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 下記の文章は勇一が坂本さんに告白するまでのドキドキ体験談だ。

 今朝、思い切って坂本さんの出席番号二十一番の下駄箱にオレの精一杯の手紙を入れた。

 これくらいのことしか思いつかない自分がかなり情けない。

 手紙を入れたからと安心してはいけない。

 来てくれるという保証などないのだから――。

 この日の学校の記憶はほとんど皆無だ。

 覚えているのは坂本さんが今日も元気で笑っていてオレが癒されたことと近頃お気に入りになったアニメのグッズが坂本さんの鞄にまた一つ増えていたことくらいだ。

 そのキーホルダー欲しいなと思いつつ、放課後を待った。

 放課後に投入してからのオレの行動は早かった。

 鞄を持つと一目散に屋上へと向かった。

 屋上に着くと誰もいなかった。

 オレは坂本さんが来てくれると信じながら待っていた。

  

 ――かなり待った。

 屋上に着いてから三十分も過ぎていた。

 やっぱりダメだったかと思いつつあと五分待って来ないなら諦めようと思った時だった。

 屋上の階段の方から誰かが走って来る音が聞こえる。

(坂本さん?)

 逸る気持ちを抑え、待った。

 急に足音が消えた。

 次にガチャッという音に続いてキーッと屋上のドアが開いた。

(き、来ター!)

 心臓が急速に動き出したことにも気付かずに『ごめんなさいっ! 遅くなちゃった……』という彼女、坂本さんに意を決して言った。

「坂本さんのこと好きです! 僕と付き合って下さいっ! クラス別れるの嫌なんでっ!」

 頭を深々と下げて言って良かったのだろうか?

 やっぱり坂本さんの顔を見るべきだった? と思いつつ、坂本さんの返事を待つオレだった。

 数分後、坂本さんはあっさりと言った。

「いいよ。石田君のこと気になってたしね。でも、高三のクラスって高二の時のクラスのままだよね?」

「えっ!」

 予想外のことにオレは呆然とした。

「本当だよ。先生この前話してたし……」

「先生の話聞いとくんだった……」

「寝てたもんね、その時」

「見てたの!」

「そりゃあ、見えるよ。前の席だったらね」

(前の席? ――一週間前に席替えして今の席になったんだよな? 確か……そうするとその前の席な訳だから……)

 考えているオレを見て坂本さんは言った。

「石田くんの前の席の一つ後ろの左斜めだったんだよ。覚えてない?」

「……あっ! うん、確かに――」

 オレは思い出していた。

 後ろの席じゃ坂本さん見えないじゃないか! と思っていた頃を。

 今の席は坂本さんの後ろの席で坂本さんがとっても近くに感じられて毎日がとても楽しいということまで思い出しそうになっていた。

「それにしても今時、下駄箱に手紙なんてありえないよ! 普通はメールとかで告白するもんでしょ?」

(うっ!)

 やっぱり、その話か……と思う気持ちとあまり突っ込んでほしくないという気持ちの中でオレはぼそぼそと言った。

「メ、メアド。メアドを知らなくてさ……知っていることと言ったら名前と出席番号くらいで……」

 ちらっと坂本さんを見るオレ。

 それに気付いたのか坂本さんが大きな声で言った。

「教えてあげるっ! 私のメアド!」

「あっ、ありがとう! ――それはうれしいんだけど……『石田くん』っていうのはちょっと……」

「じゃあ……う~ん……『勇一くん』は?」

「それでお願いしますっ!」

「わかった。ところで勇一くん……」

「何?」

「メアド教えるから勇一くんの携帯貸して!」

「え! ……はい、これ」

 オレはポケットに入っている携帯電話を坂本さんに渡した。

 坂本さんはオレの携帯電話に自分の電話番号とメールアドレスを入力した。

 その間オレは思った。

(もしかしなくとも押されてる? オレ……)

 どうしたら自分を出すことができるのか?と考えている時だった。

「ねえ、勇一くん……私のことこれから下の名前で呼んでくれる?」

 坂本さんがオレに尋ねてきた。オレは言った。

「いいの? みゆき……ちゃんって呼んでも……」

「うん! そう呼んで欲しいの。勇一くんに!」

 オレは一歩ずつだが確実にみゆきちゃんの虜になっていた。

「はい! これ」

 オレに携帯電話を返しながらみゆきちゃんは言った。

「ねえ、勇一くん。これって私が勇一くんの彼女になってからあげる最初のプレゼントだと思わない?」

「え? みゆきちゃん……ありがとう……そうだね! オレも何かみゆきちゃんに最初のプレゼントあげないとね!」

「じゃあ、私の携帯に勇一くんの手で勇一くんのメアドを入れて欲しいな……ダメ?」

「よっっ、喜んで入れるよ!」

「はい」

 みゆきちゃんは携帯電話をオレに渡した。

 オレは震える手でみゆきちゃんの携帯電話に自分の電話番号とメールアドレスを入れた。

「みゆきちゃん」

 オレはみゆきちゃんに携帯電話を返した。

「ありがとう! 勇一くん!」

 その時の夕日に映えるみゆきちゃんの満面の笑顔をオレは一生忘れまい! と誓うのだった。

 時計を見たみゆきちゃんは言った。

「えっ! もうこんな時間? 今日、部活があるんだっ! 早くいかなきゃっ! あっ、あとでメールするね! じゃあ、急ぐから! バイバイ!」

「バイバイ」

 みゆきちゃんが部室に向かってから数分が過ぎてもオレは屋上から動かなかった。

 動かなかったというよりも動けなかったのだ。

 初めての彼女のことで頭が一杯だったからだ。

 ようやく動けるようになると急いで家に帰った。

 その日の部活はサボったため、次の日の部活では勇一だけがペナルティーを追加されることになった。

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