CAR LOVE LETTER 「Cabbage princess」
車と人が織り成すストーリー。車は工業製品だけれども、ただの機械ではない。
貴方も、そんな感覚を持ったことはありませんか?
そんな感覚を「CAR LOVE LETTER」と呼び、短編で綴りたいと思います。
<Theme:DAIHATSU HIJET(S110P)>
この間学校で、初めて性教育の時間があった。
小さい頃には、赤ちゃんはコウノトリが運んで来るとか、キャベツの中から産まれるなんて言い聞かせられてきたから、性教育なんて言われると、ちょっとリアルな感じよね。
私達も、そういう年齢になったって事かな。
男子なんか浮足立ってそわそわにやにやしてさ、いやらしいったらない。
と言いつつも、私達女子も興味が無い訳でもない。やっぱりちょっとそわそわしてたと思うのよね。
授業の内容は、一番気になる行為の仕方の話はあったけど、それにまつわる病気の話や、妊娠や避妊の話、次第に生物の授業みたいになって来たなと思ったら、今度は愛するとは何だ、って話になって、単に思春期の中学生が注目している話ばかりじゃなく、凄く考えさせられ、為になるものだった。
うちの学校の保健の先生は、そういう学会とか講演会とか、テレビにもよく出ている人で、この先生の授業を身近に受けられるのは、実は得な事だなと感じる。
私もいつか愛する人の子を授かるのかな、それがサッカー部のあの先輩だったらいいなぁなんて親友と話しながら帰り道を歩いていると、そう言えば私が産まれた時ってどんなだったんだろう?と気になり始めた。
その晩、妹がお風呂に入ったタイミングを見計らって、食器の片付けをしているお母さんに「ねぇ、私が産まれた時ってどんなだったの?」と聞いてみた。
「なぁに?突然。」少し驚いた顔でお母さんは答える。
「いいじゃん、知りたくなったんだもん。」
「そっか、話してなかったっけ。あんたが産まれた時は、そりゃ大変だったんだから。」と思い出し笑いをしながらお母さんは最後の食器を片付けた。
私が産まれる少し前からお母さんは実家に帰り、里帰り出産することにしたそうだ。
初めての出産だし、お父さんの帰りも毎日遅いからそうしたらしい。
お母さんの地元は凄い田舎で、お爺ちゃんは農家をやっている。
小学生の頃は、夏休みによくお爺ちゃんの家に遊びに行った。
私はお爺ちゃんのハイゼットって軽トラックの荷台に乗るのが大好きで、荷台に乗って畑のトマトやキュウリを採りに行くのが楽しみだった。
私が産まれる頃は、キャベツの収穫で大忙しだったみたいで、お爺ちゃんもお婆ちゃんも伯父さん伯母さんも、みーんな畑に出ちゃってて、誰もお母さんの相手をしてくれなかったんだって。
「あれじゃ自宅にいるのと変わらなかったわよ。」不満そうな顔でお母さんが呟く。
その内キャベツの収穫がピークを迎えると、何とお母さんまで作業に駆り出されたんだって!
流石に畑仕事は出来ないので、納屋でキャベツの箱詰めをしてたんだってさ。
「それだって臨月の妊婦がする様な作業じゃなかったわよぉ。」お母さんは眉間にしわを寄せ、更に不満そうな顔をしてお茶をすすった。
私の誕生日、やっぱりみんな畑仕事に出かけてしまったんだって。お母さんも納屋で一人でキャベツの箱詰めをしてたらしいんだけど、その日は朝から何だかお腹が張って仕方なかったんだって。
でもみんな朝早くからバタバタしてて、何かそういうのを言える様な空気じゃなかったみたい。
お母さんはお腹の張りを気にしながら作業を続け、人の頭よりも大きな大玉のキャベツを持ち上げようとした時に、お腹に物凄い痛みが走ったんだって!!
うずくまって体を丸めて痛みに耐えていると、太股辺りに生暖かいものを感じたんだって。
産まれる・・・!直感的に悟ったお母さんは、床をはって壁をつたって、やっとの思いで納屋の外に出て、お爺ちゃん達に助けを求めようとしたらしい。
でもお爺ちゃん達は、畑のずーっと向こうの方で作業してて、息も絶えだえのお母さんの声は全く届かなかったみたい。
「もうダメ、と思った時に、偶然駐在さんが通りかかって、お爺ちゃん達に知らせてくれたのよ。」
お爺ちゃん達は畑から、それこそ飛んで戻って来たんだって。
お爺ちゃんは救急車を呼ぼうとしたらしいんだけど、お母さんの状態を見たお婆ちゃんが、「救急車を待ってたら手遅れになる!お父さん、トラックで!」と、お母さんをお爺ちゃんのハイゼットの荷台に乗せたんだって!
駐在さんも助手席に乗ってくれて、荷台にはお母さんとお婆ちゃんとキャベツを乗せて、お爺ちゃんは街の診療所にハイゼットを走らせたんだって。
一刻を争う状況に反して、街の道路は混んでいて、流れが悪かったみたい。
お爺ちゃんよりもその渋滞に焦れた駐在さんが「赤ちゃんが産まれそうなんです!!」と助手席の窓から身を乗り出して大声で叫んでくれたんだって。
すると車が路肩にスルスルと寄ってくれて、道を譲ってくれたんだって!
「あの時は、嬉しいのと苦しいのとゴチャゴチャで、涙が止まらなかったわよ。」
診療所に着くと、お医者さんが玄関で待っていてくれたらしい。伯父さんが電話で連絡してくれてたそうだ。
荷台のお母さんを見た先生は、とんでもない事を言ったんだって。
「もう間に合わない。ここで出す!お湯とタオルをじゃんじゃん持って来るんだ!」
その時、もう私の頭は半分位出てしまっていたんだって。
看護師さん達が走りまわって、お産の道具や薬なんかを診療所の外に運んで来たり、近所の人達が自宅からタオルやお湯を持って来てくれたり、中にはシーツを広げてお母さんを隠してくれる人もいたり、街のみんながお母さんのお産、私の出生を助けてくれたんだって。
「ガンバレ!もう少しだ!」「はい、ヒッヒッフ〜!」
みんなの声援を受け、お母さんが強くいきんだ時に、「オギャー!って、ホントに大きな声をあげて、あんたが産まれて来てくれたのよ。」
私が産まれた瞬間、街のみんなから歓声が上がったんだって。
駐在さんなんて、大泣きしてたんだってさ!
私はお爺ちゃんのハイゼットの荷台で、キャベツの上で産まれたんだって。
だからお爺ちゃんが、「春の菜っぱの子で、春菜と名付けよう!」って言ってたらしいけど、お産を思い出しちゃうからイヤって、お母さんは強く拒否したんだって。
意外とカワイイ名前なのに・・・。
私の出生にそんなエピソードがあったなんて。何か凄い!
でも、妹には知られたくないと思って、「妹にはこの話しないでね!」と言うと、「あら、あんた覚えてないの?あの子が産まれた時も、そりゃ大変だったのよ!」とお母さんは言った。
妹も?!
その時、「ふ〜、いい湯だった。」と妹がお風呂から出てきた。
私とお母さんは顔を見あって、ぷっと吹き出してしまった。
私がお爺ちゃんのハイゼットの荷台が好きなのは、私の出生が理由なのかも知れない。
今度の休みは、お爺ちゃんの家に遊びに行きたいな。
今日お父さんが帰ってきたら、お願いしてみようと思う。