白雪姫のマリアンヌ
別の姫君の番外ヒロイン一人目です。
マリアンヌは心底うんざりしていた。
7歳のときに白雪姫に選ばれ現在14歳。先代の白雪姫が交代直前に駆け落ちしたせいで急遽の代役が立てられラストシーンが演じられたが人々は俄仕立ての白雪姫を良くは思わず、王子役もまた駆け落ちした白雪姫役を忘れられず代役との婚約は破談になった。
駆け落ちした二人が人知れずどこかで幸せに暮らしているかどうかは世間のあずかり知らぬところだが、
不幸な結末の白雪姫は当代に過大な期待をかけることとなった。
白雪姫は務める期間が長い。世の人も子どものときから成長過程を見守っていくため思い入れが強くなる。
マリアンヌと相手役のフランツは家柄も良く生まれながらの婚約者同士、幼馴染として育ち、なるべくして厳選されたため、長期的に世の人気も高い。
マリアンヌの美貌は言わずもがな。白い肌に黒檀のような黒髪雪に落とした血の雫の様な赤い唇。
世間の期待を背負わされ幼い頃から続けられる御伽噺さながらの茶番にマリアンヌはうんざりだった。
優しい幼馴染で見目も良いフランツのことは嫌いではない。しかし彼はどうにも煮え切らない。
御伽噺の王子様としては満点なのかもしれないが唯一の婚約者としてマリアンヌに触れることが既に赦されているのに、7歳の時からずっと変わらぬ子ども扱いだ。
5つ年上のフランツからしたらマリアンヌが幼く見えるであろう事は理解できた。
だが、無駄に高い世間の期待とは裏腹に当の主役二人はずっとままごとの様な茶番劇のみで実際の恋愛は一向に進展しないのだ。
フランツを見上げ優しく微笑む彼にマリアンヌは焦れた。
「こんなんじゃそりゃ駆け落ちでもしたくなるわよ」
「滅多な事を言うもんじゃない」幼馴染はやんわりと彼女を嗜める。
フランツは知っていた。
世間の関心の高い中、芝居の進行でなく露骨に現実での関係性が変われば人の口にいろいろな噂が登るであろう事を。
拙い恋愛が進展すればマリアンヌが隠し通すことは無理だろうと言う事も。
幼い頃から守り続けてきた可愛いマリアンヌを好奇の目に晒すなど耐え難かった。
ならば役目を終えるまではこのままで良いと。
自分たちの関係に横槍を入れられる者等居ないのだから。
ゆっくりと安全圏に逃れてから人目につかない所でマリアンヌは大人になるのだ。
それを見届けるのは自分だけで良いとフランツは思っていた。
「聞いてくださいませ朱里様」マリアンヌが朱里の部屋へ駆け込んできた。
明日もどうぞよろしくお願いいたします。