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つがいって何ですか?

「お前、いや朱里、番を知ってるか?」

「……動物のつがいのことですか?」

「やはりお前はこの世界の人間ではないな」

何がいけなかったの分からないがまずいことを言ったらしい。

「記憶が直近の3ヶ月しかないので色々抜け落ちているのだと思います」


「そうか。この世界で番と言えば互いに引き寄せられる離れられない一対の男女だ。そして朱里お前は俺の番だ」

「はい? この世界の人間でないのに?」

「やはりこの世界の人間ではないのだな」


しまった。ああもう面倒。このままアンリ王子と当分暮らすのに隠すのは無理な気がしてきた。

「先ほど直近3ヵ月しか記憶がないと言いました。それ以前は全然別の世界で暮らしていました」

「やはりそうか」

アンリ王子は嬉しそうに言った。よかったスパイ容疑ではないらしい。


「その世界のことを少しづつで良いので毎夜話してくれ、眠る前に」

アラビアンナイトですか?

「はあ」

「という訳で朱里はやはり俺の番だ。誰かに問われたらそう答えること」

なんだか分からないが、とりあえず私がいばら姫に選ばれた理由はどうやら別の世界の話が聞きたいかららしい。


何が待ち受けているのか生きた心地しなかったから取り合えずそれだけでも判明してよかった。

つがいの概念は理解出来ていないが、アンリの言う『互いに引き寄せられる離れられない一対の男女』なら

私は引き寄せられていないから該当しないのでアンリの思い込みか何かの間違いだろう。

そう思ってこの時、アンリの番に関しての発言を聞き流し深く考えて居なかった私は後悔することになる。


「形だけでなくて『お前』は俺の許婚だ。今すぐ俺が朱里に手出しても全く何の問題もないけど、朱里の覚悟ができるまで一ヶ月は待ってやる」

「……え?」猶予一ヶ月しかないの? それまでに帰れなかったら貞操の危機?


「学院長の息子の許婚に手出す馬鹿は居ないと思うけど、他の男に触らせるなよ?」

アンリはそういって急に最初の甘い空気を醸し出した。今さっきまでの脅しの流れはなんだったの?

「馬鹿言わないで。冗談じゃない」


突然雰囲気と口調を変えたアンリは美しく微笑んだ。

「冗談ではありませんよ、姫。今後、砕けた口調は二人きりの時だけでお願いしますね」

「だって違う世界の話を聞きたいから私を選んだ様に聞こえたんですけど」


「私は未来永劫、番であるあなたを愛すると誓います」

都合の悪いことはスルーする性格かこの王子様。


みんなが羨む血統証付きで美形な王子様からそんな白々しい事を言われては何の感想も出てこない。全然現実味がない。

絶対ごめんだ。否定を続ける私を無視してアンリが私の髪を一房掬いそこに口付けた。

物語の挿絵の様な構図に恥ずかしくなって顔を赤らめながらも不平不満をぶつける。


「普通は王子様のわがままで相手の姫を選ぶとか出来ないそうじゃないの。本来世襲でもないルールなんでしょ? 随分横暴なのね」

「使えるもんは親でも権力でも何で使います」

「こっちは良い迷惑。今までは目立って居ようとも嫉妬されない存在で居られたのに」


「女の嫉妬は怖いですね」

「誰のせいですか」

「だから当分こちらで過ごすんですよ」


「ベッドまで一緒なんて信じられない」

「一ヶ月は待って差し上げますよ」

「でもここで暮らすの一ヶ月よね?」


「ご安心を。学院生活が一ヶ月なだけで役付き中、一年以上ずっと一緒ですよ。それが過ぎれば婚姻ですからもうずっと一緒ですよ」

「……ソファーで寝ます」幸い豪華で広々としたソファーがあるし。

部屋は応接セットのある居間と大きなベッドのある寝室が続き間となっている。


更に寝室から王子用と私用の私室へと続く扉があった。

「朱里の世界の話を寝る前にしてもらう約束をしたでしょう? 同じベッドです。なんなら今すぐでも良いんですよ」


「わー赦してください。以前も女子だけの学校に通っていて男子とお付き合いしたことないんです」

急にまた王子らしからぬ物言いと表情になったアンリは小馬鹿にしたように言った。

「へーそんなのあたりまえだろう良家の姫君が。俺の番なんだから他の男に触らせるのなど赦さない」

「こちらと世界の事情が違うんです。恥を忍んで言ったのに……」

「慣れろ」


「あの、せめて結婚までは清い関係で……結婚もせめて二十歳を過ぎてからで……」

「それこそこの世界では朱里の世界と違う。十代前半で結婚もままある」

「いーやー」


「往生際が悪い。もう俺たちは婚約、いや結婚したも同然」

「同然でも未遂ですから。ほら駆け落ちする人とか居るんでしょ」

「やるなよ? 後ろ指差されてどん底人生まっしぐらだ」


「せめて脇役に変更できない?」

「諦めろ。むしろありがたく思え。一番お役目期間短いけど箔が付くいばら姫なんだから」

「私に似合わな過ぎるから。容姿とか出自考慮しようよ」


「まあ俺の両親はビジュアルも完璧だったらしいけどな」

「はいはい、そうですねアンリ様も似合ってますから。もっとお似合いなビジュアルばっちりな子に今から変更して」

「決まったことは覆らない」


あーやっぱり偽装駆け落ちで逃げるくらいしか手はないのか。

「偽装駆け落ちなんかしようとしてみろ」

アンリは心の声が読めるのかしら。

「事前に取り押さえた上、誰のものだかその身体に教え込んでやる」


「アンリ様なんかキャラ崩壊してます」

「朱里こそもう少し猫かぶれ。表では」


そんな訳で王子学院で当分過ごす事になったのだが、アンリの学院内での威光はすごかった。

後輩から慕われ尊敬され、先輩からも先生からも一目置かれ完璧な模範的王子様。

眉目秀麗、容姿端麗なのは一目瞭然だが、成績優秀、文武両道、品行方正、清廉潔白……

なんかもっといくらでも四字熟語を延々と並べ立てられる感じに非の打ち所がない。


学院にファンクラブまである。聞けばうちの学園にも、更には一般社会にまであるとか。どこの有名人ですか。

ああいやだ学園に戻ったら周りの反応が恐ろしい。なんという地獄へ私を引きずり込んでくれたのか。


そう学園にも戻るまでもなく王子学院にも「アンリ様にふさわしくない」と不満を述べてくる方々いらっしゃいましたよ。


しかしそういう時には程よいタイミングでアンリが現れ決まってこう言うのだ。

「朱里を貶める発言は謹んでください。それは私に向けられたと同等に見做します。二度目はありませんよ。

 私が朱里を選んだのですから。そして朱里は私の番です。ああ愛しい姫」

そして最後には苦言を呈した相手など目に入らなくなったといわんばかりに

うっとりと蕩けるような微笑みで朱里を見つめながら締めくくる。


これをやられた相手はアンリ様の趣味の悪さにあきれ果てつつもアンリ様のご不興を買うことだけは望まないらしく

不承不承でも朱里に頭を下げ二度としないと誓うのだった。

アンリは地獄耳なのか私に盗聴器でも付けているのか、毎度毎度の絶妙なタイミングで登場する。


しかしアンリがどんなに素晴らしくても私に対しては二重人格の横暴俺様王子様なのでお断りだ。

「何故私の前でだけ性格違うんですか? 素なんでしょうか『私』でなく『俺』になるし」

「え? 面倒だから」


酷い。婚約者で『愛しい姫』に対する扱い酷い。


これは姫君修行学園と王子学院を舞台に

超一般人なのに分不相応な、いばら姫役に選ばれた朱里が

相手役兼婚約者の表は完璧王子で二重人格なアンリ王子と

他の姫君や王子様と繰り広げる異世界学園ラブコメ?

昨日から連載始めました。毎日更新予定です。

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