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第六話 村

男と俺は出発してからしばらく無言で歩き続けた。おそらく俺の悲惨な境遇を想像して気を遣ってくれてたのだろう。


だがそれは気まずい沈黙ではなく何かとても自然なものだった。俺は沈黙をそこまで苦にしないが、この男もそうなのだろうか。


俺は驚いた。前世でアメリカの人々は沈黙が堪えられないと聞いたことがある。


彼はアメリカ人ではないだろうが、西洋人のような見た目をして、とても陽気そうだからものすごくお喋りなのだろうと勝手に予想していた。


見た目と印象だけで人を判断するのは良くないな。


歩き初めてしばらくし、彼が突然口を開く。


「そういえばお前の名前、聞いてなかったな。なんて言うんだ?」


言われてみれば、確かに名前を言っていなかった。


「俺の名前はケイって言うんだ。」


「ケイ?聞いたことのない名前だな。」


「そうなのか?」


「ああ、少なくとも俺は聞いたことがない。これは俺の感覚だが、なんていうか、ヒビキって名前は俺が知っている一般的な名前と音の響きが根本的に違う気がする。」


なるほど。もしそうならここは日本ではない可能性が圧倒的に高い。


日本では、少なくとも俺が生きていた頃は、ヒビキという名前は人気ではないにしろそれなりに一般的だったはずだ。


「意味はわからないが、いい名前なんだろうな。親は子供の名前を一生懸命考える。だから俺らには耳馴染みがなくても、きっと大切な意味があるんだろう。親は子供に意味のない名前なんてそうそうつけないからな。」


確かにそうかもしれない。あまり考えたことがなかったが、自分の名前は親が真剣に悩んで、俺のためを思ってつけたのか。この人には色々気付かされる。


「ありがとう。そんなふうに言ってもらえたことはあんまりないから嬉しいよ。あんたの名前は?」


「おいおい、お前あんなにかしこまってたのにいつの間にか元の生意気な口調に戻ってんな…まあいい。俺の名前はアルベルトってんだ。よろしくな。」


「アルベルトか…いい名前だな。よろしく。」


ドイツ人っぽい名前だ。俺の脳裏には舌を出した天才物理学者が浮かんでいた。まあ彼はドイツ生まれというだけで正確にはドイツ人ではないと思うが。


いつの間にか立ち止まっていた俺たちは再び歩きだした。歩きだしてすぐにアルベルトが思い出したように言う。


「そういや、ケイにこれを返すのを忘れてたぜ。」


アルベルトは彼の持つ大きな盾に突き刺さった俺のナイフを引っこ抜き、俺に渡す。


「こんなのが突き刺さったままだと俺の自慢の盾がかっこ悪く見えちまうからな。あと、お前もいざという時のために身を守れるものを持っておいたほうがいい。」


「それは賛成だが、こんなのがあってもあんたが言うようにヒョロすぎて実際身を守れるとは思えないけどな。」


「いやそれは間違ってる。さっき、お前は盗賊にしては弱っちすぎると言ったが、石器を投げることに関しては悪くない。実際、お前の投げた石器は俺の盾にしっかりと刺さっていた。だから持ってるだけでも役に立つと思うぜ。」


「そ、そうか…。ありがとう。」


自慢のナイフがさらりと石器呼ばわりされたことに動揺を隠せない俺。確かに見た目はナイフなんて呼べる代物ではないが…。


その後、俺はアルベルトと会話を繰り返し、彼が村の戦士で付近のパトロールのために俺がいた森に立ち寄っていたということを知った。彼の体格を考えれば村の戦士でも納得だ。


俺がいた森について聞くと意外なことにその森はそれなりに危険な森だったそうだ。


そんな雰囲気は感じ取れなかったが、俺が勝手にそう感じただけだろう。それもそうだ。現代日本で生まれ育った俺が雰囲気だけで森を危険かそうでないか判断できるわけがない。


そして、どうやらそんな危険な森で生き残り、彼に出会うことが出来た俺は相当に運が良かったらしい。


アルベルトと俺はそこから1時間ほど歩き続けてようやく森を抜けた。


森の外には街道のようなものがあった。それは日本のアリ一匹通さないようなアスファルトの道路ではなかったが、それなりに整ったものだった。


もしかしたらこの世界の、少なくとも、この国は思ったよりも発展しているのかもしれない。


街道を下ってしばらくすると、ようやく彼の村が見えてきた。
















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