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壊されたモノ修復します  作者: 高瀬あずみ
第三章 北都パリアント(前)

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 部屋に入ると、ラクサが立ち上がって迎えてくれた。そしてミリアの様子を見て、その瞳に楽しそうな色がよぎる。

「さあ、席にどうぞ。女の子のお客様は久々だが、春を連れてきてくれたね。食べながら色々聞かせてもらいたいな」


 何人もが一緒に食事できそうな机の上には、中央の一部だけに布がかけられ、その上に皿が並んでいた。平たいパン、具沢山のスープ、そして何かの肉を焼いたものだ。村人からすれば大ご馳走と言っていい。パンはイースト菌の入っていないタイプで、この世界ではスタンダードなものだ。柔らかくもさして味が良いわけでもないが、主食としての役割は果たしていた。ほとんどの味付けが塩のみだが、スープは野菜の旨味が溶け込んでいたし、肉は柔らかかった。


 ラクサは見た目よりも随分健啖家のようで、彼女の前の皿はすぐに空になった。ミリアはまだその三分の一も食べられていない。マナーの心配は、思ったほどではなかったが、普段木のカトラリーしか使わないミリアの手に銀は重かった。


 食事中も会話はして良いらしいのでミリアはまず部屋替えを頼むことにした。

「ああ、それは諦めてもらおう。神官がメダルを預けるに値すると判断した方は、神殿にとって特別な存在なのだ。何故ならメダルの授与は、ちょっとした好意であったり、他者におもねるためには使えない。渡す神官が命をかけても良いという相手だけが選ばれるのだ。そんな相手はそうそう現れないからね。一番良い部屋を使ってもらうのは当然なのだよ。好きなだけ滞在して欲しい」


 前世の快適生活に比べれば、広さ以外は落ちるとはいえ、こちらで村娘として生まれ育ったミリアにはどうしても遠慮が出てしまう。しかし立場や費用などからはありがたくて涙が出そうなのも本音。子供なんだから素直に甘えちゃってもいいのではないかとも思う。ただ、出来ればもう少しランクを落として欲しいとより一層ありがたいのだが。


 途方に暮れるミリアに果実酒を傾けながらラクサは目を細める。

「ところでミリア嬢、あなたのその衣装はとても可愛らしいな。色もきれいで、意匠も風変りだ。どちらで仕立てたものだろう?」

「ありがとうございます。あの、これは自分で染めて縫いました。……もしかして、おかしいでしょうか?」


 ミリアは前世の感覚のまま作ってしまった自分の服が、受けいられないデザインかもしれないなどと思いもしていなかった。急に不安でいっぱいになる。

「いや? 可愛らしいし、好ましいと思うよ。実家の侍女たちが見たら、きっと目の色を変える。ミリア嬢はお針子になりたいのかな?」

「あの、服や小物を作るのは好きなんですけど……」

「もしよければ見習い先を紹介しよう。何だったら私の実家でも歓迎されそうだ」


 これは自分の能力を告げるのに丁度のタイミングだ、とミリアは覚悟を決めて、ラクサの目をまっすぐに捉えた。


「あたしがなりたい、なろうとしているのは、修復師です」


 耳慣れない職業にラクサは訝し気な声を上げる。

「修復師、というのは聞かぬ職業だな」

「えっと、多分あたし以外にはいないと思います」

「ふむ。説明してもらっても?」


 知りたい、知りたいと言葉として聞こえそうな熱意が向けられる。背筋を伸ばした姿勢も、酒器を持つ指先まで美しい人は、何よりも『知る』ことに情熱を傾け、その瞬間こそもっとも輝ける人であるということがミリアに伝わってきた。


「はい。あたしには他の人にない能力があります。壊されたものを修復して元に戻す力です」

「古いものを補修するのではなく?」

「壊される直前の姿に戻せます」


 旅の間にミリアは修復のレベルを上げると共に、出来ることできないことを調べ続けてきた、その結果、最初に判明したことから内容に変化がみられる。


1.小物しか修復できない。

2.食料は修復できない(水瓶の中の水も同じく)。

3.自分で壊したものは修復できない。

4.修復する数には限度がある。


 だったものが、


1.能力レベルによって一定の大きさのものまで修復できる。

2の食料に関しては変わらず、修復は不可。薬なども同じく。

3の条件は前提として絶対。

4の限度はレベルの上昇による。


 となり、新たに判明したことが続く。


5.修復は壊される直前の姿に戻す。

6.修復は指定の範囲によって結果が変わる。

7.一旦修復したものを任意でキャンセルできる。ただし一度キャンセルしたものは二度と修復できない。

8.『壊された』原因は人間や動物によるもの以外、天災などの自然被害も含む。



 5については、あくまでも「修復」であり、新品の状態になることはない。

 6に関しては、例えば目の前に破壊された家があるとして、『家』そのものを修復した場合、内部にあった家具や中身は対象外になる。また個別に『扉』だけ、『窓』だけ、といった修復も可能。ただし、一旦部分修復した場合は、そののちに全体を修復することは出来ない。

 7は偶然不要なものを修復した際に判明。

 8も長雨で破損した橋で確認。



 パリアントまでの旅路は、ミリアにとって得るものが大きかった。ミリアが望んだ力とはいえ、マニュアルがあるわけでもない。手探りでひとつひとつ確認するしかなかった。そしてこの能力と、基本スキルで与えられた鑑定とアイテムボックスとの相性も良かった。この能力を望み、資格ある転生者に付与できるよう働きかけてくれた先人たちには感謝しかない。




「にわかには信じがたいが、嘘をついているようには見えぬな。その能力を見せてもらうことは出来るだろうか?」

 蜂蜜色の豊かな髪をかき上げながら、神官長は身を乗り出してきた。目の前の美貌に圧倒されつつ、ミリアは頷く。

「何か壊れたものはありますか? ただ、ラクサ様が壊されたものは修復できません」


「ふむ。そうだな……」

 ラクサは立ち上がって自室を眺め、ひとつ頷いて棚へと向かった。彼女はそこから壊れ物を扱うよう丁寧な仕草で何かを取り上げた。

「これは代々この神殿に伝わる物だ。私が受け継いだ時には既にこの状態でな。力は感じられるのだが、元の形も、どのように使えるのかも分からない代物だ。ミリア嬢がこれを修復できるのであれば、何を置いてもお願いしたい」

 ミリアは神官長の許可を得て、差し出されたものに触れる。それは何か青い石の破片だった。

(これって何だろう。よし、まずは『鑑定』っと)



名前:叡智の鏡(グラトリア女神よりの賜りもの。ルトヴァの聖遺物。神器)

材料:天の碧星


「へっ!?」

 思わず変な声をあげてしまったミリアに、神官長はいぶかしげな視線を向ける。

「どうかしたか?」

「あ、大丈夫です、少し集中させてください」

(うわぁっ、ちょっとこれ、凄すぎるんだけど! あ、でもいけそうな感じ。よし、やろう!)


「修復!」


 その破片に触れながらミリアは力を発動する。これまで修復してきたものとは質が違うのが分かる。急激に血が逆流する感覚に襲われながらもミリアは集中を続けた。


 と、ミリアの手にあった欠片が部屋を染めるほどの強い青い光を放ち、光が収束した後には手鏡のようなものが姿を現した。柄や土台は、ゼウラから貰ったメダルが変化したのと同じ、銀青色。そこにはめ込まれているのは平たく丸い透明感の高い青いガラスのように見えるが、おそらくは宝石。ミリアの小さな手にはあまりにも重く、そして自ら淡く輝いていた。


 ガタンと、大きな物音と共に椅子を蹴立ててラクサがミリアの前に跪いた。差し出される手にミリアが手鏡を渡すと、血の気を失った顔で、自分の手の中で輝くものを凝視していた。かすれた声が神官長から漏れる。

「伝説の……ルトヴァ様の鏡……」


 そう呟いたきり沈黙したラクサを前に、ミリアはどうしていいか分からなくなった。しかも身体中から力が抜けていく。

(あー、これはマズいよね、ちょっとこのままじゃ椅子から落ちる……)

 思っても意識が遠のきそうなのを止めることはできず、身体が勝手に倒れていく。

 と。


「ミリア嬢!」


 柔らかな腕に支えられて、ミリアの意識は浮上する。気が付くと、跪いたままのラクサに抱えられていた。

「あ……すみませ……」

 慌てて身体を起こそうとすると、逆に強く抱きしめられた。

「無理をさせたのはこちらだ! これ程のものを! これ程の……っ!」


 ぱたりぱたりと、水滴がミリアの頬に落ち、見上げると美しいひとが涙を流していた。

 喜びの涙を。

ようやく久々に修復…

ラクサ様は実は可愛いもの好き。子供も好き。

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