懐かしいね
朱里と悠。
はーちゃんが居る! 何故かわからないけれど、でもちょっと安心する。
同じ年の門倉悠は親戚の中でも一番仲の良い従弟だった。
仲が良いというか、懐かれていた、と言うべきか?
悠は朱里に対してだけ、とても距離感の近い子だった。
アンリの、いや蓮の後輩だったとか自分の知らなかった不明点はあるけれど、そんな事はどうでも良くなる位に、ただただ、懐かしかった。
「ねー、あーちゃん、一緒に遊ぼう?」
幼い頃から、会うたびに、こう話しかけられた。
おままごと的なごっこ遊びや、アウトドア的な遊びも無きにしも、あらずだったけれど、
物心ついてからの、はーちゃんとの遊びは、トランプのゲームやボードゲームが殆どだった。
トランプでは、シンプルなババ抜きや神経衰弱、7並べ、スピードは矢鱈にやった。
はーちゃんは、どのゲームも強かった。
ちょっとしかやった記憶がないけれど、デジタルのゲームも強かった。
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「ねー、あーちゃんは、アンリ生徒会長の婚約者、本心から受け入れられているの?」
娯楽室で、過去のゲームを再現すべく、この世界にはない、トランプカードを作りながら、唐突に悠が質問した。
「わからない。いきなり、気が付いたら知らない世界に居て『いばら姫だ』って選ばれて、アンリに、自分も前の世界の人なんだって言われて、少し親近感わいて。でも、この世界の、婚期が早すぎることとか、全然ついていけない」
「うん。あーちゃんは北条先輩に流されちゃ、ダメだよ。いざとなったら、ぼくが攫ってあげるから。そのためにぼく、あーちゃんを追ってこの世界に来たんだよ」
「それが、この前言っていた偶然じゃなくて、必然?」
「うん。ぼくも、だけど、あーちゃんがこの世界に呼ばれちゃったのも、たぶん北条先輩の必然なんだと思う。でも、あーちゃんは、自分の意志じゃないから、理不尽だよね」
「はーちゃんは、事情を全部知ってるの?」
「ううん。あーちゃんが居なくなって、その経緯に北条先輩が絡んでるんじゃないかなって思って、調べて。あとは推測かな」
「そっか」
「あーちゃんは、帰りたい?」
「帰れるなら、元の世界に帰りたい、とは思う」
「『とは、思う』?」
「……アンリがというか、蓮が何で、そんな、私に拘るのか、分からないから、知りたい」
「あーちゃん、先輩の事、気になっちゃってるんだ。絆されてるね」
「そうなのかな? 男子に免疫が無さ過ぎて、ピンと来ないんだよね」
「というか、部屋一緒なんでしょ? 大丈夫なの?」
「あ、うん。今のところ、何もされてないよ。健全」
「え、今、目泳いだよね」
はーちゃんは目ざとい。
「お披露目の練習であったから、キスだけだよ」
「ふーん。よくそんなのんびりして居られるね、高校生男子と同じベッドで、毎夜寝るのに」
「そういう言い方止めて」
「でも事実でしょ?」
「兎に角、今は何もないから」
「今は、ね。いつまでそれ、保証されるか怪しいけどね」
「はーちゃんだって、お泊りの時、一緒に寝てたよね」
「……はぁーーー。分かってないな。……まぁ、鈍いのは仕方ないよね、仕様だから」
なんだか凄く失礼な物言いをする、はーちゃんに、アンリとの諸々を思い出して、恥ずかしくて、反論する事が出来なかった。
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