日常
思いついたので書いてみました。
ザクツ、ザクッ、ザクツ……
「ふぅ~、今日はここまでだな。」
そろそろ日が暮れる時間だ。切りのいい場所まで畑を耕せたので終わりにすることにする。
「おーい、そろそろ終わりにしよう。」
「だな、終わりにすっか。」
一緒に畑仕事をしていたジャックに声を掛けると、農具を片付け始めることにした。
「今年も例年通りの出来具合になりそうだよな。」
「そうだな、領主様も、もう少し納める量を減らしてくれると助かるんだけどな。」
「ははっ、違いない。」
畑の作物は、可も不可も無く無難な出来だ。正直もう少し収穫量が増えてくれれば生活も楽になるんだけどな。
「そーいや、ケインもそろそろ成人の儀式を受けるんじゃなかったか?」
「あぁ、今度の休みの日に受ける予定だよ。」
「そうか、もう15歳になったのか、この前まで子供だと思ってたのにな。人の成長って早いよな。」
「なに年寄りみたいなこと言ってるんだか。」
この世界では15歳になると、成人の儀式を教会で受けることになり、神様からスキルを授けられるのだ。
貰えるスキルは、戦闘に特化した剣術や、物作りの鍛冶、野菜作りの農業等、色んなスキルが有るのだ。
「ケインはどんなスキルが欲しいんだ?」
「う~ん、戦闘系のスキルを貰って冒険者になって、一攫千金を狙うってのも良いよな。」
「そうか。俺は戦いとかが嫌いだし、今の生活が性に合ってるから貰ったスキルで満足してるけどな。」
「まぁ、人それぞれだよな。」
ジャックは1歳年上なので、去年スキルを授かっているのだ。
貰ったスキルは「木工」で、ちょっとした小物を作るのに適したスキルだ。だから副業として、ちょっとした小物を作っては売るなどして、小遣い稼ぎをやっているみたいなのだ。
「じゃあ、俺はこっちだから。」
「おう、また明日。」
俺はジャックと別れると、自分の家に向けて歩き出すのだった。
「ただいま~」
「ケインお帰りなさい。夕食が出来ているから手を洗ってきなさい。」
「わかった。」
出迎えてくれたのは俺の母親のリリだ。父親は俺が物心が付く前に死んだと聞かされたので、どんな人だったのかは分からない。
一応冒険者だったらしく、家には父親の形見の剣が1本あった。強かったのかどうかは教えてくれないので知らない。
まぁ、強そうな剣には見えないので、大して強くは無かったのではないかと予想している。そういうことで、この家は俺と母親の2人暮らしなのである。
手を洗いテーブルへと着くと、母親がすでに座って待っていた。
今日はめずらしく、何故かニコニコの笑顔で、何かを企んでいる顔だった。
「……どうしたの?」
「な、何でもないわよ。ほら冷める前に食べちゃいましょう。」
何やらごまかされたが、あの様子からきっと教えてはくれないだろう。
諦めて食べることにする。
「「いただきます。」」
夕食は、黒パンに豆のスープと、ハーブのお茶だ。
さっそく頂こ……ん?
「おぉ! 今日のスープに肉が入ってる!!」
「うふふっ、すごいでしょ~」
「どうしたの、これ!」
「えっとね、お隣のロンドさんからお裾分けを貰ったのよ。ケインの成人のお祝いにって。」
「やった! ありがとうロンドさん!!」
俺は久しぶりの肉にテンションが上がるのだった。
「ふぅ~、食った食った。」
「お粗末様です。」
俺たちはハーブのお茶を飲みながら食休みをしている。
「いよいよ明後日は成人の儀式ね。」
「あぁ、どんなスキルが貰えるか楽しみだよ。」
「まぁ、私とあの人の子だし、大したスキルは貰えないと思うわよ?」
母さんのスキルは裁縫だが、そう言えば父さんのスキルって聞いたこと無かったな。
「ねぇ、父さんのスキルってどんなのだったの?」
「……聞きたい?」
「うん。」
「ほんと~に、聞きたい?」
「聞きたい!」
「……まぁ、良いでしょう。あの人のスキルは『逃げ足』よ。」
「はい?」
逃げ足? 逃げるのに特化したスキルなのか?
「えっと、それってどんなスキルなの?」
「敵から逃げるときに足が速くなるって言ってたわね。」
「父さんって冒険者だったよね? それなのに逃げてどうするんだよ……」
「遠くから敵に矢を当てたら逃げて、離れたら矢を放ってまた逃げるを繰り返して敵を倒していたみたいね。」
「……家に有る剣って何で有るの?」
「あぁ、あれは見かけだけのカッコ付けで装備してただけみたいね。結局使うことなく死んでしまったけどね。」
戦えないのに何で冒険者なんてやってたんだろうな。
「そんな感じだから、ケインもスキルに関しては期待しない方が良いわよ。」
「……そうする。」
スキルはある程度遺伝するっていうし、こりゃ望み薄だな。