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序章 二話 「君に名前を覚えられているとは」

 一日ぶりですね。

 なんか休日が休日じゃない凪白です。


前回のあらすじ

 映画見に行く。

 ナンパ男からクラスメイトの美少女助ける。

 キョドる。←今ここ


「大丈夫?」

 よし言えた!言ってやったぞ!

 学校のアイドルといっても過言ではない天原さんを、強引なナンパ男から助けた僕は、そう声をかけていた。


「あ、はい、助けてくれて有り難うございます!」

「いえいえ」


 よし、ここまでの会話(時間にして約8秒)は完璧だ。このままの流れで……


「えっと、同じクラスの、氷雨くん……ですよね?」

「!」

 え?

 スクールカースト最上位、学校一の美少女で超絶有名人超絶人気者な天原さんが僕ごときの名前を覚えてたってこと?


「え、ち、違いましたか!?」

「あ、ううん。あってます」

「ならよかったです…」


 驚愕で固まる僕に、天原さんはそう声をかける。

 そして訪れる沈黙……。

 さようなら、順調な僕。おかえり、窮地(ピンチ)の僕…

 あはははは、と乾いた笑みを内心浮かべた僕は、あることに気がついた。天原さんの腕に、傷が付いてる。


「……ん」

 多分、茶髪男君が嵌めていたゴツゴツした指輪が、天原さんの腕を掴んだときに傷をつけたんだろう。


「?」

 きょとん、とした端正な顔を僕に向けてくる天原さん。


「傷」

「きず?」

「うん。腕に傷」

「腕に傷…あ。いたっ…」


 天原さんは自分の腕の傷に気がついていなかったようである。そこまで大きな傷ではないが、触れると痛むらしい。


「触るのは駄目です。待ってて」

「あ、はい…」


 取り敢えず、よろしくない菌が入ってしまうとよろしくないことになるので、傷を塞ごう。

 ちょうど絆創膏は切らしてしまっているため、僕は肩掛け鞄の中から予備のハンカチを取り出す。

「失礼します」

 手早く天原さんの腕にハンカチを巻き付けていく。応急処置法を勉強していて良かった。


「有難うございます…何から何まで」

「当たり前のことをしたまでです」

「いえ、そんなことはありません。…にしても、同級生なのだから、敬語はやめてくれませんか?」

「それは天原さんもです」

「言われてみれば…そうですね」


 え、気づいていなかったの?と思いながらも、ハンカチを巻き終えた。


「改めて…本当に、ありがとう、氷雨くん」

「どうも」


 あまり人に感謝されるようなことをしない人間なので、面と向かってありがとうと言われるとどう返していいか分からず、素っ気ない返事になってしまった。


「絶対に、いつかお礼するからね」

「そこまでしなくていいのに」

「そんなことないよ、氷雨くんがいなかったら、今頃私はあの男の人に何処かに連れていかれちゃってたと思うし…」


 違うよ、とも、そうだね、とも言えず、黙りこんでしまう僕。コミュニケーション能力の無さが存分に発揮されてしまった。


「ともかく、こんなこともあったし早く帰るべき。親御さんも心配する」


 どうにか沈黙を回避しようと、ぶっきらぼうになりながらもそう言えた。実際、このまま一人この辺りにいれば、さっきの輩にまた絡まれることになるのは、想像に難く無いからね。


「そ、そうだね、早く帰らなきゃ」


 僕の言葉に天原さんは頷いたものの、なかなか動こうとしない。それどころか、僕のほうをちらちら見ているように感じる。なんだろう?


「どうかした?」

「あっ!いや、その、だ、大丈夫だから!」

 いや、説得力皆無ですから。どう見ても挙動不審ですから、あなた━━━━ん?


「送ってく」

「ひゃ、ひゃい!?」

 可愛らしく噛みながら、天原さんは驚く。

「天原さんを家まで送ってく」


 そう、とても不安なのだと思う。見ず知らずの男性にいきなりナンパされ、誘拐されかけたのだから、恐怖心を抱いて一人になることに不安を覚えることに、何ら不思議はない。

 まあ、頼る相手が僕だというのは微妙だけど。天原さんは僕のことをほぼ知らないから、善人かどうかなんて分からないのに。

 まあ、それは置いといて。


「え、でもいいの?予定とか…」

「大丈夫」


 実際にはそろそろ映画が始まる頃合いなので大丈夫ではないが、ここで天原さんになにか起こってしまうことのほうが大丈夫ではない。そのくらいの判断は僕にだってできる。

 映画は後でテレビを待てばいいのに対し、天原さんのほうは取り返しがつかない問題になることは、火を見るより明らかだからね。

 天原さんも本心では僕に同行を頼みたかったのだろうけど、予定があったら悪いと思って言い淀んでいたのだと思う。


「えっと、じゃあ、お願いしてもいいかな?」

「うん。家、どこ?」

「神沢駅から10分くらいのところなんだけど…」

「なら僕も一緒の方向だから気にしないで」

「うん!」


 満面の笑みを浮かべる天原さん。この人が酷い目に遭わなくて良かった、などと思わせるような笑顔だった。

 天原さんと僕は、ショッピングモールの最寄り駅へと歩き出す。


「あれ、そういえば、警備員さんは?呼んだって言ってなかったっけ…」

 はた、と立ち止まった天原さんが僕にそう訪ねた。


「あぁ、あれはブラフだよ」

「ぶらふ?」

「うん。フェイクってこと。要するに嘘」

「う……」

 “そ”、の文字は無声音で発せられた。


「ああいう悪いことするようなやつは警備員さんとかお巡りさんを必要以上に怖がるから」

「へぇ…、あ、じゃあ暴行罪の量刑のやつは?あの、何年以下の懲役とか」

「あれはネットの受け売り。小学生の頃、喧嘩とか弱いから知識だけは知っておこうと思って調べた」

「へえ……そうなんだ…………」


 何故か天原さんは若干引き気味の顔をしているけど……まあ、いっか。

 そして僕たちは、再び歩き出した。

 楽しんでいただけましたでしょうか?

 次回更新は木曜日です。

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