出会いと選択
俺は生徒会室へ来た。
いや、来させられた。
「それで話ってなんですか?」
「あなた、一学期のほとんど学校へ来ていなかったでしょう。」
「ええ、まあ。」
「あなた、このままだと進級もおろか進学することも難しくなるわよ。」
「まあ、はい。」
それはわかっていた。理解していたことである。
「そこで、あなたにチャンスを与えます。私が提示する条件を満たすことができれば、あなたを進級させてあげます。」
「なんですか、その条件って。ていうか、そもそもそんな権限、生徒会長にあるんですか?」
俺は、単純に疑問に思った。
「あるわよ。生徒会長だもの。」
いや、ないだろ普通。
「まあいいわ。とりあえず私のチャンスを受け入れる?それとも受け入れない?」
「いや、条件の内容次第じゃないですか。」
「いえ。まず私の質問に答えなさい。」
自分に都合よすぎだろ。
「じゃあ、受け入れます。」
俺は仕方なく、その条件を受け入れることを受け入れた。
「そう。では条件の内容について。」
俺は息を呑む。
「ある部活をつぶしてほしいの。」
「は?」
その意味をすぐに理解することはできなかった。
ある部活をつぶす。
それが俺が進級する権限を得るための必要な条件であった。
「どういうことですか?」
「ある部活をつぶしてほしいの。その部活がとても目障りでね。部員数が一人なのにもかかわらず活動していて、あまつさえ、教室一つを占拠している状態なの。」
「なんで俺に頼むんですか。生徒一人を進級させられる権限があるんだったら、部活一つを活動停止にするくらい簡単じゃないですか?」
俺は生徒会長に尋ねた。
「まあ、私にかかればそんなことは朝飯前ね。でもできないの。」
「なんでできないんですか?」
「それは私の名に傷がつくからよ。たった一人で健気に活動している部をつぶすなんてかわいそうとか生徒会長って器小さくないとか、風評被害を受ける可能性があるもの。そしたら、私の来年の生徒会選挙に悪影響をもたらすわ。そこで、あなたにその部をつぶしてほしいの。」
俺が風評被害を受ける分にはいいのかよ。
「で、具体的には何をすればいいんですか?」
「そんなこと、あなた自身が考えなさい。人は考えることをやめたら、人じゃなくなるもの。」
何を言っているんだこの人は。
「そんなこといきなりやれって言われても無理ですよ。何か方法があるなら別ですけど。」
「そうねえ。その部の悪評を流すとか、二度と活動できないようにするとか。まあそんなところね。何をするかはあなた自身で考えなさい。」
「はあ。それでその部活の名前って何ですか?」
「その部活の名前は、恋愛禁止漫画研究部よ。それと、私と話すときは敬語じゃなくていいわよ、私、あなたと同じ一年生だから。」
彼女がそう言ったのと同時に、授業終わりにチャイムが鳴った。