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第一話 ここは天国?それとも....

今日も今日とて大学に行き、無気力に講義を受ける。


講義は退屈だが、サボるのもせっかく大金を払って俺を大学に入学させてくれた両親に申し訳ないので講義はできるだけ出席するようにしている。


そんなの効率悪いだの、真面目かだの言ってくるやつがいそうだが、これは俺の個人的なこだわりなので気にしないでもらいたい。


暗号のような教授の解説を聞きながら窓から外を見ると、鉛を溶かしたような曇り空が広がっていた。近頃は天気がよく変わる。


講義が終わり、他の生徒に続いて教室を出る。今日の講義は全て受け終わったのでそのまま帰路に着く。


だが即帰宅できるというわけではなく、一旦バスに乗って最寄駅まで行かなければいけない。これが結構めんどくさいのだが、これ以上近くに住むのはアパートの家賃が高くなったりするなど色々と都合が悪い。


バス停に向かいながら俺の体は待ってましたとばかりにポケットからスマホを取り出し、SNSを開く。


アプリを開くと、刺激的な画像や情報が雪崩のように脳内に流れ込んでくる。エロい女の子の動画、芸能人の不倫ニュース、新作ゲームの新情報、可愛い女の子の画像、バズっている動画、etc...。


俺の脳はそれらを貪り喰らうように味わい、俺をスクリーンに釘付けにする。しばらく歩き、もうバス停は一つ横断歩道を渡れば着く場所にあった。


しかし、脳は極上のご馳走を前にしてしまったことで、危険を察知するという人間の最も本能的の能力の一つを一時的に失っていた。


それも横断歩道の上という最悪の場所で。


気がつくと、一台の車がけたたましいブレーキの音を鳴らしながら、真横に迫ってきていた。そこからは考える間も無く、俺は強烈な音とともに吹き飛ばされた。







 目の前が真っ暗になってからどれくらい経っただろうか、車に吹き飛ばされ死んだはずの俺はどこか知らない場所に横たわっていた。


意識が戻り、目を開けた瞬間それはわかった。眼前に広がる空は大学で見たような曇った空ではなく、吸い込まれそうなほど澄み切った青い空だった。そして俺が横たわっていたのは道路の無機質なアスファルトの上ではなく、生き生きと植物が生い茂った草原だった。


ここはどこだ?なんで意識がある?色々と疑問に思うことはあったが、とりあえず今は何も考えないことにした。


体の下にある柔らかな草、見上げた先の青い空、頬にあたる柔らかく温かい風。その全てがこの世のものとは思えないほどに美しく、気持ちよかった。


生きていた頃には経験したことのない感覚だった。横たわったままそれらをしばらく楽しんでいると、俺の頭の中にこんな考えが浮かんだ。


ひょっとしてここは天国なのではないだろうか。


もちろん、俺は善行をたくさん積んできたわけでもないただの怠け者だったが、特に凶悪犯罪を犯したわけでもない。


だから神様の温情で天国に送ってもらうことができたのかもしれない。


それかもしかすると両親に感謝の気持ちを持って毎回きちんと講義に出席していたのがよかったのかも。親孝行しててよかった〜!


また、よく考えてみると、ここの草や空、風がこの世のものとは思えないほど美しく、気持ちよいと感じたが、ここが天国ならそう感じたのも頷ける。


そんなこんなでここは天国であるというのが俺の中の結論になりつつあったのだが、一つ気になることがあった。


それは所々に虫がいるということと、そしてそれらがリアルすぎるということだ。そんなの大した問題じゃないじゃないかという人もいるかもしれないが、それらはまるで現実世界にいる虫のようだった。


天国の虫というのはこんなにリアルなのか?


そう考えると俺が横たわっている草原の草や遠くに見える森も現実世界のものとほとんど違いがないように思えてきた。


考える俺の周りを現実世界で見ていた気持ち悪さが健在の虫たちがぶんぶん飛び回っている。


俺はもしかしたらこれは現実であり、俺はどこか別の世界、異世界に来てしまったのではないかと考え始めていた。

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