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壊されたモノ修復します  作者: 高瀬あずみ
第一章 ソラス村
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 湯を使ってさっぱりしたのが良かったのか、久しぶりの肉に効果があったのか、翌朝ミリアはすっきりと目覚めた。ギリギリ早朝と言ってよい時間に起きられたのも、幸先が良いと思う。


 洗顔と朝食、後片付けを済ませると、ミリアは着替える。僅かな切れ端でも残っていれば修復が可能であった為、家に置いていた自分の衣類をある程度取り戻せていた。

 ただの村娘であった頃には気にならなかった自分の服装。暑さ寒ささえどうにかなればいい。元々、選べる数だってなかったのだ。

 だが、前世のゆりかは、普通におしゃれの好きな女の子だった。趣味はアクセサリー作り。故に、旅装の準備には意外に時間を食うことになる。


 肌着の上に、長袖のシャツと細目のレギンスに似たパンツを履く。ここまではミリアにも馴染みがある。膝上の長袖チュニックを着、その下に膝丈のスカートを重ねる。子供なのでウェストは絞らない。内側に沢山のポケットがある革のベスト。襟元に防寒を兼ねたスカーフを巻き、巾着型のポシェットを掛ける。ポシェットは財布や小物入り。あとは外套と着替えや少しの水や食料を入れた背嚢。アイテムボックスについては隠した方がいいのでカモフラージュ用だ。足元はミドル丈のブーツでレギンスを中に入れて履いた。


 村人の服装は、生成りが基本で、あとはせいぜい木の皮や草で染めた黄色や茶色が加わる程度。同系色でまとまっている、と言えば聞こえがいいが、地味なのは確か。

 目立つのはまずいが、おしゃれはしたい。そこで、こんな重ね着になったのだ。生成りのチュニックの裾からちら見えするスカートは黄色。襟元に巻いたスカーフもどきはその端切れを利用したもの。ベストとレギンスは茶色。これらは旅の間に手を加えていくつもりだ。


 ミリアの髪は、薄めのグレーベージュ。亜麻色と呼んでも許されるだろう。背の半ばまで伸びた髪は一本のゆるい三つ編みにしている。瞳は深緑。

 ただ、自分の顔ははっきり知らない。村には鏡がなかった。水鏡や、刃物や鍋などの金属に映ったのを見るくらい。両親や村人から可愛いと言われることもあったが、ただの贔屓目の可能性も高い。水鏡で見る限り、不器量ではないと思う。思いたい。


「鏡が欲しい……」

 前世の享年は15歳。鏡を覗き込むのは日常であり、一日に何度もチェックしていたのだ。しかしガラスですら村にはない。そしてガラスすら砂から作っている位の知識しかない。せめていつか磨いた金属板くらいは入手しようと妙に気合の入ったミリアであった。




 すっかり澄んだ井戸から追加で水を汲んだあと、すべてを収納したミリアは、井戸と端に瓦礫があるだけで何もなくなった村を眺める。

 魔王軍の脅威は去った。村人たちの一部もやがて帰ってきて村を復興しようとするだろう。ミリアがそこに加わりたいと希望すればおそらく拒絶されることもない。


「でももう無理なんだよね、あたしが」



 思い返してみれば、ミリアは村では異端だったのだ。前世を思い出す前から。


 村では誰も知らなかった読み書きと計算を偶に訪れる行商人に纏わりついて覚えた。本や紙(羊皮紙)すら縁のない村で。何故だか分からないが、知りたい、知らなければという気持ちが抑えられなかったから。しかもあまりに短時間で覚えてしまったことで行商人から養子の話が出たほどだ。ミリアが男の子だったら、行商人の養子になることも許されたかもしれない。だが女の数が多くない村では、年頃になれば嫁ぐことが決まっていた。


 相手は六つばかり年上で、好きか嫌いかと問われれば「嫌いではない」くらいの相手。悪い人間ではなかったし、優しくもしてもらったが、数年後に結婚すると決まっているのが苦しかった。


「おまえは何がしたい。何が不満なんだ?」

 そう両親にも村人にも言われたことがある。

 村も家族も村人も好きだ。大切だと思う。失いたくないと思う。それなのに、時折生きたまま死んでいくような、そんな気持ちが沸き上がって、子供らしくない表情で黙り込むしかなかった。

 ミリアはずっと閉塞感に苛まれていたのだ。はっきり思いださなくとも、前世が影響していたのかもしれないと、今になってミリアは知った。


 そして今、ミリアには異能がある。

 修復と鑑定と収納。

 知られれば村にとって便利な存在として扱われるだろう。

 だが、そこに自由はない。

 ミリアが自分で選ぶことは許されなくなる。


「だから、あたしは行くね」


 子供で女であることは代えられない。それによってこの先、望まぬ未来しかない可能性もある。自由が必ずしも幸福に繋がるわけでもない。それでも、ミリアはこの世界に生まれて初めて、心が解放されたように感じていた。


「向かうは、北」


 村人を避ける意味でも隣町は選べない。そしてミリアには北へ向かう口実もある。

 ミリアの母は村の出身ではなかった。どんな理由があって村に来たのかは生前にも教えてもらえなかったが、北方の街に残っている兄弟のことは話してくれた。

 村が滅ぼされたので母の実家を頼る。旅をするには自然な理由だ。実際に伯父たちに会えたとしても、受け入れて貰えるかはわからないし、信用できるかもわからない。だがアテのない旅より目的地がある方がいい。


 そして前世を思い出す以前から、何故かいつも北の方が気になっていた。何があるのか、誰がいるのかも知らない。ただぼんやりとだがずっと「行きたい」と思っていた。

 隣町への避難は、はじめて村から離れることでもあったが、何故か強く「違う」と感じた。すぐに村に戻った一因だったのかもしれない。


 魔王軍の攻撃は多くの街や国にも被害を及ぼしている。修復を必要とする人たちも多いだろう。どうやって関わっていくかはまだ分からないし決まってもいないけれど、知らなければ始まらない。知るためには行かなくてはいけない。


 そうして十年を過ごした村からひとりの少女が姿を消す。物語はここから始まる――。




これで第一章が終わりです。第一章そのものがプロローグ。

ようやく主人公以外の人が出せます。

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