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壊されたモノ修復します  作者: 高瀬あずみ
第三章 北都パリアント(前)

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 ちょっとした部屋ほどの厚みのある外壁を抜けて街へと進んだミリアは、目に入った異様な光景に飲まれて立ち止まってしまった。

 左右に広がる街並み、本来ならばぎっしりと建物が並んでいたであろうそこは、見事に左右で明暗を分けていた。元通りの街並みの残る右側と、ほぼ壊滅状態の左側に。


「わりととんでもないだろう?」

 隊長は濃いめの顎鬚を撫でながらミリアに並んで街へと視線をやった。

「うちは辺境伯のお膝元だから、兵士の数も多いし質も高い。魔王軍の攻撃にも立ち向かって、街の全滅は防げたんだよ」

 今は復興が始まったばかりだという。


「街の人たちは無事だったんですか?」

 母の実家のことは後でまた考えようとミリアは頭を振って、大柄な隊長を見上げた。

「まったく無事とはさすがに言えんが、魔王軍の本隊とぶつかった割には被害は少ない方だろう。もちろん、死んだ者、怪我を負った者もそれなりの数がいる。だが、元々ここは国境線が近いから、隣国との小競り合いも当たり前だったりするんで、復興するのも早いだろうよ」


 人間相手でも魔物相手でも、ミリアが戦いというものに強い忌避感があるのは、前世の記憶のせいかもしれない。もしかしたら、この北都の住人とは相いれないものもあるかもしれない。それでも誰だって失いたくないものはあるはずで。命は無理でも思い出の物くらいは取り戻す手助けはできるはずだ。だからまずはーー。


「まず神殿に行きたいんですけど、グラトリア様の神殿は無事ですか?」

「グラトリア女神の神殿は元から街の右端にあったから無事だ。神官たちが左側まで行って治療や保護なんかしてるがな」


 この街ではいくつもの神々の神殿があり、街のあちこちに建てられていた。中でも最大規模なのが、戦いと鍛冶の神エンシャルプの神殿だ。戦いの前にはエンシャルプ神に仕える神官に鼓舞のための神聖魔術を受かるので、自然と寄進も多く、立派になったのだそう。今回も鼓舞を受けて防衛に成功したが、街の中央部にあった神殿は半壊の憂き目にあった。

「あそこは神官も戦うからな。下手な兵士よりよっぽど強くておっかねえぞ」

 どうやらトラフ町のゼウラ神官とはかなり様子が違うようだ。やはり仕える神の影響が大きいのだろう。

 隊長に神殿の場所を聞いたミリアは礼を述べて街の中を歩きだした。



 外壁の外に集落を作っていた避難民も数は多かったが、街の中はもっと人が多かった。しかも誰もが慌ただしく道を行きかい、小さなミリアは巻き込まれぬよう道の端を進む。眺める人の大半が剣などの武器を下げている。それは兵士でない一般人らしき人たちも同じだ。この街の近くには鉱山もあったはずで、まさしくエンシャルプ神のお膝元の様相である。


 住民の多くが背が高く、灰色の髪が目立った。母の髪色と同じだと思うと親しみも沸く。編んで垂らしたミリアの髪は彼らのものよりも明るい。丁度、父の薄茶の髪と混ざったような色目で、村でもそうだったが、この街でも目立つことはなさそうだった。


 石の他にレンガも多く使われた三階から五階建ての建物が並び、さすが領都だとミリアは感心しながら歩いていたが、それはただの村娘にしては落ち着きすぎていた。人の数も建物の様子も村娘であれば見たこともないものばかりである。だが高層ビルも通学時のラッシュも記憶のあるミリアは、ヨーロッパの古い街を観光しているような気分になっていた。前世では海外旅行も無縁な高校生だったが、テレビや映画、本やネットからの情報は多い。

(スマホかカメラが欲しい)

 珍しい風景はそう思わされるが、同意してくれる人はこの世界にはいないだろう。


 ミリアが歩いているのは街の右側なので、戦いの傷跡は見えない。大きな通りでは露店も並び、美味しそうな匂いも漂ってくる。自然、ふらふらと露店に寄っていきそうな足を叱咤して、ミリアは神殿を目指した。

 村を出てからこれまで、ミリアは貨幣を使っての売買を経験していない。父の残してくれたものと荒野の死者から拝借した金銭はあるが、所謂小銭ばかりで、物価も知らずに無駄遣いすることはできなかった。


 この世界で共通で使用される貨幣はバースという。十進法なので計算は容易だ。一バース貨が十枚で十バース貨に、百枚で百バース貨。五百枚で五百バース貨……ととても分かりやすい。ここまでが少額貨幣、銅貨だ。千、五千、一万は銀貨になり、それ以上は金貨になるが、銅貨銀貨はともかく、ミリアはまだ金貨を見たことはない。




 一時間近く歩いて、ミリアは目的の神殿に辿り着いた。そこはトラフ町の神殿を大きくしたような石造りの建物で、天井は見上げるほど高い。


 中を覗くと、忙しそうに働く人たちの姿もある。皆、簡素で長い衣装を身に着けており、全員が神官なのか違うのかミリアには判断がつかなかった。

 神殿は神聖なところだからと、外で軽く埃を払うと、ミリアは神殿に入ることにした。勇気の出ないまま入り口に居続けることも、誰かが気が付いてくれるまで待つことも、どちらもきっと迷惑だ。


「あのう、すみません」

「はい、グラトリア女神の神殿へようこそ。御用は何でしょうか」

 誰ともなく呼びかけようとしたミリアは突然背後からの声に慌てて振り向いた。


 その人物は灰色の長く伸ばした髪を背中で一本に編んで垂らし、長衣をまとった二十歳前後に見える男性だった。穏やかな表情はゼウラとよく似ている。

「あの、あたし、ソラス村のミリアといいます。こちらにはお願いがあって来ました」

「神聖魔術がお望みですか?」

「そうではなくって、あたし今日この街についたばっかりなんですけど、とりあえず宿を紹介して欲しいと思って」

 ミリアは服の中からゼウラからのメダルを引き出して彼に見えるよう掲げた。


「おやこれは……。少し失礼しますね」

 彼もまた神官なのだろうとミリアが確信したのは、メダルに触れることができたからだ。彼はメダルの裏を向けて刻印を読み上げる。

「ゼウラ様ですか。これはまた懐かしい名前です」

「神官さまはゼウラ様をご存じなのですか?」

「はい。私がまだ学生の頃に教わったことがあります」

 言葉通りに懐かしさの滲んだ表情を浮かべた彼にミリアは安堵する。共通の知人がいるというのは、相手との距離が近くなるものだ。


「これを与えられたあなたは、我らが神殿の賓客。どうぞこちらにお越しください。ああ、申し遅れました。私の名前はシロエスと申します」

 シロエスに導かれて、ミリアは神殿の奥へと連れていかれた。

ようやく貨幣の話がかけました。

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