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囲い込んで安心かつ慢心してました sideアンリ

第2部。アンリ視点ですが、本編、復帰しました。

番とは各々の二人によって症状の出方が違う。

両親が番であり、また番の症例を一般社会よりも高い比率で有する学院に所属するアンリはそれを知っていた。

自らの両親の様に朗らかに、暖かい良質な気持ちだけが、強力に存在する稀有に幸せな例もあれば、

凄まじい執念と執着で、互いを拘束するかのごとき、怨磋のような縁もある。


共通するのは、番同士が感じる気持ちは、双方向に同じ様相で、強さであると言う事だ。

アンリは朱里と自分の互いへのベクトルが同様でない事、すなわち本来の番でない事はもちろん認識しているが、朱里はそもそも番の概念を正確に理解していない。


だからこそ『朱里と番である』と言ったもの勝ちだった。

実際、番であるかどうかは問題でなく周りを、そして朱里を丸め込めればそれで良かった。

現に朱里と自分は、異世界の記憶を共有するという、他の番にも類が無い、特別な関係である。

他人の番に横恋慕するような馬鹿は、この世界には居ない。


通常、番は双方に認識、確認の後に、存命であれば両親に報告し、国家に登録する。

学院や学園に在籍する生徒は、学校への報告も必要となる。

アンリは、登録されてしまえばこちらのものだ、とタカを括っていた。


アンリと朱里の物語が、世に広く語られる事で、万が一の事態が起こることを予測していなかったのだ。

無事就任式を終え、世間に認められ、油断していた。

この世界の常識の通用しない人間が、存在する可能性を思い浮かべた事はあったというのに。


人に囲まれていることが多いアンリが、一人になることは極めて稀だ。

その、希少なタイミングで、声を掛けてきた生徒が居た。


「ハジメマシテ、アンリ会長。転入生の門倉悠かどくら はるかです」

アンリは自己紹介を受けて愕然とした。

その名と容姿が、そのままの日本人であることに加えアンリが、いや蓮が良く見知った人物だったからだ。


門倉悠は、蓮が通っていた男子校の中等部で、自分の生徒会長時に、1年で生徒会役員に任命された生徒だった。一年間の任期、共に生徒会役員を務めた。


入試の際に一番の成績の一年生が、自動的に生徒会役員となる。

大抵はその生徒は、そのまま3年時には生徒会長となる。蓮もそうだった。


アンリは蓮と全く違う容姿だが、就任劇の際、自分の名を名乗っている。

門倉がそれを見知っていたら、自分の知る生徒会長であると直ちに認識するだろう。


「生徒会長にお尋ねします。本当に、あーちゃん、朱里と番なのですか?」

「何故、疑うのですか? 何の権利があって?」

彼はアンリでなく、蓮に問うているのだ。分かっていてアンリは明確な回答を避けた。


「答えになっていない。……ぼくは、あーちゃんの従弟なんだ」

「そ、んな、知らない」

「言っていないので。当然、知らなかったでしょう。でも、ぼくは会長が、あーちゃんを好きだったのも知っています。電車でストーカーレベルに、あーちゃんの事、見てたましたよね」

悠は、隙の無い光を宿したその瞳を眇める。当時、中一にして食えない奴だと思っていたが、その勘だけは当っていた様だ。


「この度の、いばら姫お披露目からの派生の戯曲や、本に語られて居る範囲では、別の世界で同時に存在していたという事実だけを番の根拠にしているようですが、他の事実は意図的に伏せているのですか? なぜあなたが、あーちゃんがこの世界に呼ばれたのか」


「私にも、朱里にも何故こんなことになったか、理由がわからないんだ。共通点は、15歳の誕生日からこの世界に意識がある。というだけで……」

「僕の推測をお伝えしましょうか?」

「……ああ」


「あなたは北条会長としての記憶が継ぎはぎの様ですよね」

「……その通りだ。……アンリとしての記憶も同じく細切れだ」

「比較して、あーちゃんはこの世界に来た経緯だけ、わからないけれど記憶障害は見られない。僕もそうです。そして僕たち二人は、以前の姿形と全く同じ」


「会長は、あちらの世界に2年前から存在して居ない。そして、あーちゃんも抹消されてる。だからおそらくぼくも。今、この世界で元の世界との容姿や名前の同一性、相違を鑑みると、所謂、転生的な会長に対し、あーちゃんと僕は異世界転移。これらの事実から、あーちゃんと会長が、この世界でいうところの番という、約束された存在同士であるという確率は低いです」

「……」


反論の余地もない。

「いまや、この世界では大人気の、いばら姫と王子ですけれど、あーちゃんが幸せじゃないなら、ぶち壊します。まずは彼女に会わせて下さい」


今、朱里に嫌われては居ない。けれど彼女は自分に対して、完全なる恋に落ちる段階には、なってもいない。曖昧な状態で、こいつと駆け落ち紛いを起こされたら、取り返しがつかない。

「……少し待って欲しい」


「ぼくも数か月前に、ここへ来ました。15の誕生日にです。先ほど会長が言っていたように、あーちゃんが消えたのも15歳の誕生日でした。その時に、気になって遡って調べたら、北条会長が行方知れずになったのも15歳の誕生日の辺りでした。ぼくの推測では、会長がなんらかの理由でこの世界に転生し、執着していた、あーちゃんを呼び寄せたのではないですか?」


「では、門倉は何故この世界に?」

「あーちゃんのため。言うまでもないですよね?」

「私から朱里を奪うことは、看過でない」


「権力振りかざしですか? 記憶の共有が番の理由みたいに言ってますけど、ぼくとあーちゃんなら本当に記憶をたくさん共有しています。条件だけで言えば、ぼくのほうが番にふさわしいですよね? 婚約と言ってもまだ正式に結婚した訳じゃない。あーちゃんはどこぞの姫君でもないから、ぼくと駆け落ちして、隠れ住む事も出来る。困るのは会長だけです」


自分、蓮が何故アンリとしてこの世界に居るのか、朱里が、何故この世界に同じ姿で存在するのか、考えることを放棄していた事へ、浮かれていた心に冷や水を掛けられた。

手に入れたと思ったものを、失うかもしれない。焦燥感に、自分の心臓が嫌な音をたてる。


そこへ運悪く、朱里が現れた。

「え? はーちゃん! どうしてここに居るの? いつから?」

「数か月前から。理由は分からない。でもたぶん、あーちゃんを守るためだよ。」


仕切り直すように、こほんと咳払いしてから悠は続けた。

「あーちゃんに言ってなかったけど、ぼく北条会長の後輩で同じ生徒会に所属してたんだ」

「そんな偶然あるんだ?」

「たぶん偶然じゃないよ。必然ですよね? 会長」


失うことへの恐怖に、朱里になんと声を掛けるかすら、思い浮かばなかった。

新たな登場人物です。

身内での名前の頭文字の長音呼びが好きです。

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