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第九話 暇つぶし


退屈な時間をただひたすらボーッと何かを考えて過ごすというのは前世の俺には全く想像できなかったが、意外と良い時間の過ごし方だと気づいた俺はしばらくただボーッとすることにした。




しかし、それにも限界がある。確かに物思いに耽る時間というのは大切だが、永遠にそれを続けることはできない。そろそろ何か別のことをしたい。




だが、何ができる?俺の身体の一部とも言えたスマホやパソコンはこの世界にはない。もちろん、それらを通して見ていたアニメや映画、ドラマなどもほとんどないだろう。それ以外の娯楽を知らない俺は途方に暮れた。




その後しばらく考えたが、一人で考えていても埒が明かないことを悟った俺は外に出て、アルベルトに何か暇を潰せるものがないか聞いてみることにした。




「おーい、アルベルト!」




村の入り口で見張りをしているアルベルトに声をかける。




「どうした?何か困ったことでもあったか?」




優しく返事をしてくれたが、槍、盾そして鎧を装備しているアルベルトは相変わらず迫力がある。




「困ったことというほどのことでもないんだが…、少し…、ほんの少し暇だなーって思ってさ。何かこの村で暇つぶしになるものはない?」




一応、滞在させてもらっている身なので退屈だなんてはっきりとは言えない。




「そうか。家の中に居たってやることねえもんな。」




「ハハハ…。」




はっきり「そうだな。」とは言えないので日本人の得意技、苦笑いでなんとか乗り切る。




「そうだな…。暇を潰すなら、本を読むのがいいと思うぜ。俺の家の倉庫の中に本があるからそれを読みな。」




「ありがとう。」




「文字は読めるよな?」




「大丈夫だと思う。」




話している言語は同じなので読むときも同じと考えて大丈夫だろう。だが文字が読めるか確認してきたということはこの世界でも文字が読めない人は一定数いるということか。現代日本の教育に感謝しなければ。




しかし、本か…。そんなものあったな…。長らく本を読んでいない俺は何か忘れかけていたものを思い出すかのように本というもの自体の存在を再びに認識する。しかし、娯楽のために本を読んだ経験がほとんどない俺が今更、本を読むことを楽しめるだろうか。第一、俺は活字が苦手なのだ。細かい字によって埋め尽くされたページを目の前にするだけで読む気が失せてしまう。だから本なんか読むよりスマホやパソコンで動画をみたり、ゲームをしたほうがよっぽど楽しいだろう。




だが、他に特にやることもないのでアルベルトの家にある本を読んでみることにした。




彼の家に再び戻り、倉庫に向かう。その倉庫は俺の背の1.5倍ほどの高さがあり、横には5メートルほどもあった。要するにとても大きい。




おそらく、本だけでなくて色々大切なものがここに保管されているのだろう。本だけを保管するにしてはあまりに大きすぎる。




そんなことを考えながら、倉庫の扉を開けるとそこには驚くべき光景が広がっていた。




色々な大切なものなどどこにも見当たらず、倉庫は本の山によって埋め尽くされていた。




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