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壊されたモノ修復します  作者: 高瀬あずみ
第三章 北都パリアント(前)

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 廃墟となったトラフ町を出て、ミリアは北に向かう。山の麓を通り、川を渡って。


 不本意ではあったが、決して進みにくいわけではなかった。魔王軍の行軍を逆に辿るようなルートだったため、大軍を通した跡には遮るものすらなかったからだ。

 踏みつけられ、薙ぎ払われた草木。一体どんな姿なのか想像もつかない程大量で異形の足跡。時折出くわす獣だったり人だったりしたものの残骸。

 物理的には拓けて迷いようもないのだが、精神的には気が休まらなかった。



 魔王は、数百年に一度、世界のどこかに現れる。

 それと時期を同じくして、世界の至る所に魔物が現れる。はじめは個々で暴れていた魔物たちは、やがて魔王の元へと集結し、大軍となる。それが、魔王軍だ。


 魔王軍はあらゆるものを蹂躙しながら進む。進む先は人口の多い所が選ばれるようだ。各国の王都や大きな街のような。その途中にある町や村はついでのように潰されていく。

 魔物は人を食らう。獣も食らうというが、より人を好むらしい。


 魔王が現れると、勇者が指名され、勇者に準ずる仲間も選ばれる。彼らの存在は、神々からの神託で明らかにされ、加護を受け、魔王を討つために立ち上がることになる。

 人を超える存在である勇者たちは強大な力を持つが、魔王軍を破るには数が少なすぎる。そのため、騎士が、兵士が、傭兵が、冒険者が、あらゆる戦える者たちが国を超えて集い、手助けすることになる。


 勇者とその仲間は、魔王とその幹部を倒すことを使命とする。倒せるのは彼らだけ。

 魔王が存在する限り、魔物は湧き出すが、魔王が討伐されると同時にすべての魔物は消え失せる。

 それが、この世界の摂理だった。


 ミリアが感じたように、この世界の文明はそれほど進んでいない。発展する先から魔王軍が現れて破壊していくからだ。

 今回、魔王が現れてから討伐されるまでにかかったのは一年余。異例なほど早かった。そのため、魔王軍の数も、破壊された都市も少なかったらしい。最終決戦地にミリアの村が接する、人の住まない荒野へと魔王軍を誘導できたのも被害を抑える要因になった。


 ミリアの村やその周辺では、これまで魔物はほとんど現れず、普段と変わらぬ暮らしが続いていた。勇者と魔王のどちらもが遠い存在で、まさか自分がその戦いの決着を目にすることになるとは夢にも思っていなかったのだ。


 魔王が倒されてすぐ、各地の神殿に神託が伝わり、人々は魔王軍の消滅を知るのだが、それでも生き延びた者たちが抱く恐怖が完全に消えるわけではなかった。

 戦場で戦っていた者たちを除くと、それを見ていた一般人はミリアひとりだった可能性が高い。だがそのミリアであっても、魔物の痕跡を前にすると、まだどこからか出てくるのではという恐怖から逃れられないのだから。


 日中はほとんど休まず、夕刻になると行軍跡を外れた場所で野営する。そんな日々を半月ばかり過ごして、ミリアは当初の目的地、北の都とも呼ばれる辺境伯エフリーンの治める領都パリアントに辿り着いた。




「ステータス」


氏名:ミリア

種族:人間

性別:女

年齢:10歳

職業:修復師

レベル:35


基本スキル(転生者限定):鑑定、アイテムボックス


 トラフ町にいた間に、町のあちこちで能力を使用したせいか、ミリアのレベルは随分と上がった。今ならばかつての自宅丸ごとでも修復できるのではと感じる。ただし、家具は別だ。


「あたしは、この力が欲しいと思った。父さんと母さんの思い出の詰まったものを取り戻すために。でもこの街の人たちはどうだろう」

 パリアントの外壁を遠くに見ながら、今更ながらに不安がふくらんでいく。

「とりあえず、行って様子を見るしかないよね」


 遠くからも目についた外壁は、間近では見上げるほど高かった。前世によくあった5階建てのビルくらいだろうか。だが、その壁はあちこちが崩されており、壁の外には避難してきたらしい人たちが疲れた表情で列をなしていた。その一方で、列に並ばず板や布で簡易の小屋を作って蹲っている大勢の人たちもいた。煮炊きの煙が所々あがり、集落が形成されている。


 ミリアは列の最後尾に近づき、前に並んでいる人のうち、女性を選んで話しかけた。

「すみません、街に入るのにはここに並べばいいんですか?」

「ああそうだよ。って、あんた、ひとりで来たのかい!?」

「はい。ここに伯父さんがいるはずなんです」

「伯父さんの名前は分かるかい?」

「知ってます」

 やりとりを聞いていた周囲も口をはさんできた。どうやら疲れてもいるが退屈もしているようだ。

「身内がいるっていうなら、入れてくれるんじゃないか」

「いや、名前を知ってる程度じゃだめだろう」

「もし手形みたいなのがあれば並ばず入れるんだが」


 旅をする人間の身元保証のため、手形と呼ばれるものが発行される。たいていは領都のような大きな街に地元からの紹介状が届いて作成される。だが今は肝心の領都に入れず、着の身着のまま避難してきた人たちに発行できる状況ではなかった。


「あの、手形持ってたら、ここに並ばなくていいんですか?」

「おお。ほら、この列の右の先に兵士が立ってるから、そいつに見せればすぐ入れる」

「ありがとうございます。行ってみます」

 頭を下げてミリアが移動しようとするのを周囲は慌てて止めた。

「お待ちよ、ただの書き付けとかじゃだめだよ」

「ちゃんと手形の代わりになるもの持ってます。ダメって言われたらまたこっちに戻ってきますね」

 識字率の低いこの世界では、書き付けを渡されたところで何を書いているか読めない者が大半だ。それをいいことに、適当なことを書いた板を手形だと売りつけるような輩もいる。

「そう言ってたのに、結局偽物だったって戻される奴も多いんだぞ」

 ミリアの場合、字が読めるから騙されることはないのだが、心配してくれたのが分かるので、あえてそんなことは言わずに手を振ってその場を離れた。


 教えられた通り、兵士を探してミリアは近づいた。

「すみません、ソラス村のミリアと言います。こちらには伯父を訪ねてきました」

 兵士の方に来る旅人は余程少ないのだろう。ミリアの前に待つ者はいなかった。

「お嬢ちゃん、こっちは手形を持ってる人用だよ」

 やれやれとか、またかとか、面倒だとかの心の声が聞こえそうな態度の兵士に、ミリアは神官からもらったメダルを服の下から引っ張り出して見せた。

「これはトラフ町の神官、ゼウラさまから託されました。手形の代わりになるはずですよね?」

 メダルを覗き込んだ兵士は、首を傾げる。

「たしかにゼウラって名前あるな。ちょっと貸してくれる? 上に確認するから」

 兵士がメダルを掴もうとすると、まるで手品のように手がすり抜けた。

「はあっ!? なんだこれっ」

 ムキになって何度も空振りする兵士が段々気の毒になったミリアは遠慮がちに説明を始める。

「えっと、神聖魔術がかかってるので、あたし以外は触れないみたいで……」

「神聖魔術って、待てよ、おいっ」


 騒ぐ兵士に気付いたのか、兵装に飾りのついた人が現れて、拳骨を落とした。

「何騒いでんだ、お前は」

「隊長、これ、触れなくて、神聖魔術って」

「ちゃんと話せ、なんだその子供みたいな話し方は」

 隊長と呼ばれた人物はミリアが掲げたメダルに目をやって感嘆の声を上げた。

「おい、こりゃ珍しい。神官の銀貨じゃないか!」

「隊長、知ってんですか?」

「おう。こいつはな、持っている人物を五位以上の神官が保証するって意味があるんだよ。本来の持ち主が認めないと触ることもできない代物だ。下手な手形よりずっと信用できるんだが、まああんまりお目にかかれるもんでもないな。嬢ちゃんはよっぽどこの神官殿に信頼されたとみえる」


 隊長は、ミリアの頭を撫でて、芝居がかった一礼をしてみせた。

「ようこそ、北都パリアントへ。あなた様の来訪を歓迎いたします」

 そう言って、にやりと笑って街へとミリアを押し出した。

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