十
五月に入り、ゴールデンウィークも終わろうとしていたある晴れた朝のことだった。
中学一年生になった双子の亜未、麻奈は母である友子に自分の部屋の掃除をするようにとゴールデンウィーク前に言われていたのを思い出した。
怒ると怖いママの怒りを買う前にそそくさと一緒に掃除を開始した――。
じゃんけんで勝った亜未の部屋から掃除することになった。
三十分もしないうちに亜未は手に乗せたはたきのバランスをとりながら本を整理整頓している麻奈に言った。
「お小遣いくらいくれても良いのにさ~」
「そうだよね、ママってケチケチだもんね」
麻奈が亜未に賛同した。
亜未は掃除を一時放棄し、何か考えているようだ。
その間、麻奈はせっせと掃除を続けた。数分後、亜未は麻奈に言った。
「お小遣いを増やす方法って何かないかな?」
麻奈は少し黙った後、こう言った。
「ママに言われていない所もお掃除すれば少しはくれるかもしれないよ」
「そうだよ! ……滅多にやらない書斎もやったらお小遣いアップかも!」
その時、双子は淡い期待でいっぱいだった。
手始めに自分達の部屋を完璧にすることに決めた。
亜未と麻奈は考えた。
どうしたら、早く終わるのかと。
そして、見事なシンクロで言った。
「分担してやれば、早く終わるよね! そんでもって、歌とか歌っちゃうの!」
お互いの目を見つめ合い、大きく頷いた双子は、テレパシーを使っているかのように歌詞は多少違うが、同じメロディーで歌いながら掃除を再開した。
四十五分後、双子は自分たちの部屋をピカピカに仕上げた。
ニコニコしながら亜未と麻奈は言った。
「いざ! 書斎へ!」
はたきと掃除機を持った双子は、自分達の部屋を後にし、書斎へと向かったのであった――。
ご存知の通り、『書斎』とは、読書や書き物をするための部屋のことである。
石田家の書斎はほとんど使われていない。
書斎だけではない、他にもある。
石田家は使わない部屋数が多い。
部屋の間取りが悪いのだ。
優司と友子はそんな部屋を無駄にしまいと収納スペースとして使っている。
勇一や双子に『無駄な部屋ばっかじゃん』と文句を言われると、優司と友子は、すぐさま、『もし、急に誰かが泊まりたいと言っても大丈夫なんだから』と返答するのがお決まりだった。
そんな書斎にやって来た亜未と麻奈は自分達の部屋掃除で歌った歌の二番を歌いながら事前に決めておいた分担場所の掃除を始めたのであった――。
勇一は自分の部屋でうろうろしながらイライラしていた。
双子の部屋から変な歌詞の歌が聞こえなくなったと思ったら、今度は書斎から変な歌が聞こえるではないか。
(亜未と麻奈か? ……こっちは『渡辺と鈴木の仲直り作戦』を考えないといけなくなっちまったんだぞ! 誰だよ、『友情は大切だもんね!』なんて言って、『まかせなよっ! 俺が何とかするからさ!』なんて二枚目なこと言って、『ゴメンネ、勇一くん……ほら、香織も謝りなよ』というみゆきちゃんに『謝ることはないよ。悪いのはあいつらなんだから』と言ってしまい、『そうだよねぇ、全て、渡辺が悪いんだよ!』と言う関さんに否定できなかった最悪な友人、ワイ・アイ……は誰だ? 俺だ! この俺だ……)
「はぁ~」
せっかくのゴールデンウィークなのにこの作戦ができるまではみゆきちゃんと会うことはできない。
「くっそ~! どうすれば良いんだ!」
考え込む勇一の耳に亜未の変な歌が届いた。
亜未は自分の分担場所の掃除の仕方とお小遣いアップについて歌っているらしい。
「♪ 床は~てきとーに~そぉーじきで~ほこりを吸いましょう♪ おっと! その前に~はたーきでほこりを落としましょ~♪ てきとーにやっとけば~お小遣いーアップかなー♪ かっくじつに~アップするのはーテストで~良い点~とることよ~♪ にぃは~ダッメダメ~♪ 普通だから~♪ 平均並み~♪」
この歌を聞いて勇一は思った。
(どんだけ金に執着してんだよ、あいつ……テストで良い点って……それで金もらえるのかよ! 俺なんてまだ一度ももらったことないぞ。だいたいな、テストっていうのは結果が全てじゃないんだ。理解しているかどうかが問題なんだ。例え、普通、平均並みだとしても良いんだ。勉強ができれば……みゆきちゃんと会える日々だったな……勉強。……勉強か……勉強会と偽って仲直りさせちまおうかな――そうか!……そうだ!……良し! この作戦を早くみゆきちゃんに伝えなければ!)
早速、メールを打ち始める勇一。
(……この作戦でいけば、絶対、みゆきちゃんに会える!……よし! できた! ……送信!)
達成感、期待感一杯のこの一通のメールが勇一の運命を変えることになるのであった――。
勇一がみゆきちゃんにメールを送信している頃、書斎では、亜未がぼーっと窓を眺め、麻奈が本棚の掃除をしていた。
そして、麻奈はある物を見つけた。
「ねえ、ねえ。あみちゃん、あみちゃん! 見て、見て! これ!」
麻奈の指の先にはキラッと輝くある物があった。
「何? それ」
亜未は興味を持ったようだ。
「鍵だよ。この百科事典の後ろにあったみたい」
麻奈はその鍵を手に取った。
「どこの部屋の鍵だろうね?」
亜未は鍵を見つめたまま言った。
「ママに訊いてみようか?」
「うん。でも、この書斎を完璧にしてからね!」
「やっぱり?」
亜未は顔に苦笑いを浮かべた。
麻奈はにっこり笑いながら亜未に掃除機を渡した。
十五分後、双子は掃除を完璧に終わらせ、麻奈の見つけた鍵の正体を探す冒険に出発したのであった。




