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壊されたモノ修復します  作者: 高瀬あずみ
第一章 ソラス村
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 芋を食べ終わってしまうと、ミリアは急激な眠気に襲われた。

 それも仕方のないことだろう。たった1日で自分の村が失われるのを見て、前世を思い出し、貰った修復の能力を使ったのだから。


 修復の能力はミリアの体力や気力と引き換えに発動するようだ。休めば回復するとはいえ、まだ子供のミリアには負担が大きかった。

(寝る前にもう一回……。ステータス……)

 ステータスは声に出さなくとも見ることができるとも知った。


氏名:ミリア

種族:人間

性別:女

年齢:10歳

職業:修復師

レベル:3


基本スキル(転生者限定):鑑定、アイテムボックス


 瓦礫を避けながら目につくものを修復していったのも良かったのだろう。ミリアのレベルは3になっていた。そのおかげか、手に載るほどの大きさのものであれば修復しても眩暈がしなくなった。


(これなら、もしかして)


「鑑定」


名前:ミリアのベッドの足

材料:ブラウンオーク

樹齢:10年

使用年数:5年


「それじゃ、修復!」


 これまでとは比べ物にならない眩暈に、ミリアは崩れ落ちる。だが眩暈を感じるということはレベルが足りないわけではないということだ。しばらく歯を食いしばって耐えていると、何かが間近に表れる。


「あたしのベッド……!」


 今はほとんど村同様焼けてしまったが、かつて村の東には広葉樹であるオークの林があった。秋には美しく紅葉するオークは村人にとってもっとも親しみのある木であり、家や家具にも使われていた。

 樵を専用にする者もおり、家を建てる時は村の男衆も手伝って一斉に仕上げる。家具の場合はたいていがそれぞれの家で加工する。商品として出回るほどの手間も精度もない、ごく簡素なものであったが、使えればいいのだ。現にミリアのベッドは父の手作りであり、丸太を組み合わせただけのもの。だが今はそれが幸いした。


(多分だけど……)

 町で専門の大工が作ったような家具ならば、修復に必要なレベルがまだ足りないと直感が告げる。でも今のミリアに必要なのは、そんな見も知らぬ立派な家具ではない。


 端切れを見つけたことで修復できた毛布にくるまってベッドに横たわる。常ならば藁や木くずを敷いてから使うのだが、特に燃えやすかったであろう藁も木くずも見つけることはできなかった。それでも直接地面に横たわることを考えれば、多少固かろうと文句はない。何せ避難先の町に留まっていたら地面に寝ることは確実だったろう。馴染んだベッドと毛布はありがたかった。体温を奪われないうえに木の根や小石の痛みに悩むこともないのだから。


(明日はもう少し実験を兼ねて修復のレベルを上げよう。それから……)

 薪は小さなものだし、その周辺から燃えるものは撤去済みだ。朝までに消えるかもしれないが、延焼の危険はないだろう。野生の獣も、普段ならば警戒の対象だがここまで一面焼け野原になっていれば、生き延びたものもきっと少ない。

 ミリアが誰かと一緒にいたならば、見張り役をつけたかもしれない。だがまだ幼いミリアはすっかり疲れ切っており、警戒に考えが及ぶ前に眠りに落ちていた。




 ミリアが目覚めたのは翌朝早くのことだった。屋根のない場所では日差しを遮ることもできない。太陽に無理やり起こされたのだ。畑仕事をする村人たちならばもっと早起きするものだが、元来ミリアは朝が得意ではない。

(そこは前世と一緒かあ)


 バキバキと音のしそうな身体を伸ばしながら起き上がると、今日一日の予定を考える。

 いくら修復の能力を得たと言っても、それだけで生きていけるものではない。

「とりあえず、お水をなんとかしないと」



 ミリアが向かったのは村の共同の井戸があった場所だ。屋根替わりの蓋板は燃えてなくなっていたが、小石を落とすと水音がする。覗き込むと微かに水面が光って見えたが、残念ながらアイテムボックスに直接入れることはできないようだ。


 一番近くの家の納屋だった場所にあたりをつけ、取っ手付きの木桶とロープを修復して持ち出す。

「滑車とかポンプとか欲しい!」

 村には元からそんなものはなかった。皆、ロープを結んだ桶を投げ入れて水をくみ上げていたのだ。そしてもちろん、ミリアには滑車やポンプがどうやって作られるかも、実際に作るだけの知識も道具も能力もなかった。


「梃子の原理くらいはわかるけど……」

 分かっても周囲に使えそうなものは見つからない。諦めてロープを結んだ桶を井戸に投げ入れる。水が入った感触を得てロープを引き上げるのだが、水は重く、そしてミリアは小さかった。一度に汲める量は限られている。桶の底に少しだけ。しかもその水は濁っていてすぐに使うこともできない。それでも水は水。やはり近所の家から拝借した水桶をアイテムボックス頼りに移動させ、そこにためていく。


 その作業に午前中いっぱいをかけたミリアはフラフラだった。家族を失ってからは水汲みも自分だけでしなければならなかったが、普段ミリアひとりが使うくらいの量などたかが知れている。見かねた周囲が一杯くらいなら汲み上げてくれることもあった。だが今はミリア以外誰もいないのだ。

 これ以上井戸にごみや煤が入らないように、近所の家から修復したテーブルを移動させて蓋代わりにして、水桶をアイテムボックスにしまった。


「普通なら濁った井戸の水がきれいになるまで何日かかかるのよね?」

 水筒の中身などほとんど残っていない。水は早急に必要なのだ。

「でもたぶん、濾過は分かるし!」

 粘土と砂と小石と石……つぶやきながら家の周囲を掘り返す。一番困ったのは粘土だったが、大工仕事の得意だったおじさんの家から発見。漏斗に順に詰めて桶の上に乗せると、柄杓で掬った水を流していく。しばらくするとぽたんぽたんと水音がした。

「これって、もしかして果てしなく時間がかかる?」

 前世でのコーヒードリップを思い出すと答えは明らかだ。じりじりと小鍋一杯分の濾過した水を得るまでに、ミリアはすっかり疲れ果てていた。


「貰う能力、まちがっちゃったかなあ?」

 水魔法とか使えたら、あっという間に問題は解決しただろう。修復能力を選んだことに後悔はないが基礎能力に生活魔法が欲しかったとしみじみ思う。もしかしたらミリア以降に記憶を取り戻した転生者には鑑定とアイテムボックスのように無条件で付与されるかもしれない。しかし現状、ないものはないのだ。そして村での平穏だった頃ですら、魔法の魔の字もなかった。大きな街には魔術師もいるらしいが、貧しい村では魔法などなくともとりあえず生きていけていた。


「そういえば勇者パーティには魔術師がいたよね」

 どうやって魔術を発動していたのかすら分からないが、彼らは犠牲になった村からとうに離れている。残っていたとしても、ただの村娘のミリアを助けてくれたとは思えない。

「アテにできないもののことなんか考えてても仕方ないか」

 レベルが上がったことで修復できた竈に火をつけて小鍋に入れた水を沸かす。まだ熱い湯をふうふう冷ましながらコップを傾けると、ようやく飲めた水分が身体に染みわたっていくように思えた。今後もことを考えても、水はいくらでも必要だ。せめて汲んできた水の濾過と沸騰だけはやってしまわないと……。

 作業は夜まで続いた。


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