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狼の子と猫の子のアルフライラ  作者: 日崎アユム
第3夜 100万金貨《ディナール》の超高級奴隷

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第4話 ただの絨毯商人さっ!

 ギョクハンはジーライルを睨んだ。ジーライルは「嫌だなぁ、そんな怖い顔しないでおくれよ」と言って手を振った。笑顔のままで、だ。


「お前、何者だ?」


 ジーライルが肩をすくめる。


「ただの絨毯商人さっ!」

「嘘つくな」


 腰の弓に手を伸ばした。ジーライルが「あー待って! 待って待ってそれだけは待って!」と大きな声を出す。


「僕の来歴はさんざん喋ったじゃないか!」


 今度はファルザードが「そう言うけどさ」と顔をしかめる。


「僕、ずっと、気になってたんだよね。ジーライル、いろいろ教えてくれるけど、全部この一、二年の話だな、って。ジーライルの身元に関すること、僕が訊いてからでしょう? ジョルファ人で、ジョルファ正教徒――そのほかには何にも分からない」


 あれだけ喋っていたファルザードがそう言うのならなおのこと怪しい。


 とはいえジーライルは丸腰だ。素手でも大の男を殺せる力と技術を持っていることが分かったので油断はできないが、馬上にいる自分たちを簡単にどうこうできるとは思わない。


「話をしよう。僕の話を聞いておくれ」


 ギョクハンは「聞いてやろうじゃねーか」と答えた。


「お前、盗賊団の一味じゃないんだな」


 ジーライルが頷く。


「僕はある方に頼まれて盗賊団の動きを探っていたんだ。今回の盗賊団がどうこうという話じゃない、盗賊というもの一般の取り締まり、治安維持とでも言ったらいいかな? そのある方というのが帝国の立場のあるお方でね、帝国全体の治安がものすごく悪化していることを懸念なさっている」

「やっぱりただの商人じゃないんじゃないか」

「あー商人なのは本当。本当だよ。副業として密偵のようなことをしている。普段は本当に絨毯商人だ」


 哀れっぽく「信じておくれよ」と言う声はやはり胡散臭い。どこまで本当か分からない。


「ただの絨毯商人がそんなに強いのか……?」


 それについてはファルザードが答えた。


「だって、ジョルファ商人だもん。武術で盗賊くらい殺すよ。独力で商品を守るために戦闘能力を磨く武装商人の民だよ」


 その説明を受けてジーライルが「そういうワケ」と微笑む。


「北方の高山地帯で心肺を鍛えて、山の街道沿いに現れる敵を格闘術で殺す――それがジョルファ人なんだよ」


 ギョクハンは納得して頷いた。戦士であり兵士であるギョクハンは経済に疎いので知らなかったが、その筋ではきっと有名なのだ。


「ある方、というのは?」

「それは、今は言えない」


 そしていたずらそうに笑って「あとで教えてあげてもいい」と続ける。


「帝国の、立場のあるお方だ。帝都にとても大きなお屋敷を持っていて、皇帝スルタンに口利きもできる。君たちが何のためにヒザーナを目指しているのかは知らないけど、仲良くしておいて損はないんじゃない?」


 思わず唸ってしまった。ザイナブの手紙が読めなくなってしまったことを思い出したのだ。ハサンの奴隷であることを証明できない今の状態では皇帝スルタンに近づける自信がない。


「ほらほら、僕と仲良くしたくなーる」


 ファルザードがこちらを見た。


「ジーライルの言うとおり、皇帝スルタンに近い立場の人と知り合えるのなら、多少の危険は取るべき――かな」

「危険だなんて! 僕は優しくて誠実なお兄さんだよ!」


 ギョクハンは、仕方なく、頷いた。


「で。仲良くって、具体的に何をすればいい?」


 ギョクハンに歩み寄ってきて「やったー」と言う。黒馬に手を伸ばし、馬の首を撫でる。ギョクハンは黙ってそれを受け入れた。


「まずは一緒にシャジャラに行こう。シャジャラには僕が案内する」

「まずは、って?」

「シャジャラを経由してヒザーナに行くんだ。連れていってあげるねっ! ただ、ヒザーナに行く前にシャジャラでしたいことがあるんだよね」


 そして人差し指を立てる。


「ギョクくん、君の腕をかって頼みたいことがある。ぜひとも助けてくれないかい? 君の力が必要なんだ」

「具体的に、何だ?」

「化け物退治さ」


 ファルザードが「化け物?」とまたたいた。ジーライルが明るい声で「妖怪とも悪い精霊ジンとも言われている」と答える。


「シャジャラにね、夜、出るんだ。夜な夜な街に出没しては物を盗ったり女性を拉致したりする。奪われたものは、けして帰ってこない」


 ギョクハンは顔をしかめた。


「それこそ、帝国軍とか、帝国の警吏の仕事なんじゃないのか?」

「化け物だからね。正体が分からないことには動けないんだよ」


 手綱を離し、馬上で腕組みをした。

 後押しするようにジーライルが「報酬は払う」と言う。


「今まで他にも何人かの腕利きに頼んできたんだけど誰も解決できない。それどころか、腕利きが死体で発見されたりなんかもしている。どうやら相手は鋭い爪を持っているようでね、胸を切り裂かれた状態で見つかるんだ。そういう人たちに払う予定だった報奨金をまるまるギョクくんに渡すよ」

「そんな危ないもの俺に押し付けようとしてるのかよ」

「ギョクくんほど強かったら何とかなるんじゃなーい?」


 ファルザードの方を見た。すぐに目が合った。


「ギョクなら何とかなるんじゃない? 強いし」

「お前までそんなこと言うのか?」


 ジーライルが「ほらほら」と煽る。


「シャジャラの化け物騒動を解決してくれたら、帝国のえっらーい人を紹介してあげるよー?」


 そう言われて、ギョクハンは、屈した。何せ、自分たちの力で皇帝スルタンに近づかなければならなくなってしまったのだ。


「分かった。お前とシャジャラに行く」


 両手を挙げて「やったー」と叫ぶ。


「そうと分かったら支度をしよう!」


 きびすを返し、天幕テントの方へ向かった。


「支度? 何をするんだ?」

「決まってるじゃないか」


 振り向き、親指と人差し指で輪を作る。


隊商キャラバンの荷物をまるまるいただくのさ。金、水、食料、そして、なんとなんと! 彼らが今まで強盗で手に入れてきた財宝も手に入っちゃう!」


 盗賊団よりよほど厄介な人間に捕まった気がしなくもない。


 だが、ギョクハンの第一目的は、皇帝スルタンに会ってザイナブの状況を説明することなのである。ジーライルが帝国の中央部に人脈があるというのなら、ザイナブのためにジーライルに従わなければならないのだ。


「……しょうがないよ」


 ファルザードが溜息をついた。


「信じるしかないよ。どのみち僕らにはどうしようもないじゃない?」


 ギョクハンは頷いた。


 日が完全に沈み切る前にジーライルはらくだの背に荷物を全部のせた。そしてすべてのらくだを一本の縄につなぎ、器用にも一列にして歩かせ始めた。本当に隊商キャラバンの財産を全部いただくつもりらしい。こんなにしたたかな人間と知り合うのは初めてだ。先が思いやられる。




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