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壊されたモノ修復します  作者: 高瀬あずみ
第二章 廃墟の町
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「せっかく辿り着いたのに……」


 わずか十日ばかりとはいえ、歩いて辿り着いた町は廃墟となっていた。

 木造の建物の多かったソラス村とは違い、石造りの家が多かったせいか、家々の土台はしっかりと残っている。燃えたというより破壊された、という印象を受ける。おそらくソラス村よりも先に、魔王軍に蹂躙されたのだろう。


「誰かいませんかー?」

 人の気配を感じないかつての町の入り口で、辺りを窺うように声をかけるが、どこからも返事はない。死体も見つからないことから住人は避難済みだったと思われる。

「逃げるの、間に合ったんなら良かった」


 ミリアの村で住民だけは無事に避難できたのは、戦場になる可能性があると、知らせてくれた人がいたからだ。ただその人が勇者一行の一人だったことに複雑な気持ちになる。その人が村を焼いたわけではなかったが、知らせたから、人がいないから、壊していいわけではない。もやもやした心中のまま、ミリアは町に足を踏み入れた。



 アイテムボックスの中に余裕はあるとはいえ、追加できる水が欲しいと、ミリアは井戸を探す。村にひとつしか井戸のなかった故郷と違い、この町はいくつかの区画に分かれ、それぞれに井戸があることを行商人に聞いたことがあった。荒野のこちら側は水源が豊かなようだ。


 自分の村でもないので、ミリアは道を塞ぐ瓦礫を除けることなく踏み越えていく。時折、瓦礫の山が足元で崩れ、転ばないように必死に歩いた。正直、荒野を歩く方が楽だったほどだ。

 井戸は村と違って目立つ場所にあるのではなく、家の裏側にあると聞いた記憶に従って、最初の区画の裏手を目指した。家の土台に囲まれるようにぽっかりと空き地があり、そこに井戸が残っているのを発見した。ただ井戸があるだけではない。

「釣瓶がある!」


 そこにあったのは木製の滑車付きの釣瓶。井戸を覆う屋根は半分ほど崩れており、滑車を通る縄は火が出たのか燃え残りしかなかった。だがその状態ならば修復できるミリアにとっては何の問題もない。

 屋根のない井戸の中を覗き込む。見て把握しないとアイテムボックス活用ができないからだ。


 次の瞬間、ミリアの額に硬いものがぶつかって、井戸の横に尻もちをついた。

「いたいっ!」

 額を抑えてミリアは蹲る。

「誰だ、てめぇはっ!」

 久々に聞いた自分以外の声を発した人物をミリアは涙目で見上げた。



 井戸から飛び出してきたのは全体に薄汚れた印象の少年だった。年はミリアより少し上だろうか。右手で痛そうに頭をさすっているので、おそらく頭突きされたのだろう。


(なんで井戸の中なんかにいるの!? なんでいきなり頭突きされなきゃなんないの!?)

 驚きすぎて声も出ないが、頭の中が疑問でいっぱいだ。


「なんだ、ガキか。お前ひとりか?」

 声変わりもまだな高い声がミリアの両手を掴んで動きを阻んだ。

(そっちだってガキじゃないの!)

 この状態で下手なことを口走るのは危険だと判断したミリアは、ただ頷く。


「女か。こ綺麗なわりに貧乏くさい恰好だな」

「なんですって!?」

 こちとら限られた材料で工夫しておしゃれしているのだ。貧乏くさいとは何だ、貧乏だけど!

 思わず睨みつけたミリアを少年は鼻で笑った。

「喋れるんじゃねえか」

「そっちの方がよっぽど貧乏くさいじゃないのっ!」

 身なりをけなされた怒りのままミリアが食って掛かると、少年は呆れたように呟く。

「お前、怒るのそこかよ」

 頭突きとか両手を掴まれたこととか、他に怒るべきポイントがあったことにようやくミリアは気が付いた。



 なんとなく両者が微妙な表情になり、生まれた沈黙を振り払うように少年が手を離した。

「オレの方が強いんだから暴れんなよ?」

 両手を腰にあてて、偉そうに見下ろす少年だったが、


 ぐーきゅるきゅるきゅる


 大きく鳴った腹の虫がせっかくの彼の威嚇を台無しにした。

「いや、これは、その、あの、だな」

 慌てる少年が哀れになり、ミリアは背嚢に手を入れるふりして取り出した糧食を彼に渡した。



「すまん、悪かった。お前いい奴だな」

 ミリアでは歯が立たない糧食をばりばりと短時間で食べつくした少年は、やけに人なつっこい顔で笑う。

「オレはピートだ。多分、十一歳」

「ミリア。十歳」

 オレの方が上だと単純に喜んでみせるピートは、食べ物効果かすっかり気を許した風に見えた。そこでミリアは情報収集を開始することにした。

「ねえピート。ピートはこの町の人でしょう? 一緒に避難しなかったの? 他にまだ誰かいるの?」

 他にも生き残りがいれば、何らかの交換ができるかもしれない。情報でも金銭でも食料でも。



「この町には住んでたけど、置いていかれた」

「ええっ!?」


 あっさりとピートが語ったことによると、彼は旅人が残した捨て子だったらしい。一応、神殿に引き取られたが、少し大きくなると働きに出されたそうだ。あちこちで下働きをして食いつないでいたとか。


「あの日、オレは裏の山で山菜採りに行かされてたんだ。夕方戻ったら町には誰もいなくてさ。んで、とりあえず神殿に帰ったんだけど落ち着かなくて。夜、井戸に水飲みに来たら魔王軍が町を壊しながら通ってった」


「そ、そうなんだ」

 あっさり語る内容では到底ない気がするが、相槌を打つしかミリアにはできなかった。

「どうやって無事でいられたの?」

 見渡す限り瓦礫の山となった町には無事な建物も残っていない。

「ん、さっきみたいに井戸の中で手と足をつっぱって隠れてた」

「よく落ちなかったねえ……」

 ここの井戸はそれほど大きくないからできたことだろうが、自分ならすぐに落ちたに違いないとミリアはピートの強靭さに感心した。

「ああ、この井戸の内側、けっこうデコボコしててつかまりやすいんだ。でも火のついた石みたいなのが投げられて釣瓶のロープが燃えちまってさ。他に方法ねえから、さっきも水のあるとこまで降りて水汲んでたんだ」

 言われてみると、ピートの首から水筒がぶら下がっている。

「町の人を追っかけようと思わなかったの? どっちに行ったかくらい分からなかった?」

「荷車の轍が残ってたから、西の町に向かったんだと思う。でもオレが追っかけて行っても誰も喜ばねえし」

「だからって、ここにいたって水はなんとかなっても食べ物とか困るでしょ?」

 現に、先ほど盛大に腹を鳴らしていたくらいだ。町の人はそのうち帰ってくるかもしれないが、それまで生き延びられるとは思えない。


「まあそうなんだけど。でもオレはここを離れられねえし」


やっと会話のできる相手が。

でもすみません、相棒じゃないです。

ボーイミーツガールでもないです。

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