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壊されたモノ修復します  作者: 高瀬あずみ
第三章 北都パリアント(前)

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 翌日、昼食の後、約束した通りに神殿までグランが迎えに来てくれた。

 基本的にミリアが知りたいのは一般的な庶民クラスの物価であることは既に伝えてある。昨日の昼食もそれを配慮した屋台巡りだったのだろう。


 パリアントは北部から流れる川を懐に抱える都市で、そもそもは二つの川の合流地点である三角州が都市の始まりであったという。合流して一本となった川は大河となって流れ、やがて海へと達する。この大河に船が行き交い、交通と運輸を担う。そのため、南西には大掛かりな船の停泊所があった。都市の西側に被害が出たことで、停泊所は現在、最優先の復旧が急がれている。


 鉱山から得られる貴金属と、それを加工する技術が発達したパリアントは、貴金属と金属製品が街の産業の中心だ。遠く王都まで海を介して繋がり、北部有数の商業都市でもある。大河に沿った広大な穀倉地域も有する辺境伯領は国内でも有数の富の集積地となった。だが他国との国境を控え、幾度も侵攻を受けた歴史もある。


「そんなわけでな、北都では穀類だけでなく塩や海産物まで比較的安価で手に入る。街の郊外では牧畜も盛んで、昨日の串焼きに使われていたホーンローンもそこで育てておる」

 牛よりもあっさりとした食感のホーンローンの串焼きの味を思い出して、ミリアの顔はゆるむ。

 グランが都市の背景について話してくれたのは、それが庶民の財布に直結するからだ。おかげで都市の規模と人口のわりに、この街の物価は高くないそうだ。もちろんミリアの出身の村や近辺の町に比べれば高くなる。そのかわり、流通するものの品数は多い。


 ミリアが今日、連れてこられたのは、街の東南にある市場である。

「本当は西南の市場の方が庶民には利用しやすかったんじゃが」

 一部、瓦礫の中でも開いている店もあるらしいが、神殿からもミリアを崩壊した西部へ連れて行かないよう要請されているグランは、東南の市場を案内する。無事だった頃から、西南より東南がやや高級志向だったとか説明してくれる。

「さて、庶民が買い物をするとして優先度の高い物は何だと思うね?」

「えーと、あたしの感覚だとお塩と、、小麦か燕麦」

 砕けて構わないとお互いが主張した結果、丁寧語ははぶかれることになった。

「うむ。主食に関するからな。消費も多い。それでは今日は塩と小麦を買いに行くかの」


 ミリア自身にはこれまで金銭を利用した買い物の経験は昨日以外にない。そこで前世の感覚が強くなる。

(昨日の感じだと1バースがそのまま1円くらいかな。ゆりかがお昼に使ってたので500円くらいだったし)

 前世は月の小遣いが五千円で、お弁当のない日に渡されるがお昼代が五百円。バイトは長期休暇の時だけしかしない。部活で忙しかったからだ。そんな女子高生は、食材の買い物になど行かなかった。せいぜいコンビニでお菓子やジュースを買うくらい。塩や小麦粉の値段など知らない。母方の田舎から米が送られてきていたので当然、主食の米の値段も知らなかった。

 知らないものは知らないので、ミリアは正直にグランに申告する。村では物々交換だったと先に伝えていたので、それで納得してもらえた。

「小麦を挽いて小麦粉にしたものは主食のパンの主な材料だの。だいたい、一家族五人として、半月で二袋から三袋消費する。この袋の大きさは国で決まっておってな。価格は小麦の質や流通の状態で変わりおる。この都で取引される小麦のうち、もっとも庶民の口に入るものだと一袋が500バースくらいだと覚えておくとよいじゃろうな」


 グランと手を繋ぎながら歩く様子は祖父と孫のようだ。実際は師匠と弟子であるが、雰囲気もまったりしているので、周囲からは微笑ましく見られていた。

「塩は人が生きていくために大事なものよの。産地である海から遠くなれば値段も上がる。他国には岩塩というものが取れることもあるらしいが、この国では聞かんな。一度に沢山使うものではないが、無ければ料理されても食べられたものではない。こちらも袋の大きさが決まっておる。一袋で一家族半年はもつだろう。塩にも旨い塩不味い塩があって値段は変わる。こちらも最低のもので一袋500バースくらいかの」

 ミリアの本日の仕事は小麦粉と塩の購入だ。


 結果から言うと、成果はまずまずだった。ただし、最良ではない。

 取引における金額の攻防は、いわば無言のルールであり、売り手と買い手の力量を量る場であり、コミュニケーションと情報のやりとりである。

 お互いが指標となる金額を知っていることを前提に落としどころを探る行為だ。

 ミリアの金銭感覚は日本人だったゆりかのもので、そこでは値段交渉などなかった。そのため、ミリアは余計な気苦労を背負うことになった。

「情報代だと思えば良いのだ」

 グランは簡単に言うが、ミリアが最良に至るまではまだまだかかりそうである。



 疲れ果てたミリアはグランと共に神殿に帰り、厨房の一部を借りておやつ作りの指示を出していた。

 昨日、甘味として食べさせてもらったクレープもどき。あれをもう少し美味しくできるのでは、とミリアが考えたせいだ。久々の甘いものにテンションが上がったが、不満が無かったわけではない。生地が粉っぽく、柔らかさが足りない。

(ちゃんと粉をふるって、ダマにならないようにするだけでも違うと思うんだけど。あと、卵も混ぜるだけでなくて泡立てて空気を含ませたらいいんじゃないかなあ)

 あちらのような器具は無さそうなので、そのあたりは初級魔法の応用でなんとかできそうだ。そんなことを前世のことに触れずにグランに言ったところ、試してみようとなり、一番頼みやすい神殿の厨房に話を通すと、今月の厨房担当の神官が乗り気になったため、ミリアは指示するだけ……となったのだ。

 風魔術で粉をふるい、水魔術で卵を落としたタネを攪拌。そこに山羊の乳を少量加え、気持ち塩を振った。焼いた鉄板の上に生地を流して表面に穴があいてきたらひっくり返す。そう、甘くないホットケーキだ。さすがに砂糖やバターは高額すぎて使うわけにいかなかった。

 さっそく、グランも含めて試食する。もちろん蜂蜜をかけて。

(まずまず成功、だと思うんだけど)

 口当たりがふんわりと舌ざわりもなめらか。一口食べてみて、周囲の反応を窺ったミリアが見たのは、とろけるような顔をした面々だった。



 ホットケーキもどきの成功は、誰よりもグランを喜ばせ、そしてミリアへの好感を随分と上げたようだ。引き続き、快くミリアに色々便宜を図ってくれるという。神殿からの紹介ではなく、個人的な友誼でと言ってくれた。

「さて、そろそろどんな商売をするつもりか話してくれるかな?」

 ミリアは自室の居間に招いたグランに対して頷き、そして修復について話すために口を開いた。

ミリアは甘いお菓子に無縁でしたし、ゆりかは料理もお菓子作りもふんわりとした知識しかありません。自主的にはあまりやって来ず、お手伝い程度。それでも料理関連はテレビや動画でも見たりしていたのでミリアよりは頼れます。ミリアの村での料理も、野菜は煮る、肉は焼く程度。もしくは全部一緒に煮てスープにするのが精々でした。パリアントには醤油はありませんが魚醤があるので串焼き肉にも使われています。

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