いな。」
「まーな。やっぱり肉の力は凄いな、力が漲ってるぜ。ありがとよ。」
「こっちも色々と貰っているし、お互い様だ。」
「そうか。」
「一応、今日も母さんに渡してきたけど、今日はジャックの家には届かないかもしれないぞ。」
多分な、別のところにお裾分けするとか言ってたかしな。」
「何だと!? マジか……」
ジャックが項垂れてしまった。確かにあの旨い肉が食えないってのはショックかもしれない。
ただここ数日が異常なだけで、食えないのが普通なんだけどな。
でも、項垂れているジャックを見ると少し可哀そうだな。
「とりあえず今日の分をさっさと終わらせちゃおう。」
「……そうだな。」
俺たちは黙々と畑仕事をするのだった。
ショックを受けたせいか、ジャックの作業量は減ってしまったせいで、俺の方が先に終わってしまった。
「手伝うぞ。」
「あぁ、すまんな……」
「俺の分の肉を分けてやるから、ちゃっちゃと終わらせるぞ。」
「本当か!」
「俺とジャック仲だろ、まかせろ。」
「よし! 頑張るぞ!!」
ジャックは、とたんに元気にって畑を掘り出した。現金な奴め。
畑が掘り終わったので、こっそりストレージからホーンラビットの肉を取り出した。
「約束の肉だ。」
「うぉっ! こんな大きなのを貰っても良いのか?」
「構わないぞ。一応貸しにしておくな。」
「まかせておけ。」
ジャックは嬉しそうにホーンラビットの肉を受け取った。
「それにしても、こんなに大きな肉をどこに隠し持っていたんだ?」
ギクッ! 言われてみればそうだな。懐に入れておくには大きすぎるし、俺は背負い袋も持っていない。なんて言って胡麻化そう……
「そ、それはだな……な、内緒だ。」
「……まあ良いけどな。ありがとよ。」
「おう。」
知らないフリをしてくれるみたいだ。まぁ、これが貸しのお返しでも良いか。
「じゃあな。」
「また明日。」
ジャックと別れた俺は、ストレージに鍬をしまうと、家路に着くのだった。
・・・・
「ただいま。」
「お帰りなさい。」
さて、今日の夕食はどんなのだろうな。
手を洗って台所へと向かう。テーブルに着いて夕食が運ばれてくるのを待つことにする。
夕食を運んできた母さんが、俺を見た瞬間、困った様な顔をした。どうしたんだ?
「あのね、今日の夕食なんだけど……」
テーブルに置かれた料理を見ると、黒パンに豆のスープで、いつもと同じ夕食だったのだ。
「いつもと同じだ……」
「ごめんねぇ~、今回お肉と交換していただいたのが、布と薪だったのよ。」
「そっか。」
今までは同じ食べ物を貰っていたから勘違いをしていたけど、布も薪も同じくらい生活に重要な物だから、交換対象にしてくれたのか。
特に布は貴重だ。衣類にすることも出来るし、手ぬぐい等の生活用品にすることも出来るからだ。それに衣類は買うと高いしな。
だから、こうして布が手に入るってのはかなり珍しいことなのだ。肉を全部渡しちゃったってのも納得できる理由だった。
(アイテムボックスにはまだ肉があるとはいえ、今日のところは出さなくても良いかな。)
俺は目の前にあ有る夕食を片付けることにした。
まぁ、いつもの夕食に戻っただけだ。可も不可も無い味だったのだけは言っておく。




