シンデレラのベアトリーチェ
番外ヒロイン二人目です。
シンデレラ役のベアアトリーチェは思い悩んでいた。
ここ数代のシンデレラの動向は白雪姫程ではないにしても世間の注目を集めていた。
七年前先代の白雪姫の駆け落ちの相手が数代前のシンデレラの相手のチャーミング王子だったからだ。
その時のシンデレラもまたラストシーンは代役の王子でもって終演した。
白雪姫の悲劇と違い、そのシンデレラは代役とその後恋に落ち、めでたく結婚となった。
白雪姫とシンデレラへの世間の目が厳しい中、ベアアトリーチェはチャーミング王子役のフェルナンデスがどうにも理解不能で好きになれそうになかった。それを表に出すほど馬鹿ではなかったが。
フェルナンデスは大変ハンサムで姫たちからの人気も高い。飄々としたポーカーフェイスで女性たちの熱い視線を軽くいなす。
そこが人気の理由の一つでもあるのだが、ベアアトリーチェには軽薄に思え、真意も、真摯な態度も見えず何故自分の相手が彼なのかと失望してしまう。
当代白雪姫とその王子は元より婚約者同士で幼馴染でもあるらしく大層似合いで仲睦まじい。
あのように心の底から信頼し合える相手が自分の婚約者であったら。
あるいはつい最近選ばれたいばら姫。あんな風に優しく理想の王子様が自分に恋焦がれてくれてくれたなら。
無いものねだりをしてもむなしい。
「ベアトリーチェ。我が姫君、ご機嫌いかがですか?」
「おかげさまで」宜しく有りませんわの言葉を飲み込む。
「つれないな我が姫は」皆が悲鳴をあげて喜ぶ魅力的な笑顔とやらを貼り付けてフェルナンデスがこちらを覗き込む。
「そんな張り付いた笑顔は無駄ですから不要です」フェルナンデスの顔から一瞬表情が消えた。しまったと思ったときには遅かった。
「ああ、ベアトリーチェが私を御気に召さないのはそういうことですか」
いつもの軽薄そうな笑顔とまるで違う人の悪い笑顔を浮かべたフェルナンデスにベアトリーチェは寒気がした。
フェルナンデスは驚いた。
王子役は名誉なこととされているがあまり気負いも無く、普段自分の崇拝者の姫君たちをあしらうのと同様に適度に適当に振舞っているつもりだった。
ベアトリーチェが不満そうであることには気付いていたがそれによって心構えが変わることは無かった。
「そんな張り付いた笑顔は無駄ですから不要です」そう言われて気が変わった。
彼女はからっぽで見た目だけのフェルナンデスに興味がないという事だ。そして彼女の冷めた目を本気にさせてみたくなった。
明るく軽薄な笑みを消し去ったフェルナンデスの目には欲の篭った光が映り舌なめずりするような笑顔でベアトリーチェに言った。
「ああ、ベアトリーチェが私を御気に召さないのはそういうことですか」
彼女は身震いした。その身震いは本能的な恐怖と官能の双方の発端であることにフェルナンデスは気づいていた。
「聞いてくださいますか朱里様」ベアトリーチェが朱里の部屋へ入り込んできた。
明日もよろしくお願いいたします。