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壊されたモノ修復します  作者: 高瀬あずみ
第一章 ソラス村
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 水の確保に振り回されて一日を潰したミリアだったが、夜になって努力も報われ、ようやくまともな食事にありついた。

 小麦粉と塩と油を発見したのだ。

 少し後ろめたいのは、発見場所が隣家の収納庫だったせい。


「これって火事場泥棒って言わない……?」

 だが背に腹は代えられない。心の中で謝罪しつつ、料理とも言えぬ料理をする。

 水を加えた小麦粉を練ってから切ったものを湯がき、塩のスープに投入するだけという「ほうとう」に似た何かだ。


「いただきます」

 椀に入れたスープの温かさがじわりと胃に届き、熱が身体中を巡っていくのが実感できた。

 先ほどの白湯しか今日は口にしていなかったミリアは、昨晩の芋と同じかそれ以上の熱意で椀の中身を攻略した。


 胃にものが入って身体が温まり、満たされたことでようやく頭もまわり始める。

 そうなると一人反省会の始まりだ。独り言は家族がいなくなってから増えたので、もう気にしない。場所はベッドの上だ。そのまま眠ってもいいように毛布をまきつける。



「さてミリアさん、本日の感想をお願いします」

「ただただ疲れました」

「そうですねえ。水の確保だけに終わりましたからね。ゆりかさんには意見がありますか?」


 ゆりかというのはミリアの前世の名前だ。記憶も人格も混ざり合ってしまったので、これはただのお遊びにすぎない。進行と合わせて一人三役、微妙に声音を変えてみる。


「はい、議長! 無駄が多いように感じました!」

「力も道具も知識もありませんから無理もないのですが」

「何か方法があるとは思います」

「ミリアさん、発言は挙手の後で。この中で一番知識のあるゆりかさん、どうですか?」

「はい、元の世界の知識……というよりは異世界転生ものの小説にならい、もっとアイテムボックスの良い使い方がありそうに思います!」

「具体的には?」

「ええっと、まずはですねえ……」

 一人三役反省会はミリアが眠ってしまうまで行われた。




 翌朝、またもや太陽に起床を促されたミリアは、顔を洗ってから沸かした白湯を二つのコップに入れた。一つはすぐに飲むため。もう一つはアイテムボックスに時間経過があるかどうかを確かめるためだ。


 その後、昨夜の会議(?)の際に思いついたことを実行するために井戸に向かう。蓋用のテーブルを片付け、井戸の中にと指定してアイテムボックスから投下した水瓶の様子を見る。水でいっぱいになったであろう水瓶が沈んでしまう前に再び収納。井戸の横で確認すると、水のたっぷり入った水瓶があらわれた。

 これで水汲みは随分楽になる。

 水自体も、一日たつことで幾分澄んできている。これなら濾過の手間も少なくなる。

 ミリアは村中を駆け回って水瓶を集め、同じようにして水で満たしていった。


「ステータス」


氏名:ミリア

種族:人間

性別:女

年齢:10歳

職業:修復師

レベル:10


基本スキル(転生者限定):鑑定、アイテムボックス


 昼になって、水の回収と食料探しをある程度済ませたあと、水で溶いた小麦粉と芋を焼いたもので食事にしながらステータスを呼び出した。

 他家の水瓶やら桶やらを含む小物類を続けざまに修復していたせいか、レベルは順調に上がっている。


「このレベルで大丈夫かなあ?」

 ミリアが不安になりつつ何度も目をやるのは空。明らかに雲が増えており、遠くの雲は黒い。そう遠くない時間に雨に降られるだろう。

 かつての自宅跡は、瓦礫が全て撤去され、柱や屋根や壁といったアイテムもパーツごとに修復してアイテムボックスの中だ。だが家そのものの修復は「レベルが足りません」で終わり。いずれは出来るようになるだろうが、それを待っていては間に合わない。


 すっかり更地になった自宅跡から離れてミリアが向かったのは元隣家……の納屋のあった場所だ。嵩張る農具や一部の収穫物、更には藁なども収容するため、小屋と呼べるサイズだ。一応、屋根もあり、壁で四方が覆われ、窓はなくとも扉もある。

 納屋の壁だったものに手を触れながら「修復」と呟くと、見覚えのある納屋が建っているのを強い眩暈が収まってから確認できた。


 さっそく、納屋を収納すると、自宅跡に出現させる。

 修復できたのは空っぽの納屋だけなので、ミリアは一番奥に自分の寝台を、その手前に自宅から修復した机と椅子を置く。子供用のベッドも、一人で使うための机もどちらもちいさめで、納屋はたちまち自室へと変身した。本来床は土のままであったが、修復した自宅の床板の一部を敷くことで解決する。


 問題は火だ。


 発見した蝋燭と燭台は修復できたので、元々そのために作られていた壁の窪みに置く。たいして明るいものではないが、窓もない暗い納屋の中ではありがたいものだ。ただし、獣脂で作った蝋燭なので匂いと煙がひどい。


 この建物はあくまでも納屋であり、火を使うための換気の用意などはなかった。

 そのため、外に竈を取り出して、慌てて煮炊きし、出来上がった順番にアイテムボックスに収納していく。朝の実験により、アイテムボックスが時間停止仕様であることも確認できていたからだ。


 村にあった家のどれもが、暖炉などという暖房に無縁だった。竈の火が唯一の暖房具を兼ねているのが普通だ。徐々に強くなる風にせかされるように作業を終えると竈も収納して納屋に飛び込む。今夜は明かり以外の火は諦めるしかない。扉を閉める寸前に、ぱらついた雨が顔にあたった。

 外に向かって開く扉には中から閉める鍵などもなく、ミリアは扉が隠れるよう棚を積み上げた。

 納屋を照らすのとは別に、他に見つけていた蝋燭を灯して机の上に置く。ゆらゆらと頼りない明かりの下、ほうとう風スープに芋と玉ねぎを加えた夕食を取る。蝋燭の匂いと煙は仕方ないと諦めた。十年、この灯りで暮らしてきた耐性がありがたかった。


 腹は満たされ身体も温まり、四方も天井も囲まれて、ここ数日来で一番落ち着ける状態にはなった。食事だって日々向上している。それなのにミリアは自分がたった一人であること、孤独という隙間風に気が付かないわけにはいかなくなった。

 まだ自分の家以外瓦礫ばかりの村は無人で、何かあっても助けてくれる人はいない。話しかけても答えてくれる人もいない。


(雨があがって、もう少し準備したら)

 できるだけ早くに人のいる場所に向かわねばならない。さすがに心までは修復できないだろう。

「こんな時はさっさと寝るに限る!」

 ベッドの上には数軒の家から集めて修復した毛布が山になっている。これだけあればベッドの固さも気にならなければ、寒さに震えることもない。

(明日になれば、雨があがっていますように)

 屋根に壁に叩きつけられる雨音から逃げるように、ミリアは毛布の中に潜り込んで固く目をつぶった。



本来のミリア(そしてゆりか)はのほほんマイペース娘です。

文明的にランプはどうしようと考えて、ひとまず村では蝋燭で。

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