間違えられた
先ほどは変な人に会ってしまったが、先ほどの出来事と、今までの経験を振り返ってみて、あることに気が付いた。
「ホーンラビットって逃げないんじゃね?」
今までも近づいて見つかったとしても、攻撃されるどころか逃げなかった気がする。だからこそ、こっちの攻撃が当てられたとも言う。
そして、こっちが攻撃を当てると、初めてやり返してきた気がするな。
ガサッ!
その時、草むらから1匹のホーンラビットが現れた。
よくよく観察してみると、俺の姿は見えていると思うのだが、こっちの存在には気が付いている様には見えなかった。
俺は、逃げられることを前提として、ホーンラビットへと近づいてみることにした。
「ものすごい違和感だな。」
ホーンラビットのすぐ目の前に、剣を構えた俺が立っているのにもかかわらず、ホーンラビットは逃げるそぶりを見せなかったのだ。
もし俺が、ホーンラビットの立場だったのなら、絶対速攻で逃げると思う。やっぱりすごい違和感だった。
「まあいいや、とりあえず倒すとするか。」
俺は剣を振り上げて攻撃をしかける。無抵抗の相手を切り付ける罪悪感を感じつつも、今まで倒していたってことで問題ないと、無理やり納得させた。
俺が攻撃を当てると、ホーンラビットは初めて俺の存在に気が付いたらしく、攻撃を仕掛けてきた。
俺は攻撃を避けて切り付ける。もう一度切り付けることでホーンラビットを倒したのだった。
落ちていた毛皮を拾い……そうか。あの時の拾えない感覚って、冒険者ギルドでの依頼の紙と同じか。
何で拾えなかったのかの理由までは分からないが、ようやく先ほど引っかかっていた感覚が分かったことで、安心したのだった。
とりあえず今の出来事からも分かったことがある。ホーンラビットは攻撃されるまでは逃げることも襲ってくることも無いってことだ。
だから、あの弓士はホーンラビットを見つけるまで走り回り、見つけてからでも問題なく攻撃が出来たってことだ。なるほど理にかなっているな。
そうと決まれば、俺も走り回ってホーンラビットを狩りまくろう!
「うははははっ!」
俺はあちこちを走り回り、見つけると同時にホーンラビットを狩りまくった。
何故かこの世界では、いくら走っても全然疲れないのだ。お陰で狩りが楽になったぜ!
また見つけたのでサクッと倒す! その時、俺のことを見ていたと思われる冒険者達が何かを話していた。
「うわっ、またBOTかよ、運営に報告しよーぜ。」
「だな。うざいし、迷惑だしな。」
ん? もしかして俺のことか? BOTとかうざいとかの意味は分からないが、迷惑と言われているなら気を付けないと駄目だな。
「すいません。もしかして迷惑でしたか?」
「うおっ! 中身入ってたのかよ。」
「もしかしてBOTじゃない?」
「えっと、BOTって何ですか?」
「BOTを知らないって、もしかして初心者か?」
「はい。そうですけど。」
「なんだ、単に必死に黙々と狩っていただけかよ。BOTって言うのはな、ロボットから取った言葉で、自動で戦闘してくれるプログラムのことだよ。
それを使ってズルしてゲームしてると、ちゃんとやっている俺達みたいなプレイヤーに迷惑がかかるって訳さ。」
ロボット? プログラム? やっぱり異世界語はわからないな。
「そうなんですね。でも、自動で戦闘してくれるって便利そうですね。」
「便利っちゃあ便利だけど、強くなっていく過程を楽しめないし、個人的には面白くないと思うぞ?」
「そういうものですかね。」
「俺はそうだな。」
寝ているだけで強くなれるんだもん、良いと思うんだけどなぁ……
強くなれればお金も沢山入るようになるし、伝説のS級冒険者にだってなれるのかもしれないしね。
「なんだか納得してない顔してるが、BOTには手を出すなよ?
場合によっては運営から垢BAN食らってゲームできなくなるからな。」
「垢BANって何ですか?」
「それも知らねーのかよ。アカウント停止ってことで、このゲームにログイン出来なくなるんだよ。」
ログイン出来なくなるって、お金やお肉が手に入らなくなるってことだよな! それはマズイ!!
「わ、分かりました! BOTは絶対使わないと誓います!!」
「それが良い。じゃあ、一生懸命狩るのもいいが、俺達みたいに勘違いする人もいるかもしれないし、気を付けてやれよ。」
「はい。色々と教えてくれてありがとうございます。」
頭を下げてお礼を言うと、冒険者達は向こうの方へと歩いて行った。
そうか、狩り方にも気を付けないと駄目なんだ。勉強になったな。




